罰ゲームと告白ごっこと私
(しまったわ。)
放課後の図書館の書庫、いつものように本の修復をしていると彼らがやってきた。
ちょうど集中力が途切れた時だった。
こうなるともう、彼らが帰るまでは気が散ってしまう。
仕方なく休憩を取ることにした。
作業台から離れ、部屋の片隅にあるテーブルセットに座り背もたれに体を預け息をついた。
でもこうしていると嫌でも会話が耳に入る。
今日もカードゲームをするらしい。
「今日は何を賭ける?」
「んー今特に課題もないしなあ。」
「ゲームしながら考えればいいよ。別に必ず何かを賭けなければいけない訳でもないし。」
「それもそうか。」
最近彼らは賭けゲームをしている。
賭けるものは課題だったり、頼まれ事だったり、他愛のないものなのだけれど。
「キャルよ、お前最近令嬢を連れてないな。とうとうお前の色男っぷりもここまでか?」
武芸に秀でている人に相応しくハキハキと話し出したのはデパージ子爵令息。
「そんな訳ないだろう。この間も伯爵令嬢にランチに誘われた。うん?これちゃんとカード混ぜたか?」
少し掠れたような低い声はサナリス伯爵令息。
「お前のカードが悪いだけだろ。でもその令嬢とランチしかしてないらしいじゃねえか。その前の令嬢もそうだったって聞いたぞ。」
怪しむようにデパージ子爵令息が言う。
「ランチだけだって?デートしていないの?女泣かせのキャルの名が廃るじゃないか。」
中性的な見た目を裏切らないおっとりとした喋り口はキンクス侯爵令息。
「勝手にふたつ名つけるなよ。──でもさ、そろそろ令嬢達に騒がれるのも飽きないか?」
サナリス伯爵令息が随分なことを言い出した。
「うーん。」「まあ、わからなくもないが。」
2人は曖昧に同意する。
「さすがに中等部から今年で5年目だ。」
「令嬢と遊ぶのはもう飽きたって事かい?」
「キャルよ、まさかとうとう令息に目覚めたのか。」
「何でだよ。それとも相手して欲しいってお誘いか?」
「それこそ何でだよ!」
一斉にゲラゲラ笑い出す。
ああ、今日も悪ふざけが始まったわ。
こうなると聞いていられないのよ。
何とか気を逸らそうと本を手に取った。
「ああ!いいこと思いついたぞ!このゲームに負けた奴は指定したご令嬢に告白するってのはどうだ!」
まるで名案のようにデパージ子爵令息が言った。
思わず私の本を開く手が止まった。
聞けば、彼らに絡んでこない脈がなさそうなご令嬢を1人選び、告白をして返事を楽しむという企画らしい。
(あきれた)
女性に飽きたのなら、別のことをすればいいだけだというのに、どうしてまた女性なのか。
(この人達、本当に貴族か疑ってしまうわ)
私がそう思ってしまうのはこのゲームを知っているせいだろう。
告白ごっこ
平民の学校に通っていた時に流行っていたいたずら。
愛の告白をして相手の反応を楽しみ、その後嘘だと打ち明ける。
大変悪趣味で下品な遊び。
それを貴族がやるだなんて!
こんなくだらない話ばかりしているから、こんな学校の図書館の廊下の隅なんかでコソコソしなくちゃいけないのよ。
最初こそ誰かの家でやればいいのにと思っていた私だけど、今ならわかる。
彼らともなれば、誰の目もないところで話などできないのだろう。
それに彼らがしょっちゅう互いの家を行き来すれば目立つ。
話の内容はこんなに下品なのだから、学校の中でかつ人目のつかないここが最適なのだ。
悪趣味な罰を賭けたゲームはおおいに盛り上がっているらしく、夢中の様子。
(ああ、たかが準男爵令嬢がこんな事知ってしまっても、どうしていいのかわからない……)
本を弄びながらぼんやり考えていると、歓声が上がりビクリと私は肩を振るわせた。
どうやら勝敗が決まったらしかった。




