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真面目令嬢と告白ごっこ  作者: くきの助


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キャルと新学期

とうとう終わってしまった長期休暇。

毎日ジャッキーに口付けて、顔を寄せて笑い合う。

長期休暇前の俺に言っても到底信じないだろう日々を過ごした。



いくら名残惜しくとも新学期は容赦なく始まる。


朝早くの教室はまだ人はまばらだ。


ジャッキーはいつも早めに学園に来る。

俺はジャッキーを少しでも長く見るために2年に上がってからは早めに来ていた。


いつも通りジャッキーが座る席が良く見える、でも近すぎない、斜め後方の席に座る。


ジャッキーはまだ来ていない。





学校でもこうして膝に君をのせて授業を受けられたらいいのに。




図書館のカウチでジャッキーを膝にのせながら軽口をたたくと、彼女は物凄い形相で俺を見た。



冗談だ。さすがに膝にのせたりはしない。



そうは言ったものの彼女には胡乱な目で見られ、学園ではあまり近付くなと言われてしまった。


近付く位良くないか?


そうは思ったものの言葉を飲み込んだ。


本音を言えば、膝にのせないにしても隣同士で座りたかった。

授業が耳に入らないかもしれないが。


それでも言わずに飲み込んだのは、セバスに言われた言葉が頭から離れないからだ。



後ろ盾のないたかが準男爵令嬢が貴族の悪意に晒されたとしても何もできない。



長期休暇に入る前のぎこちない俺たちならともかく、ジャッキーと一緒にいる今の俺を見れば誰だって思うだろう。

今までの俺とは全然違うと。


俺たちがどれだけ浮き名を流そうと令嬢達が平和だったのは、所詮は浮き名だからだ。


俺と結婚したい令嬢は山といる。

俺の見目ももちろんだが、何よりサナリス伯爵家と繋がりが持てるのは利がある。


だから準男爵令嬢がその座に収まろうとしているというのは、彼女達を刺激しかねない。


早く婚約をしてしまいたい。

カザン準男爵家はサナリス伯爵家の庇護下にあるとわかれば妙な事を考える者もいないだろう。


だったら早く話を進めてしまえばいいと思うのに、二の足を踏んでいるのはジャッキーが貴族じゃないからだ。


貴族同士なら簡単なのに。


純潔を奪ったといえばもう決定みたいなものだ。

事実それを狙ったご令嬢も今までいた。


そもそも貴族ならサナリス伯爵家からの婚約の打診は四男の俺でも喜んで受けるに違いない。

俺は継ぐ爵位があるから婿入りなんてしなくてもいいし。


でもジャッキーは?


平民や準男爵の女性たちは高等部卒業後家の手伝いをする者も多い。


彼女達の道は必ずしも結婚だけじゃないのだ。

卒業すればすぐ結婚するのが当たり前の貴族令嬢とは違う。



正直ジャッキーの頭に今結婚の二文字がある様には到底思えない。

結婚を申し込んで彼女がハイと答えてくれる自信もない。


それならば、先んじて父上に話を通すべきなのかもしれないが、それも未知数だ。

俺は四男だからある程度は自由とはいえ、サナリス伯爵家当主としてどういう判断を下されるのかわからない。


色々考えれば考えるほど、後一歩が踏み出せない。


俺はこんなに情けない男だったか?


でもジャッキーにだけは臆病になってしまうんだ。

そのくらい大事なんだ。


だから頼むよ。


俺がプロポーズしたら頷いてほしい……



すっかり考え込んでいるとジャッキーが教室に入ってきた。


ドキっと胸が高鳴る。


いつも座る窓際の席に向かうジャッキーを目で追う。

令息達がすれ違いざまにジャッキーを振り返っているのが目に入る。


おい。

ジャッキーは気付かずとも俺は気付いているぞ。


くそっ、これが婚約者なら堂々と睨みを利かせる事ができるのに!


歯痒い思いでため息をつき、頬杖をついた。

席に着いたジャッキーを見つめる。


前まではこうして密かに見つめているだけで胸がいっぱいだったのに、今は少し寂しい。


ああ今すぐ白い頬を指でくすぐって、ハーフアップの髪をほどきたい。


いつもの学園の風景すぎて、夢の様なあの日々は本当に夢だったのではないかとすら思えてきたな……


その時だった。



ジャッキーの顔が少し傾いたかと思うと、肩越しにこちらを向いた。


俺は息を呑むと、思わず背筋が伸びた。


目が合う。


ジャッキーの顔がふっと緩んだ。

そして……



見 す ぎ



ご め ん



口だけでパクパクと言い合うと、ジャッキーは少し笑ってまた前を向いた。



ああ!


最高だ!!


夏の長期休暇前はどれだけ見つめても、目なんて合わなかった。

ジャッキーがこちらを見る事なんて一度もなかったんだから当たり前だ。


でも今はこれ。


指を組むとそこに額を乗せうつむく。

緩んだ顔はなかなか戻らず隠すのが精一杯だった。



しばらくするとバールの声が聞こえたので顔を上げる。

いつの間にか教室に来ていたらしい。

挨拶を交わすと、バールは横に座る。


すぐにニックも教室に入って来る。


「よお。」挨拶をすると俺の横に座り顔を近付け、声をひそめて言った。


「キャルよ。長期休暇が終わったけれど彼女とはどうなんだ?前にパーティーで会ったときは随分順調だと豪語していたが。なあ、後でまた聞かせろよ。」


ニックは機嫌良さげだ。

長期休暇中のパーティーで会った時にジャッキーとは順調だと報告したら不機嫌を隠しもせずムスッとしていたが。


そうだよ。

この2人の問題もあったんだ。


おおかた、もう別れたと思っているに違いない。

そうじゃないとはっきり示さなくては。


「そうだな。久しぶりにまたカードゲームをしないとな。」


そう放課後の約束をした。

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