サナリス家の図書館に通う
図書館の訪問3日目。
ボクが手伝ってあげるよ。
キャル様はその言葉通り課題のテーマ選びから手伝ってくれた。
これは思っていたより大変で、1人でやっていたらテーマ選びだけで長期休暇のほとんどを費やす事になっていたのではと思うほどだった。
「ルーカス先生は学園では広く地理を教えているが、院に行けば気象学を専門に教えているんだ。」
「ええ、存じております。ですので課題のテーマもそちら方面で考えて……」
「そう思うだろう?実際は逆だ。そこに手を出さない方がいい。先生の専門なだけに評価が厳しくなるんだ。赤を入れたレポートが突っ返されて、何度も再提出をする羽目になる。もちろん自分を試したいというなら話は別だが、そうじゃないならやめた方がいい。再提出地獄から抜け出せなくなるぞ。」
思わずヒっと上げそうになる悲鳴を飲み込んだ。
安易に選ぼうとしたテーマで苦しむところだった。
「手伝ってくださってとても助かっているのですが、キャル様の課題は大丈夫ですか?」
「俺は今までやったレポートや課題を活かしたテーマに決めて進めていくからそんなに時間がかかるわけじゃないんだ。面倒ではあるけれどね。ご覧の通り資料は山ほどあるし。」
改めて思うのは高位貴族のクラスの課題は家に図書室がある前提だということ。
だからサナリス家の図書館を使わせてもらえるのは心底有難かった。
サナリス家の図書館に招かれてまず最初に言われた事は
「高いところにある本は無理せず俺を呼ぶか使用人に言いつけるように。」だった。
そうは言われても、わざわざ呼ぶのも気が引けるし踏み台もある。
何より図書委員としてよく使っていたし、慣れている。
だからその日も見つけた踏み台をスススと移動させて上部の本を取ろうと台に上がった。
するといきなり横から大きな手がにゅっと伸びてきてギクリと手を震わせた。
取ろうとしていた本をその大きな手がやすやすと手中に収める。
手の方を見ると、真横にキャル様の顔がありじっとりとした目でこちらを見据えていた。
私は思わず肩をすくめてしまった。
見られていたとは……
キャル様はまるで子どもに言い聞かせるようにゆっくり話し出した。
「俺をよく見てくれ。何も乗っていない俺の方が踏み台に乗った君よりもまだ少し高い。そう思わないか?」
「そうですが……私は図書委員でもあり、こういう作業は慣れていて……」
迫力に目が逸らせずグリーングレーの瞳をこわごわ見つめる。
「それでもだ。このサナリス家の屋敷で君に怪我をさせる可能性があるような事はさせられない。」
「……申し訳ありません……」
ピシャリと言われて反省する言葉を口にした私にキャル様はやっと緊張を緩めた。
「怒っている訳では無いよ。」と呟きながら私に手を差し出したので、キャル様の手を借りて踏み台から降りる。
「ただ、これからはちゃんと俺を頼ってくれよ。…恋人なんだし。」
語尾の言葉に思わずキャル様を見上げる。
同時にキャル様はくるりと方向を変えて、顔の近くで手の代わりに本をふりふりと振る。
「一階の机に置いておくね。」
そう言い残すと螺旋階段に去って行った。
姿が消えると思わず含み笑いをもらしてしまった。
本でうまく顔が隠れていたのでどんな顔をしていたのかはわからないけれど
隠しきれなかった耳は真っ赤だった。
あの時みたいに。
トン
瞬間誰かに胸を軽く叩かれたような心地がした。
音までなった気がするけれど……
思わず胸を押さえる。
うーん?いつも通り。
私また図書の棚を見上げた。
(言いづらいなら恋人だなんて言わなきゃいいのに……)
そう思うとひとりだというのに声を出して笑いたくなった。
笑わないけどね。




