私と放課後
「それにしても準男爵令嬢とはいえ口付けどころか体までなんて、あの真面目令嬢がよく許したね。」
「キャルがいなくなると自由に使える図書館がなくなるからだろ。気の毒になぁ。」
「まさか図書館を盾に体を迫ったのかい?悪い男だ。」
「何を言ってるんだ。向こうもノリノリだったに決まっているだろう。」
「出ました。ノリノリ。本当かよ。」
「その位魅力的だって事だよ。」
「図書館がか?」
「何でだよ!俺に決まってるだろ!」
どっと笑う。
本の修復のために持っていた道具が手からこぼれ落ち、机の上で小さく音を立てたが、彼らの笑い声でかき消された。
壁の向こうから聞こえる声に、ピシピシと足の先から指の先から凍るように身動きが取れなくなって行く。
いつもの放課後
いつもの図書館
いつもの彼らの馬鹿話
一つだけ違うことは
彼の話は全部身に覚えのある話だって事
なぜ私は呑気に構えていたのだろう。
彼らが令嬢達との武勇伝をここで報告し合っていたのはいつもの事だったのに。
自分だけは特別で報告の対象外だと思い込んでいたのだから、笑うしかない。
どうして他の令嬢と自分は違うだなんて、そんな傲慢なことを思えたのだろう。
同じ様に、ここでこんな風に言われるに決まっているじゃないか。
なのにどうして私は……
知っていたはずなのに
彼らの話の中の私は、図書館を使う対価に体を差し出す、まるで娼婦のような女だった。
甘く囁かれ
優しく触れられ
体温を分け合って
すべてを捧げた
2人だけの睦み事だと信じて
作り話は何とも思わなかった。
嘘だと笑い飛ばせばいいだけだ。
でも本当の話はどうしてかこんなに恥ずかしい。
きっと滑稽だからだ。
誰の目から見ても愚かしいからだ。
痛々しい勘違いに自分の手を固く握り深く深く恥じ入れば、いつのまにか体を丸め小さく縮こまっていた。
これでもう貴族には嫁げないと、真面目な準男爵令嬢など火遊びにもならなかったと失笑されるのも、仕方がないというのに、いつまでも顔を上げることができない。
体が燃える様にあつい。
いっそこのまま燃えて燃え尽きて、灰になって、消えてしまえたらどんなにいいだろう。
いつの間にか壁の向こうの声は聞こえなくなっていた。
しんと静まり返っている。
そういえば……
ぼんやり思うと、なぜか口元が緩んだ。
一度も好きだなんて、言われたことなかったわね
音もなく笑った声は遠く、自分じゃない誰かが笑ったみたいだった。




