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真面目令嬢と告白ごっこ  作者: くきの助


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サナリス伯爵家 当主と次期当主  執務室にて

サナリス伯爵家当主執務室。


そこで私と父上は机に向かっていた。

室内にはペンを走らせる音だけが聞こえる。


「今頃どうしていましょうかね、キャルは。」

「知らん。興味などない。」


素直ではないな。

気にはなっているはずなのに。


「本音を言いますと、1年半前は到底無理だと思っていましたよ、私は。」


フン、と鼻で返事をされる。


「1年半だ。あちらで恋人でもできているかもしれまいに。よくもあんな意気揚々と出発できたものだ。」


そこは同感。

あいつは図太い。


「歓迎されるかどうかは五分ってところでしょうか。」

「五分もあるものか。」


フフンとまた鼻を鳴らす。

言いつつも声は機嫌がいい。


どうなっているのかは報告を待つだけだ。

付いて行った使用人にはこまめに報告をする様に伝えている。


「一体どうするのかと思ってましたが……本当に行くとは。我が弟ながら感心しますよ。」


私はあの日を思い出すと忍び笑いをもらした。





一年半前、忘れもしない。

この執務室で私と父親で仕事をしていると扉を蹴破る勢いでキャルが入って来た。


「ジャッキーと結婚した場合の利を持ってきたぞ!」


私は大分と面食らったというのに、さすが父上は変わらぬ様子で執務を続けていた。


「誰だそいつは。それより行儀がなっとらんぞ。」

「カザン準男爵令嬢のジャクリーン嬢だ!」


父上はフンと鼻を鳴らし、目だけを上げた。


「その娘ならもういないであろう。国を出た。今さら利を持ってきたからといってどうするというのだ。まさかお前は逃げられたことも気付いておらぬほどの間抜けだったとでも?あまり笑わせてくれるな!」


笑わせるなと言いながらニコリともしていない。

それどころか眼光が鋭く光る。


側で見ているだけの俺の方が冷えた空気にゾクリとする。

だというのに、その目を向けられているキャルは顔色ひとつ変えない。

飄々とまた口を開いた。


「ああそうだ、俺はとんだ間抜けだった。自分こそ被害者だと憐れんでいたんだからな。でも今は違う。全部知った。訳もわからず頭を抱えて座り込んでいた俺じゃない。ジャッキーが国を出たなら追いかけるだけだ。」


は?


流石に声に出たが父上の声にかき消される。


「ハッ!どうやってパタヂャカに行こうというのだ!行ってどうするのだ!この国にそんな手配ができるものなど一人もおらぬぞ!言葉もわからぬというのによくもまあ!言った度胸だけは褒めてやる!だがお前に何ができるというのだ!どうする気なのか言ってみろ、ほれ、早よ言うてみい!」


ガッハッハと笑いながら父上が楽しそうに言えば、キャルはギリと歯ぎしりする。


「全部自分でなんとかする!そんなことを頼みにきたんじゃない。」


「ではお前は何をしに来たというのだ。」


「言っただろう。利を持って来たんだよ!父上には勝手に婚約の話なんて持って来るなと言いに来たんだ。俺はジャッキーに絶対許してもらうんだからな。」


スと父上の顔から表情が消える。


「勝手なことばかりほざくな。だいだいなんだ、その言葉遣いは。ここはサナリス伯爵家当主の執務室だぞ。わきまえろ。」


「場所なんて知るものか。何が悪い。俺は今息子として父親に頼み事をしに来ているんだ!」


父上は一瞬瞠目した。

だがそれは一瞬だ。


すぐに部屋中震え渡る様な大笑いをしだした。

腹を抱えて、体を揺らし、豪快に笑う。

さっきまでの笑いは作り物だと言わんばかりの笑い方だ。


キャルは本当にこういう……人たらしめ


父上は返事の代わりに「フン」とひとつ言ったきりだったが、そこからは本当に山と来ていたキャルの婚約の話を受けることはなかった。





一年半前のことだというのに昨日のことの様に思い出せる。

私も楽しかったのかも知れないな。


執務に戻ろうとして、ふと聞くともなしに口から疑問がこぼれた。


「カザン準男爵令嬢とはどのような令嬢なのでしょうね。」


「知るものか。どうせ一筋縄ではいかぬ令嬢なんであろう。」


確かに。

あのキャルでも手こずる女性か。


「会ってみたいものですね。」


そう言うとまた部屋の中にはペンの走る音だけが響き始めた。

私は短く息をついて執務に戻ろうとした時。



「フン」


と父上が鼻で返事をした。


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