表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真面目令嬢と告白ごっこ  作者: くきの助


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/33

キャルは約束がほしい

俺は本を机に置くと、裏庭に出た。

ハーと深呼吸ひとつ。


ようやく顔の火照りもおさまってきた。

ハ──ともう一度深呼吸。




あの時カウチに座っていると、二階にいるジャッキーが見えた。本棚の前で手を伸ばしている。

嫌な予感がした。


案の定ジャッキーはキョロキョロとしだす。

踏み台を探しているのだ。


俺は焦って立ち上がった。


必ず言ってほしいと言ったのに!


確かにジャッキーは高位貴族の様に誰かにものを申し付けることに慣れてはいない。

でも俺は恋人だろ?


螺旋階段を上がるともうジャッキーは踏み台を見つけてそこに登っていた。


ヒヤリとした。


いきなり声をかけて驚かせて、もし落ちてしまったら。

そう思うとそろりとしか近付けなかった。


万が一ジャッキーがふらついても支えられる位置に近付く。

こんな小さな踏み台に彼女が乗っていることにゾッとする。


とにかく二度としないと言質を取りたくて必死だった。



だから気付いてなかった。


こんなに顔が近かった。




ハ──

大きく息を吐くと片手で顔を押さえて天を仰ぐ。


「情けない事ばっかりだ」


息と一緒に弱音も出て行った。

かつてないほど顔が近いことを自覚すると、とてもじゃないが普通でいられなくなり、捨て台詞のように恋人なんだから頼れと言ってそそくさと立ち去った。


もう少し華麗に言うつもりだったのに。



あの距離で令嬢と見つめ合うなんてよくあることだったじゃないか。


ジャッキーといるとたちまち自分がただの男になり下がる。


「綺麗だったな……」


そして間近でみたジャッキーはやはり美しかった。


あんな雪のように白い肌は初めて見た。


柔らかそうな白い頬に触れることが出来たらどんなに幸せだろうか……そんな考えが頭をよぎった。


神秘的な黒い瞳にこちらを覗き込まれると、何もかも見透かされたような気持ちになり急に落ち着かなくなる。


ハ──と何度目かの息を吐くと、気を引き締める。


ジャッキーは課題をしにきているのだ。

ここで課題をする価値がないと思われたら、もう次は来てくれないかも知れない。


約束など何一つ交わしていないのだ。


だから綺麗に隠さねば。

俺の汚い下心など。






「キャル様。詳しい地図が見たいのですが、ありますでしょうか。」


ああ、と声が出そうになった。

ルーカス先生の課題をやろうと思えば少し詳しい地図があったら随分助かる。

俺はもう使わなくなっていたからうっかりしていた。


簡単な地図ならここの図書館に置いてあるが、詳しい大きな地図になると、本館の図書室に置いてある。


踏み台を使うことを注意した日から、ジャッキーはこうして聞いてくれるようになっていた。


その安心感からだろうか。

2日おきに通い始めて2週間以上は経とうというのに、本館の図書室に案内することをすっかり抜け落ちていた。


「では今日は図書室を案内しようか。」


図書館の開け放たれた扉の横に立っている使用人に、図書室に行く事を告げジャッキーと部屋を出る。


行ったのは本館の3階。客室が並ぶ部屋だ。

いや、客室だった部屋というべきか。


「元は客室だったんだけれども……ひいお祖父様は本好きだけではなくて収集癖もあったんだ。外国の本が多数あるのもそのためでね。だから図書館ではもう収まらなくなった本たちのために客室を図書室に改装してしまったんだ。」


「本当に楽しいひいお祖父様ですよね。」

と笑うジャッキー。


ジャッキーは実は結構よく笑う。

その度ほわっと気持ちがあたたかくなる。


ジャッキーがここの図書館に来るたび休憩を兼ねてお茶を一緒に飲んでいて、その度学園でのランチの時のような時間を過ごす。


静かに流れるあの時間が好きだった。


本当はジャッキーのことが知りたくてたくさん質問したいけれど、怖がられないように我慢している。


ちなみにジャッキーから俺のことを質問された事はただの一度もない。


まぁ……そこまで俺に興味があるとは思えないしな……。

ずうん、と心が重くなった。


はあ。


でももし俺のことをジャッキーに質問されたら、その時は空も飛べるくらいに浮かれてしまいそうだ。


今日でジャッキーが来たのは6回目。

ほぼ課題の話ばっかり。

でも課題の終わりが見えてきたら……もう少し……



「キャル様も昔からここにはよくいらしていたのですか?」











「ああ。実は絵本や子供向けの本ばかり置いてある部屋もあるんだ。小さい頃はその部屋に入り浸っていたくらいだよ。」


「小さな頃から……だからキャル様は本を読むのが早いのですね。」




ええ?




俺地に足ついてるか?

ふわふわして宙に浮いてるとしか思えないんだが!!


俺の事そんな風に思ってくれていたのか……



惚けそうになったが付いて来ていた使用人が図書室の扉を開けたので我に返り中に入る。


この部屋には軍事系の本ばかり置いてある。

そしてたくさんの大きな地図もこの部屋だ。

中央には大きなテーブルがあり、ひいお祖父様が生きていた頃は伯爵家の騎士団がこの部屋でよく会議をしていた。


「今日は時間足りないけれど、今度は子供の図書室に案内しようか?」


「えっ…………いいのですか……?」


目を輝かせたジャッキー。


何だか胸の奥がウズウズする。


「もちろんだよ。ええっと、……次……3日後かな。」


そう言ながら地図の本棚に案内する。


本当は2日後って言いたかったんだが……言えなかったな。


でも


焦っても仕方がない。


せっかく今日は俺の事を質問してくれた。


確かに距離は縮んでいる。


このままゆっくり狭めていくしかないんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ