私とランチタイム
「昼休みにバッタリとキャドウェル様に会えるなんて!」
「あんなに間近で素敵に微笑んで挨拶を返してくださるものだから、舞い上がってしまいましたわ!」
「美しく微笑まれるのに、エクボが愛らしくて、もう。」
「わかりますわっ私なんてお声だけで赤面してしまいますのよ。」
「わかりますわっ階段を降りて行かれる時の腰付きもたまりませんでしたね!」
「今日はどのご令嬢とランチなのでしょう。」
「そのご令嬢が羨ましいですわあ~!」
私が図書館の中庭に向かっていると、キャアキャアと騒いでいる中等部の令嬢たちとすれ違った。
独特な感性のご令嬢がいたせいか思わず耳がそちらに傾いたけれど、すぐ気を取り直し歩く。
彼女達によれば、どうやらサナリス伯爵令息はもうすでに図書館の方に向かっているらしく、私は追いかける形となっているらしい。
(気が重いわ……)
図書館の中庭に着けば案の定サナリス伯爵令息の姿が見える。
長い足を組みベンチの背もたれに方肘を預けて座る姿は、まるで美術品の様に完璧だった。
ふと彼がこちらに気付き、にこりと笑うと背もたれに預けた方の手をひらりと振る。
挨拶もそこそこに彼の横に座り、約束通り2人でランチの時間を共にする。
(確かに…彼に憧れている学園の令嬢たちからすれば、羨ましい状況なのかしらね。)
もそもそとサンドウィッチを口にしながらそんな事を思う。
(でも……)
すべてを知っている私はそんな風に舞い上がれない。
罰ゲームのお付き合いだなんて時間の無駄としか思えない。
それとも騙されていることを知っているだけまだマシと思うべきなのかしら。
色んな考えがぐるぐる回る。
「カザン準男爵令嬢。」
低く掠れた声で名前を呼ばれハッと思考から呼び戻される。
「なんでしょうか。」
食べる手を止める。
「今更に聞く事を許して欲しいのだけれど」
彼は少し困った様に一度口を閉じるも、また言いにくそうに口を開いた。
「ボク達は付き合っているっていうことでいいんだよね。」
疑問符が頭に浮かぶ。
お付き合いの確認?
何故?
思わず彼の方に顔を向けた。
ところが彼はこちらを見ることもなく正面を向いたまま、そしてなぜか不貞腐れたように少し顔を顰めていた。
予想外の彼の顔に、喉がぐっと詰まる。
「……はい……」
結局質問の意図が分からず、肯定してしまう。
するとサナリス伯爵令息の固い雰囲気がパッと霧散したかと思うと美しく微笑んだ。
「そうだよね。当たり前のことを聞いてすまなかった。」
その様子を見てふと昨日の放課後の話を思い出した。
確かサナリス伯爵令息は真面目な令嬢達とは縁がなかったと言っていた。
なるほど、『地味な大真面目』がお付き合いが始まっている事を正しく理解しているか確認しておきたいってことね。
(だったらもう、捨て置いてくれていいものを……。)
なんだか恨みがましい気持ちにもなる。
すると完璧な微笑みを見せたままサナリス伯爵令息が思いもよらぬ事を言った。
「だったら、愛称で呼んでもいいかな?」
愛称で……?
「家族や友人にはなんて呼ばれているのかな。」
「ジャッキーと呼ばれていますが……」
「ではボクもそう呼んでも?」
「ええ……。」
瞬く間に愛称で呼ぶ算段が付いてしまった。
まるで氷を飲んだような感覚に襲われる。
着々と嘘のお付き合いが進んでいく事に戸惑いを隠せない。
(こちらも貴族の不興は買いたくないという思いはあるとはいえ……)
「愛称で呼ぶ権利を貰えて嬉しいよ。」
サナリス伯爵令息の声がするも、遠く聞こえる。
「ジャ……」
(昨日サナリス伯爵令息はしばらくの間遊ぶと言っていたけれど……しばらくってどのくらいかしら。)
このお付き合いについて考え出すと止まらない。
「ジャっっっ…………きしょん!!!」
……え?
んん?
思わず横に座る彼を見た。




