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真面目令嬢と告白ごっこ  作者: くきの助


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18/31

私と課題と長期休暇

学期末のテスト期間も終わり、夏の長期休暇が始まってすぐ、私は王都にあるサナリス伯爵家別邸に来ていた。



どうしてこんな所に私はいるのか。

そんなこともう私にはわからない。



「ぼっちゃま、図書館と図書室はすべて鍵を開けておりますのでどこを案内をしていただいても問題ございません。お茶の用意はまたその時にお申し付け下さい。」


「セバス。ぼっちゃまはやめろって言ってるだろう。」


低い掠れた声が心底辟易しているといった様子で言うと、仕切り直すように息をついた。


「じゃあ、先に図書館を案内するから……」


キャル様はこちらを振り向き「この別邸を管理している執事のセバスチャンだ。セバス、こちらはジャクリーン=カザン準男爵令嬢だ。」


セバスチャンと呼ばれた初老の男性は、品のある佇まいで伯爵家に相応しい美しく丁寧なお辞儀をした。

私も気を引き締め丁寧なお辞儀を返す。


「では行こうか。と言ってもこの屋敷のどの部屋に行っても本だらけなんだけどね。」


そうおかしそうに笑うと歩を進めた。

その後ろ姿を見ながら不思議な気持ちで私もついていく。




私はてっきり長期休暇でキャル様に距離を置かれるものだと思っていた。

もちろん、私とのお付き合いを有耶無耶にするために。


だから学期最終日、学期最後の図書委員の仕事をやるため図書館に向かっているといつかの様に彼が待ち伏せていたのには目を疑った。


そして次は耳を疑うことになる。

何故なら長期休暇中の学科の課題を一緒にやろうとの、お誘いだったからだ。



えっまだ続けるの?



そんな言葉以外は浮かばず、何と返事をしていいのかわからなかった。


思わず黙り込んだ私にキャル様は、ひいお爺様が生前大層な本好きで、住んでいたサナリス家別邸は屋敷中本で埋まっていると教えてくれた。


そしてぜひ見にこないかと。


この国では入手困難な母親の祖国パタヂャカの本まであると言われ、思わず顔を輝かせてしまった。


そうしてあっさり長期休暇もキャル様と過ごす約束が成されてしまった。


本音をいえば図書館は楽しみだけれども……


考え込んでいると前を行くキャル様の足がピタリと止まり我に返った。


「まずここが図書館の入り口だよ。」


キャル様がそう言うと扉の前に立っていた使用人が重々しい扉を開ける。



中を見た瞬間、私は思わず感嘆のため息をもらした。



図書館は独立した別棟のようになっているが実際は屋敷とは繋がっていた。

しかし全くの別世界のようだ。


吹き抜けの建物は三階まで数えられる。

そして壁は一面本だらけ。

一階は大きな窓があり開放的で、窓際にはビロードのカウチが置いてある。

中央には大きなテーブルとビロードのイスがずらりと並ぶ。


何より目を奪われるのは重厚な意匠を施された手摺の螺旋階段。これが二階につながっている。

三階に続く階段もあるのだろうけれどもここからはわからない。


学校の図書館も立派だと思っていたけれど、こちらはまるで絵本から飛び出してきたようなお洒落な図書館だった。


キャル様は私の驚いた顔をみて満足そうに微笑むと窓のほうへ歩いていく。

私は置いていかれないように追いかけると向こう側にもドアがあった。

キャル様がガチャリと開ける。

庭に出る扉のようだった。


「図書館は裏庭に繋がっているんだ。あ、段差気をつけて。」


そう言って手を差し出してくれる。

私はキャル様のエスコートで裏庭に出る。


庭はよく手入れされた芝生が広がりその真ん中を石の園路が伸びている。キャル様に促されるまま進むとに亭榭に行き着いた。


そこから見える景色は……


「あれは、この間連れて下さった教会と孤児院?」


「その通り。ひいお祖父様は子供好きでね。晩年はここに座って本を読みながら元気に遊ぶ子供達を時折眺めて過ごされていたんだ。」


キャル様のひいお爺さまは若い頃、武勲をあげて王様から褒賞にこの丘の上の別邸と教会を建ててもらい、そこに孤児院を建てる許可をもらったそうだ。


「素敵ですね。」


本当に素敵。

図書館といい、きっと魅力的なひいお爺さまだったに違いない。


「ああ、僕も子供の頃よくここに来て、ひいお祖父様と本を読んだりお茶をした。いい思い出だよ。」


そう言うとキャル様は後でここでお茶をしようと言ってから元来た道を戻り、図書館に帰った。


図書館に戻るとあの立派な螺旋階段を上るように促される。

そしてある本棚の前で立ち止まる。


「このあたりは海外の本がほとんどだ。そしてこの棚が……わかる?」


「パタヂャカ語!」


「読めるんだね。」


「ええ!」


私の黒髪、黒目はパタヂャカ人の大きな特徴。


私の出自はわざわざ話さなくても誰にでもわかること。

ただパタヂャカ語が読めるかどうかまではわからないのは当然。


「実は幼少期にパタヂャカの母親の実家で数年過ごしていた時期があるのです。その時に言葉や文字も覚えました。」


その時ふっと目に止まった一冊の本に釘付けになる。


「この本!……手にとっても?」


「もちろん」


返事を聞くや、本を手に取り、中を確かめる。


(やっぱり!!この本だわ!)


懐かしさでいっぱいになり、思わず本を胸に抱えた。

私はキャル様に向き直る。


「パタヂャカにいた時この本が大好きで、本好きの祖母に何度も読んでもらっていました!こちらの国に戻って来て、また読みたくて探しましたがパタヂャカの本などあるはずもなく。そのうち題名もあやふやになってしまっていて……でもまさかここで出会えるなんて!嬉しいですキャル様、ありがとうございます。」


「………」



キャル様は何も言わず黙り込み、こちらをじっと見ていた。


……え……っと……


その姿に私はどうしていいのかわからず口をきゅっと引き結んだ。


心を込めて感謝を伝えたつもりだった。

でもキャル様はぴくりとも動かない。


何か変なこと言ったかしら……


「喜んでもらえて僕も嬉しいよ。」


するとパッとキャル様がいつものようにニコリと笑った。


緊張がホッとほぐれる。


「まだ色々見ていてくれて構わないよ。時間はあるんだ。聞きたい事があれば僕か使用人に言ってくれたら大丈夫だから。」


課題はお茶の後からにしようと言ってキャル様は螺旋階段に消えていった。


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