地味で大真面目な令嬢といえば
「キャルよ、嬉しいじゃないか!飽き飽きしていた女性との時間が潤いそうだぞ!!」
どうやら負けたのはサナリス伯爵令息。
「今までキャルが遊んでこなかったような令嬢がいいね。」
「だったら真面目な令嬢かな。」
サナリス伯爵令息が笑いながら注文する。
「確かにキャルって真面目そうな令嬢に縁ないね。」
「キャルが絶対に失敗しそうなクソ真面目で地味な令嬢が良い。ただ貴族に罰ゲームなんて面倒なことになったら不味いから、準男爵令嬢あたりがいいだろうな。」
暇を持て余したような貴族の行き過ぎた賭けに、寒気がした。
平民同士でも悪趣味だと思うのに、高位貴族がだなんて、品がないにも程がある。
「あ、居るじゃねえか。今年から同じクラスになった準男爵令嬢のさ。」
……んん?
「今年から同じクラスの男爵令嬢?」
と、サナリス伯爵令息
「準、男爵令嬢だよ。」
と、キンクス侯爵令息
まさか……
「いつも隅っこで本読んでいる……なんて言ったか。準男爵令嬢で高位貴族のクラスに全然馴染んでない地味な令嬢。」
「カザン準男爵令嬢だね。」
ちょっと待って
「おいおい、絶対断られるに決まってるだろう!真面目を絵に描いたような大真面目令嬢じゃないか。俺の初めての告白だってのに!」
サナリス伯爵令息が大笑いしだすと皆も笑い出す。
「だからいいんじゃないか。『ちょっと真面目』位の令嬢じゃ賭けにならないよ。」
「ははは!おもしれえ!あの稀代の色男サナリス伯爵令息が勇気を出して初めての告白で大失敗!」
「誰が大失敗だって?」
掠れた声が低くなる。
「そうだろうが!あんな影の薄いクソがつく程の真面目令嬢がお前みたいな派手な男に告白されてどんな反応を示すのかすら見ものだってのに、付き合いを了承するとは思えない!」
「言ったな?じゃあ、うまくいったらどうするんだ?」
「夏の長期休暇の間の課題、やってやるぜ。」
「よし乗った!」
「おいおい。失敗すればキャルは3人分も課題をやる事になるんだよ?」
やんわりキンクス侯爵令息が言うも、もう後には引けないらしいサナリス伯爵令息は力強く返事をした。
「ああいいぞ。さあ、そうと決まれば明日決行だ!見ておけよ?」
いきなり巻き込まれた私は開いた口がふさがらない。
「キャルよ、とは言えどうやって呼び出すんだ?俺たちが話しかけたら目立つぞー?準男爵令嬢相手とはいえ罰ゲームはこっそりやりたい。だろ?」
デパージ子爵令息が言うと、考え込むような沈黙が落ちた。
「確か……カザン準男爵令嬢といえば図書委員だったはずだ。放課後この辺で待ってれば向こうからやってくるんじゃないか?」
さすがは高位貴族……名前さえ合致すれば誰がなんの委員をやっているのかちゃんと頭に入っているらしい。
漠然と現実逃避のような事を思う。
「あー楽しみだなぁ。上っ面に騙されて令嬢達は皆気の毒だなあって思ってたんだよ。キャルよ、一回くらい振られろ!」
「あー楽しみだなぁ。大真面目令嬢までも俺の魅力にやられるところをみせてやれるんだからなあ!」
そこでまた皆でゲラゲラ笑い出した。
何が面白いのだか。
(明日は図書委員休んでやろうかしら。)
そんな気持ちが湧くも、こういう悪戯は実行するまで止まらない。
どうせその翌日に延期されるだけだ。
それなら、あちらの期待通り振ればいいのだ。
いいわ、明日ね。
さっさと済ませてもらおう。
そうして次の日の放課後。
図書館に向かうと特に誰もいない。
もしかして嘘の告白だなんて悪趣味だと気づいてくれたのかしら。
ホッとした時だった。
「カザン準男爵令嬢」
油断した時に後ろから声をかけられビクリと肩を震わせてしまった。
恐る恐る振り返ると、思った通りの人物が立っていた。
「少しいいかな?ご令嬢。」
学園のご令嬢達が見たら眩暈がしそうなくらいの麗しい笑みを浮かべたサナリス伯爵令息が立っていた。
馬鹿な期待をした自分に思わずため息が出そうになったが、何とか飲み込んだ。




