プロローグ
「私に告白したのは罰ゲームだったんでしょう?」
私がそんなことを言いだすだなんて思いもよらなかったらしい。
目の前にいる美丈夫は目を見開いた。
どの位沈黙が落ちていただろうか。
放課後の学校の図書館の中庭は誰もいない。
何度も強い風が吹いては枝葉を揺らし音を鳴らす。
「はは!」
ふいに笑い声があがる。
「なぁんだ。知っちゃったんだ。」
笑い声に相応しく彼は唇の端をギュとあげる。
「そうだな。もう夏の長期休暇も終わった事だし。ぼちぼち潮時だと思ってたんだ、ちょうど良かったよ。」
言いながら彼は風で乱れた前髪をかきあげた。
「クラスで浮いてる勤勉だけが取り柄の地味な令嬢が、ひとときとはいえ由緒あるサリナス伯爵家の令息と恋人になれたんだ。良かったなぁ。」
ヘラリと笑う。
「ああそうだ。恋人だったよしみで最後の忠告。味をしめたとしてももう貴族とのお付き合いは諦めた方がいいぞ。だって君は平民と変わらない準男爵令嬢な上、貞操観念が低いのおまけ付きだ。」
風の音がする。
何よりも貴族の見栄を大事にするあなた。
たかが準男爵令嬢に責められるのは屈辱だろう。
でもどちらかが言わなければ終わらない。
私が何も言わず黙っていると、みるみる彼は眦を釣り上げた。
「何だよ。俺だって地味な準男爵令嬢となんか罰ゲームじゃなけりゃ付き合わねえよ!」
顔つきに相応しい荒い声。
「じゃあゲームはこれで終わりってことで!」
くるりと背を向け、立ち去ろうとして、思い出したかのように振り返った。
「そうそう。間違っても俺と付き合ってたなんて誰にもに言わないでくれよ。迷惑だからなあ。」
吐き捨てるように言うと今度こそ去って行った。
今更彼の言葉で私が心を乱される事はない。
なぜなら彼の愛の告白は罰ゲーム。
告白ごっこだって、最初から私は知っていた。
あなたが私に交際を申し込んだのは罰ゲームだという事も
貴族に罰ゲームを仕掛けるのは不味いからと貴族じゃない準男爵令嬢を選んだ事も
難易度を上げるために大真面目な私を選んだ事も
自分が真面目な女でも攻略できると悪友たちに見せつけたかった事も
私は全部全部、知っていた。
ふ……と笑いを漏らしたつもりが息だけが唇から漏れる。
告白ごっこから始まったわずか数ヶ月のお付き合いは恋人ごっこだった。
私たちはもう二度と話すこともないだろう。
本当なら元々関わりなんてない。
それだけの身分差が私たちにはあった。
風が優しく私の髪を梳いて、そっと元に戻すと消えた。
私も踵を返し彼とは逆方向に歩いて行った。
さようなら、キャル
お元気で




