キャルは可愛さあまって
クソっ
部屋に入るなり壁を拳で思い切り叩く。
ド、と鈍い音がした。
伯爵家の壁は厚く、びくともしない。
スッキリする音がなるわけでもなければ、
まして穴があくこともない。
ド
ド
ド
ドサ
何度か叩きつけたところで、力が抜けるように今度は自分がもたれかかった。
クソ………
なんでこうなったんだよ……
ズルズルと沈んで行く。
ただただ傷つけるだけの言葉を投げつけた。
そういう言葉を選んだ。
どうしようもないくらい
愛しくて
同じくらい
憎らしかった
俺の言葉で傷つけばいい
俺の言葉で泣けばいい
俺の態度に困って
俺で頭をいっぱいにすればいい
ジャッキーはそんな俺を静かに見ていた。
俺の言葉は跳ね返される事もなく、彼女の中に沈んで行く。
見ていられなくなり、逃げ帰った。
どうしてこうなったんだ。
引き裂かれるような痛みが走り胸をぎゅっと掴む。
彼女は俺が何を言っても眉ひとつ動かさなかった。
まるで何をいうかすべて知っているかのように。
いつも通りの涼やかな顔を俺に向けていた。
その事が俺の中の何かを煽り、熱情のまま俺は一体何を言った?
今更自分の言動を振り返る。
──ぼちぼち潮時だと思ってたんだ、ちょうど良かったよ
こんな一瞬で
夢でもなく、嘘でもなく、俺はせっかく手に入れた恋人を手放したというのか。
震え上がる。
どうして俺は……
どうしてジャッキーの事になると、途端に何もかもうまくいかなくなるんだよ。
くそ……
頼むから
嘘だって言ってくれ
嫌わないでくれ
笑いかけてくれ
行かないでくれよ
頭を抱え込むと力なく座り込んだ。
この時俺は、座り込んでいないで立ち上がりジャッキーの元に向かえばよかったんだ。
その決断ができなかった事をこの先ずっと後悔する事になる。
変わらぬ明日が来るとどうして信じられたのか。
少し考えればわかるというのに目をそらした。
俺の弁解なんて聞いてもらえる機会はたった今フイにしたとも知らずに。
馬鹿な俺はまた明日があると思っていたんだ。
次の日もジャッキーは教室に現れなかった。
次の日も、その次の日も、そのまた次の日も。
手紙を書こうかとも思ったがやはり直接会って話すべきだと思った。
俺は待って待つだけ。
誰にも聞けなかった。
誰にも知られたくなかった。
こんなに拗れてしまったこと。
もう恋人じゃない事を。
学園が終われば逃避のように丘の上の別邸に帰り、あの短い夏の日々に閉じこもる。
そんな日が続き、最後にジャッキーと会った日から2週間がたとうとしていた。
そこでとうとう現実を知る時が来た。




