ランチタイム
長期休暇が終わり新しい学期が始まった。
長期休暇前の私たちはランチの時間以外は特に話さなかったけれど、それは学園での正しい距離だと思えた。
学園ではあまり近付かないでと言えば、ランチだけは譲れないと言われ、前と同じように図書館の中庭でランチボックスを開くことになっていた。
「もう……ねえってば!」
中庭のベンチに座るなり肩を抱き寄せられ、髪の匂いを吸い込んで、まぶたや頬にくちびるを落とされる。
そしてまた首筋に顔を埋めてスゥーと息を吸い込みはじめた。
「キャぁル。いい加減に……」
「どうせ誰も来ない。」
言い切る彼の肩の手をピシャリと叩いた。
「痛!」
大袈裟に痛がって手を引っ込める。
そんなに痛いわけないでしょう。
あきれてため息をつきながらも、少し気になり叩いた彼の手をなでなでと撫でた。
すると彼が押し殺す様に笑い出したので私も乗せられるようにくすくすと笑ってしまった。
結局2人で顔をつき合わせしばし笑い合う。
「放課後は図書委員?」
「そうよ。」
「毎日?」
「そうね。」
「ランチの時間だけじゃ足りない。」
「そう?」
「放課後もデートがしたい。」
「できる時にね。」
「いつ。」
「図書委員がない時かしら。」
「いつだよ。」
ムッとした顔をのぞかせたので私は思わず吹き出した。
彼は自分の顔が崩れたことを自覚したのかバツが悪そうに横を向いた。
「休館日を聞いてみるわ。」
クスクス笑いながら言うと、再度肩に手がまわり引き寄せられる。
本当にそろそろ食べないと、お昼抜きになってしまうのに。
文句を言おうと口を開くけれど先に話し出したのはキャルだった。
「週末は大丈夫だろ?」
「そうね。」
「随分と先だな。」
「後3日よ。」
「先じゃないか。」
私はすっかり呆れ果てた目を彼に向けた。
「あなたがこんなに面倒な人だと思わなかったわ。少なくとも前回ここでランチをした時には。」
「それはそうだ!」
なぜかキャルは大笑いした。
結局またふたりで笑い合って、くちびるを重ねた。
彼といるだけですぐこうなってしまう。
気付けばいつも笑っていて、楽しくて、幸せで、抱き合えばまるで永遠にこの時が続くのではないかと思ってしまう。
長期休暇前と後と、まるで世界がグルリとひっくり返った様だと思った。
あり得ないのに
自分がすっかり舞い上がって何も見えなくなってしまっているなんて思いもよらず、少し冷静になればわかることにちっとも気付く事ができなかった。
前も今も世界は同じ
そう簡単にはひっくり返らない
そんな当然のことを私はすぐに思い知る事になる。
────お前らにも見せてやりたかったよ。俺に縋り付いて目に涙を滲ませながら純潔を散らした真面目令嬢の顔を
頭の中でぐわんぐわんと反響する様にあの人の声がいつまでも響く
まるで醒めない悪夢みたいに




