キャルと違和感
ジャッキーがこの屋敷に通う様になって3週間、7回目。
今日は子供向けの図書室にジャッキーを連れて行こうと思っていた。
だから前もってセバスにその事を伝え部屋を整えてもらっていた。
お茶を飲んで休憩した後、まだ少しとジャッキーは課題をやっていたが、少し煮詰まったように見えたので誘った。
「気分を少し変えてこの間言っていた子供向けの図書室に行かないか?」
ジャッキーはぱっと顔を上げると「行きたいです。」と目を細めた。
あぁもう。
そんな顔をされたら嬉しくなるだろ。
浮かれ心地なのを悟られないようキュッと口を固く結ぶ。
扉のそばに立っていた使用人に少し図書館を離れて本館の図書室に行く旨を伝えここを出た。
心がはやる。
子供向けの図書室は読んで字の如くすべて子供向けだ。
内装も、調度品の意匠も、子供が喜びそうなもので統一されている。
何もかもがこどもサイズで、大人が座れるテーブルセットももちろんあるが、この部屋ではまるで巨人が座る椅子のように見えてしまうのが、また面白い。
ジャッキーは何て言うだろう。
考えるだけで浮足立って早足で歩きそうになるほどだった。
「まぁ可愛らしい!」
扉を開けると、初めて図書館を見た時とはまた違う色のジャッキーの驚いた顔。
俺は最高にご機嫌だった。
黒く美しい目をキラキラさせながら腰をかがませ本棚を覗くジャッキー。
冗談めかして子供用の椅子をすすめると「さすがにそれは憚れますよ。ふふ」と美しく微笑むジャッキー。
いつもと違った彼女を目で追うことに夢中になっていた俺は、少しの違和感を見逃していた。
ハッキリと違和感に気付いたのはもうしばらく後。
俺もジャッキーも本を何冊か選び、丸テーブルに並ぶ椅子に腰を落ち着かせた時だった。
(うん?)
扉が閉まっている……?
(何故だ?)
いつもなら、扉は開け放っており、使用人が入り口脇に立っている。
サナリス伯爵家の名の下、セバスの采配によりこの屋敷で未婚の男女が2人きりになることはまず無い。
じゃあこの状況は何だ?
扉が閉まってるだけじゃない。
いつもはいるはずの使用人もいない。
いつも図書館を2人で出ていけば必ず誰かが付いて来ていた。
それが当たり前すぎていちいち確認なんてしなかった。
そういえば図書館で声をかけた使用人は初めて見る顔だったような……新人か?
え……誰も付いて来ていない?
じゃあ……今部屋でふたりきり?
ぶわっと全身から汗が吹き出した。
少し斜め横にいるジャッキーをチラッと見れば顔を緩ませて児童書を読み耽っている。
きっと密室にふたりきりだなんて考えてもいない。
今更、扉を開けに行くのはわざとらしいか?
変な雰囲気になりそうだ。
使用人がついて来ていないから戻ろうって言うか?
……いやそれも変な雰囲気になりそうだ。
ええ──ッ?!
結局変な雰囲気にしかならないじゃないか!
じゃあ俺はどうしたらいいんだ?!
そりゃ嬉しいけど!
誓って本意ではない!
後からジャッキーが気付いた時、俺が指示した様に思われたら今まで重ねてきた信用が一気になくなる。
早く決断しなければ!
焦っているせいか考えがまとまらない。
あれこれ考えるが、これぞ休むに似たりと言うやつだ。
だからだろうか。普段ならしないことをしてしまった。
ジャッキーの本から誰が挟んだのか、薄い紙切れが落ちた。
これは押し花か。
ヒラヒラと俺とジャッキーのちょうど間。
普段ならジャッキーに拾わなくていいと言って、俺が拾うか使用人に拾わせる。
でも使用人はいない。
だから俺が拾わなければと頭を下げた。
床の押し花のしおりに手を伸ばす。
失敗は、ジャッキーに何も言わずにそれをした事だ。
ゴッ
鈍い音がして一瞬目の前が白くなった。
チカチカと星が見えた。




