私と彼との出会いは
私に告白ごっこを仕掛けてきたのはキャドウェル=トラスク=サナリス伯爵令息。
私が彼を知ったのは高等部1年生の時。
準男爵令嬢の私は下位貴族のクラスにいた。
伯爵令息の彼はもちろん高位貴族のクラス。
同じクラスでもなければ、話したこともなかった。
ただ王都の貴族学園において、彼を知らない者などいなかっただろう。
「まあ!また下位貴族のクラスにランチのご令嬢をお迎えに来ているわ!」
「しかも今日は3人でいらしたわよ!」
「ああん!やっぱり3人揃うと神々しいっ!」
「ランチは誰が約束しているのかしら、羨ましいったら!」
下位貴族のクラスのそこかしこで令嬢が声を上げる。
すると、あっという間にクラスの令嬢たちは一つの所に集まった。
「お次は私とランチしてくださいませ。」
「素敵なカフェを見つけましたのよ、今度……」
「来月の学年行事の担当になったのです。ぜひアドバイスをくださいな。」
皆我先にと話し出す。
中心にいるのは3人の御令息。
中性的で愛らしい、キンクス侯爵令息
野生美溢れる、デパージ子爵令息
そして背の高い美丈夫、サナリス伯爵令息
彼ら3人はそれぞれ担当でもあるのかと思うくらい違う魅力があった。
「君みたいな素敵な令嬢に誘われるなんて光栄だね。」
「学園中の男と戦ってでも君とカフェに行く権利を手にすると約束するよ。」
「わざわざ面倒な行事の担当になるだなんて、頑張り屋さんって好きだな。」
物語のような彼らの返しに、きゃああと令嬢達が悲鳴をあげた。
ここ王都の貴族学園では彼ら3人の御令息が絶大な人気を誇っており、それぞれ浮き名を流していた。
彼らはランチやデートの約束した令嬢を迎えに下位貴族のクラスにやってくる事もしばしば。
そんな3人の中でも一際目立つのが彼、キャドウェル=トラスク=サナリス伯爵令息だった。
彼は大変由緒ある伯爵家のご令息。
なるほど、騒がれるだけあって美しい顔は美術品のよう。
切れ長の瞳はヘーゼルグリーン。
ライトブラウンの柔らかそうな髪は左右に分かれおでこが見えているのが大人っぽく、掠れた低い声には色気がある。
なのに笑うと出来る口元のエクボは可愛らしいと評判だった。
スラリと背が高い恵まれた体躯は引き締まっており、物腰は柔らかで優雅。
彼の周りにはいつも人がいて華やかな印象しかない。
一方私といえば、地味な準男爵令嬢。
この国リラにおいて準男爵と言う爵位は貴族ではない。
羽振のいい商人等に与えられる一代限りの爵位で、ほぼ平民。
それでも爵位がある以上はその分の税を納め、ご子息ご息女は王都の貴族学園に通うのがリラ国の慣例。
昨年父親が叙爵したため高等部から貴族学園に通い始めただけの私。
当然ながら中等部までは平民の学校に通っていた。
そして私は平民の学校にいた時ですら地味で目立たず、浮いていた。
当然貴族学園ではもっと目立たないのは当たり前といえる。
そんな私と華やかな彼らとは関わりなどあるはずもなく、下位貴族のクラスのすみっこで目立つことなくひっそりと毎日を過ごしていた。
私の高等部1年生はそうして終わり、春が来て2年生になった。
「いつも1人でやらせてしまって悪いわねえ。嫌になったらいつでも言っていいんだからね?」
申し訳なさそうに、図書館の先生は言った。
「好きでやっていますから。」
私がそう笑うと先生はホッと安堵の顔をする。
「最後は窓も忘れず必ず閉めて、一階のカウンターに鍵を返しておいてね。」
そう言うと先生は出て行った。
私が貴族学園に入って一番よかったと思うのはこの図書館が使える事だ。
入学したての1年生の時に図書館を利用し、あまりの立派さに感動した。
だから私は高等部2年に上がって、自分から希望して図書委員になった。
なってみれば、図書委員をしたい人などいなかったのには驚いた。
学園の図書館は立派だと言うのに、学内の目立たないところにあり、利用者も少ない。
高位貴族が利用することはまったく無く(買うらしい)、ほぼ下位貴族のための施設だった。
その下位貴族ですら利用しないのだから本当に勿体無い。
図書館の1階は貸し出しカウンターと本棚。
2階は会議室と書庫の部屋。
書庫の奥にはまた扉があり、そこは小さな部屋で壁に沿って本棚があり、作業台と小さなテーブルセットがある。
その書庫の一角はすべて修復が必要な本ばかり。
修復をやってみたいと言えば、先生は嬉々としてやり方を教えてくれた。
「そのうちそのうちと思っているうちに、たまっていったのよね。だって見てよ。こんなにあるのよ?やる気も失せるというものよ……」
先生はそう言って虚ろな目で高い大きな本棚を見上げていた。
そこの本棚の本は全て修復必要だと言うのだから……これ何年かかるのかしら。
本棚よりもっと高いところに小さな窓がある。
埃っぽい部屋の換気のためにいつも少し開けるように言われていた。
長い棒で鉤に引っ掛けてくるくると回せば窓が開く。
椅子に座り破れたページに道具を使ってノリをつけて丁寧に修繕していく。
ずれないように、元通りになるように。
どの位作業していただろう。
開けた窓の向こうから話し声が聞こえて、集中力が途切れてしまった。
(ああ、また来たのね……もうそんな時間。)
そう。
やって来たのだ。
いつもの彼らが。




