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真面目令嬢と告白ごっこ  作者: くきの助


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私は全部知っている

もし彼に会ってしまえば、あの言葉を言わなければいけないと思っていた。



「告白は罰ゲームだったのでしょう?」


「なあんだ。知っちゃったんだ。」


彼の口が弧を描き、話し出すのは全部知っている話。


ゲームの始まりは酷い理由。


それも全部全部知っているの。


知っていたのにあなたに惹かれてしまったのだから手に負えない。


知っているから大丈夫だなんて。

他の令嬢達と同じにはならないだなんて。

どうして思っていたのかしらね。


全部言い終わると彼は背中を向け立ち去る。


今更心は乱れない。




熱を出したあの日から、私はずっとベッドで同じことで頭をぐるぐる巡らせていた。


知っていたでしょうと自分に言い聞かせて。


壁の向こうの彼はああいう人だって。

元々調子のいいことばかりの彼の口は、あの二人といると悪くなってしまうの。


知っていた。

知っていたの。


知っていたのに、自分におはちが回ってくれば、熱まで出してしまった。



ただただ恥ずかしかった。

二人だけの世界がいきなり開かれてしまった羞恥に耐えられなかった。


あなたならと、彼だけに許したつもりのすべてはあっという間に友人と共有されていた。


どうして


酷い



そればかりが頭を占めた。


二人だけの世界など信じられなくなってしまった。

もう無くなってしまったのだと思った。


喪失感で身じろぎすらできない。



ひどい

ひどい人だ。





………………酷い?



ぽつんと最後にたどり着いた答えは疑問だった。


知っていたじゃないか。

壁の向こうでは令嬢たちの露骨な話をしていた事は。


恥ずかしさの次に思う事は、私が考えたこともない事。

結婚の話だった。


考えたこともなかったのは私が貴族じゃないから。

貴族の彼らには義務。


高位貴族の令嬢なら純潔を守り、身分の釣り合いを考えて相手を選ぶ。

恋愛は学生の時だけの火遊び。

彼らは最初からそれを楽しんでいた。


全部ごっこ。


知ってたじゃないか。



好きだと言わなかったのは、彼の優しさ。

未来の話をしないのも、全部優しさ。


だというのに彼の知らぬところですべてを盗み聞きしている私の方がよほど酷いじゃないか。


これほど理屈をこね回して頭では理解しているのに、どうしても気持ちがついていかなかった。


知っている事が辛いだなんて。

何も知らなければよかっただなんて。

こんな事を思うのは身勝手だ。


思えば思うほど再び世界を信じる勇気など持てず虚しくなった。


まるで心を空に放り投げられて彷徨っているような心地で、悲しくて淋しくて目の前が暗くなる。



壁の向こうなんて知らなければよかった。

何も知らなければ……




「私は貴族になんて嫁入りする気はないもの。」


八つ当たりのように母親に言ったのは強がりのような言葉。


「確かに結婚するには身分差は否めないわね。」


母親からの返事は簡単で、ただの事実で、それがストンと私の中に落ちた。


二人だけの世界を信じようと信じまいと、どのみち永遠に続く世界ではなかった。

いま終わるか少し先になるか、ただそれだけのことだった。


どうしても繋がらなかった事がようやく胸に入っていく。


動くなら今だと思った。

例え勢いだとしても。





図書館の周りの木々を強く揺らす風が吹いた。


遠ざかる後ろ姿が影に消える。

胸が音を立てた。




八方美人で


見栄っ張りで


負けず嫌いで


表裏があって


格好つけで


いつだって完璧な笑顔なのに


今はぜんぜんうまく笑えていなくて



愛しかった



ぐ、と何かが喉の奥に引っかかり、なんとかそれを飲み込む。


学園を去れば、身分差はもう私たちを引き合わすことはない。



私も歩き出す。



振り返ればいつもあなたが私を見ているのが好きだった。


でももう振り返らない。



さようなら


どうか


お元気で



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