キャルとパタヂャカ
まいったな……
入学式が行われる講堂に先生に付いて移動している時だった。
1人の令嬢に話かけられ立ち止まると、あっという間に令嬢が2人になり5人になり、気が付けば囲まれていた。
先生は俺が後ろからついて来ていない事を気づかぬまま講堂に入って行ってしまった。
矢継ぎ早に話しかけられるパタヂャカ語。
一人一人話せば聞き取れるが、こうも次から次から話しかけられると何を言っているのかわからない。
とにかく講堂に入りたいというべきか。
そう思い、とりあえず微笑むと黄色い歓声が上がった。
結局俺の声はかき消される。
どうしたものか
ようやくそこで講堂から先生が戻って来てくれた。
おかげで令嬢たちから解放される。
ホッと一息ついたその時だ。
ビュウと強く風が吹いた。
冷たいその風は砂をも舞い上げ俺はたまらず目をつむった。
目を開けた時
まるで時間が止まった様な錯覚に陥る。
風に向こうにいたのは……
あの子だ
あの子がいる
俺がずっと恋焦がれてやまなかったあの子が
射抜くような強い黒い瞳をこちらに向けて
俺は衝動的に口を開くも何も言葉にならず、はくはくと動いただけだ。
………………情けない
不甲斐なさに顔に熱が集まり出した。
「どうして…」
彼女は小さく呟いた
でもなぜかはっきり聞こえる。
「あなたがここにいるの……」
言わなければ。
今だ。
今だって。
ごくりと唾を飲む。
そう思うのに、顔に集まった熱はどんどん熱さを増してゆく。
伝えたいことは沢山あるはずなのに何も出てこない。
射抜くような目から逃げるように目を逸らしてしまう。
誤魔化すように風で乱れた前髪を直して「それは……」と口ごもってしまう。
ああまただ。
彼女を前にするとまた頭は真っ白。
どうしたら良いのかわからなくなる。
「ねえ」
震える声にハッと顔を向ける。
彼女は今にも壊れてしまいそうなくらい顔をくしゃくしゃにしていた。
ああ
綺麗だ
こんな時だというのに、そんな顔は初めてみたと、見逃したくない思いで凝視する。
真っ白だった頭の中はたちまち彼女でいっぱいになる。
そんな俺の想いなど知ってか知らずか、彼女は切羽詰まったように口を開いた。
「言ってよ……っ」
「好きだ!」
考えるより先に口が動いた。
口に出した勢いのまま彼女に手を伸ばす。
届かない距離に勝手に足が前に出ていた。
彼女の腕を引っ掴む。
驚きをたたえた黒い瞳。
俺は呻いた。
何度夢に見ただろうか。彼女の黒い瞳を。
何度夢だと気付いて絶望しただろうか。
ようやくまた覗き込むことが出来た事に胸が熱くなる。
「君が好きだから追いかけて来たんだ!」
腕を引き寄せて言い切ると
みるみる彼女の黒い瞳は涙でいっぱいになる。
「最初からずっと……君だけが……」
瞳からあふれる様に大粒の涙がボロリとこぼれ、初めてみる彼女の涙に思わずグッと喉がつまる。
掴んだ腕から伝わる懐かしい彼女の体温に、衝動のままぎゅうと抱きしめた。




