あれから一年半 春
パタヂャカは春でも少し寒い。
それでも2度目ともなると少しは慣れてきた。
私は高等部を卒業し、その上の学院に入学する事になった。
一年半前、冬が来る前にとバタバタと国を出た私。
付き添いでお母様も一緒に来てくれた。
閉山する前にリラに帰って行ったけれど。
私はお祖母様が住む侯爵家の離れに一緒に住まうことになり、お祖母様と気の合う私は楽しく過ごしている。
思い出すのはパタヂャカに到着した日のこと。
お祖母様はお母様に会うなり眉を釣り上げた。
返事くらい待ってから行動に移せとお母様に小言を言っていたが、お母様はどこ吹く風だった。
お母様の弟の侯爵家当主はこそっと「あんな風に言っているけれど、あれやこれや動き回って楽しそうだったよ。」と笑いながら教えてくれた。
確かに部屋もきちんと用意してくれていたし、歓迎の晩餐まで用意されていことを知ったときには私も笑った。
私が来てすぐ学期途中だと言うのに本当に高等部にねじ込まれていた。
お母様は、ね?心配いらなかったでしょう?とあっけらかんとしていたけれど。
もしかしてお祖母様ってすごい方なのかしら……
パタヂャカで暮らし始めてみれば、小さい頃はわからなかったが、実際この国でお母様の実家、シャサダ侯爵家の序列は高かった。
2度ほどパタヂャカに仕事で父親が来た。
忙しそうにしていたが、私には会いにきてくれる。
友達が出来たと知れば嬉しそうにしていた。
そうして今日は学院の入学式。
「ほぼ皆進学するのね。あまり顔ぶれは変わらない感じ。」
「そうねえ。気楽ではあるわね。」
おっとりと返事してくれたのは、幼少期の昔も仲良くしてくれていた伯爵令嬢のカレン。
リラ国では友達はできなかったと言うのに、こちらではあっさりお友達が出来た。
やはり見た目の特徴が同じと言うのは大きいのかもしれない、そんな事を思う。
昔と変わった事といえばパタヂャカも少しは開けた国になっており学年に一人くらいは国外からの留学生がいる。
近隣の国となるとダークブラウンの髪が多く、黒髪しかいないこの国ではどこにいても目についてしまい、どうしても彼らは目立っていた。
パタヂャカの人たちは、山に囲まれているせいで国外に出るのが難しく、その分国外の興味も大きい。
そのせいか、リラ国での私のように遠巻きにされることはなく、入学すればまず囲まれて質問責めにされると言うのが儀式のように行われる。
だけど……リラの国は留学生自体は珍しくなかったから、私があの国で浮いていたのは、やっぱり私の性格の問題だったのかも……
「今年は院に異国から3人入ってきたそうよ。」
「どんな女性かしら。また機を見てお話しさせてもらいましょう。」
女性が高等部の上の学校に入ることができる国はなかなか珍しく、そのせいか院から入ってくる留学生は圧倒的に女性が多い。
「少し寒いわね。早く講堂に入ってしまいたいわ。」
カレンはそう言って少し早足で歩く。
入学式は講堂で行われる。
すると前方から、入学式の手伝いにきている下級生だろうか。
高等部の制服を着た令嬢たちのグループがきゃあきゃあと騒がしくやって来た。
「見た?」
「見たわ!見た!」
「あんな明るい髪色、初めて見たわ!」
「すっごく鼻が高い!!」
「そうそうそう!」
最後は皆声を揃えていた。
その様子にふふと笑ってしまう。
こういう話はだいたい異国から来た留学生の話だ。
「スラリとした手足が……!!」
「美しい立ち姿だったわ!」
「お声が!聞いただけで赤面よ!」
「あの色気……!」
「すっごく素敵だった!!」
だいたいの留学生は、すっごく素敵、と評される。
パタヂャカにない髪色、顔立ち。
それがとても神秘的に映るのだ。
「後で話かけてみましょうよ!」
「笑顔をもう一度見たいわ!」
かしましく通り過ぎると、声は後ろに小さくなっていく。
「少し過剰ではないかしら。」
カレンは楽しそうに笑う。
確かにここまで絶賛されるのは方は珍しい。
でも私は過剰なくらいの評価に負けない人がいることを知っている。
頭に浮かびそうになったものを振り払うように、口を開いた。
「入学式が楽しみね。」
「本当にね。」
びゅう、と冷たい風が吹いたせいでカレンは口を噤んで震え上がる。
そして「急ぎましょう」と言った。
私はその愛らしい様子に笑いながら講堂に急ぐ。
講堂まで来ると少し手前で随分な人だかりができているのが目についた。
「何かあったのかしら……」
カレンが不安気に呟く。
足取りが少し重くなった。
すると講堂から先生が出てきて立ち止まらないよう言っているのが聞こえる。
ようやく群れが少し流れ出した。
「とにかく早く講堂に入ってしまいましょう。」
私が言えばカレンもそそくさと歩き出した。
そこにひとつ強い風が吹いた。
木々がザッと音を鳴らす。
私は目を瞑り髪を抑えて思わず立ち止まった。
目を開ける。
「立ち止まらず、講堂に入るように…………」
横に先生の声を聞き、何気無く先生の方を見た。
え?と息が止まる。
どういうこと……?
目の前の景色が信じられず立ち尽くす。
ジャッキー?どうしたの?早く行きましょう
カレンの声が聞こえる。
でもどうしても前に足が進まない。
崩れ出した人だかりはよくみれば令嬢ばかりだ。
それが先生の誘導で講堂の中に吸い込まれていく。
そして最後に残されたのは…………
なぜ
どうしてここに
ここに
あなたがいるの……




