キャルと図書館
2週間の時間をかけて、俺はようやく現実を受け入れ始めていた。
あの清廉で美しいジャッキーが、何の意味もなく俺にあの態度をとり、学園を休み続けるわけがないのだ。
ようやくおかしいと思い始めたにもかかわらず、一縷の望みを捨てられず、放課後図書館に向かっていた。
こんなところにいるはずもないのに。
だが居なければ思い切って図書の先生に聞いてみる事に決めていた。
図書委員としてどうしているかなら教えてもらえるはずだ。
そうして歩いていて、ハッと身を潜めた。
ニックだ。
ニックとはすっかり話さなくなった。
「ジャッキー」とニックの口から出ようものなら正気でいられない気がした。
下位貴族のニックならなにか知っていてもおかしくない。
ジャッキーと最後に話していたのもニックだ。
でも聞く事はどうしてもできないでいた。
ニックはおそらく図書館の二階に行くのだろう。
バールも後からくるのかもしれない。
そう思い、素早く済ませようとニックの後に図書館に滑り込んだ。
「あら?同じクラスなのに知らないの?彼女準男爵令嬢だからかしら?高位貴族の人は準男爵の令嬢なんて気にしないものね。」
思い切って聞いたにもかかわらず図書の先生はあっさりと知っている事を教えてくれた。
先生は一人で納得し、そのまま続ける。
「退学したのよ。だから来ていないの。」
「退学?!なぜ?!」
青天の霹靂だった。
衝動的に聞き返す。
「さあ。それは私も……長期休暇があけてすぐの放課後は今月の休館日はいつですかなんて聞かれていたのよ。だから本当に驚いたわ。」
休館日……
身に覚えがある言葉だった。
長期休暇あけてすぐのランチでそんな話をした。
放課後デートがしたいって言った俺に休館日を聞いておくって言っていたんだ……。
目の奥がどうしようもなく熱くなった。
でもなおさらわからない。どうしてこうなったのか。
おしゃべり好きらしい図書の先生はこちらの様子に構うことなくあっけらかんと話し続ける。
「本当、律儀ないい子だったわ。仕事も丁寧だったし。あんな放課後の暗くて誰も来ない二階の書庫で、作業を毎日してくれる子なんてもう2度と現れないわ。きっと。」
ギクリとする。
一瞬、自分のことを言われたと思ったのだ。
放課後、誰も来ない二階。
これは俺たちの事だろ?
だが何かおかしい。
自分の話と混ぜて聞いてしまうので混乱する。
でも聞き逃してはいけない気がした。
「作業……?」
自分に関係なさそうな単語を取り上げて聞いた。
すると先生は、ああと声をあげ説明してくれた。
「あの子手先が器用でね。私が本の修復が進まないって話をしたら名乗りをあげてくれてたの。そうしたら予想以上に熱心にやってくれてね。毎日毎日放課後二階の書庫で作業をしてくれていたのよ。たまには一階の貸出カウンターに座ればって言うんだけれど、ホラ、結局図書室なんて誰も使わないじゃない?だから結局毎日、やってくれていたのよねえ。」
二階の書庫って……
二階に部屋は一つしかない。
あとは廊下にカフェスペースがあるだけだ。
俺らが放課後馬鹿な話ばかりしていたあの……
ぞわぞわと身体中から嫌な予感が湧き上がってくる。
「ついつい私も任せっきりになってしまって。だから新学期初日は驚いたわあ!閉館の時間になっても鍵が返っていないから、様子を見に行ったのよ。カザン準男爵令嬢が鍵を返さずに帰るわけないもの。そうしたら机の前でうずくまっちゃってて。血の気が引いたわ!立ってもフラフラしちゃって。それで私が送って行ったのよ。聞けばそこから学園を休んでいたらしいし、退学ってもしかしたら療養のためかしらって思っているのよ。」
まるで水をぶっかけられた気分だった。
最後の方はもう耳に入らなかった。
何も考えられない。
頭が考えることを拒否している。
いや、考えろ。
毎日、放課後、二階で、居たのは俺たちだけではない?
あの二階の書庫にジャッキーがいたとして……
俺たちはいつもどんな話をしていた?
頭を必死に巡らすが全く思い出せない。
ペラペラと軽い話しかしていない。
何かが線で繋がりそうになると急に頭が回らなくなる。
気がつけば俺は二階に駆け上がっていた。




