キャルの大一番の告白
次の日の放課後俺は図書館の前で待っていた。
バールとニックは図書館の中庭。
俺はあの子に声をかけて中庭に移動し、バールとニックはそこの茂みの陰に隠れて待っていることになった。
昨日さんざん心臓の音をうるさくして一体明日はどうなるんだと思っていたが流石に1日経てば冷静だった。
よし。
これなら落ち着いて話せそうだ。
ふー、と胸を撫で下ろしていると、あの子の姿が見えた。
途端心臓が破裂したかと思うくらいの衝撃が胸を襲う。
「ぐッッ!」
うずくまりそうになるのを抑えるので精一杯。
バールとニックが待っていなければ逃げ出していたに違いない。
落ち着こうと深呼吸しているうちにもあの子は歩を進めている。
だめだ、図書館に入ってしまう!
「カザン準男爵令嬢。」
一生分の勇気を振り絞ったんじゃないだろうか。
なんとかあの子に声をかける事ができた。
ただ俺はすっかり失念していた。
心の中ですらあの子の名前を呼べなかったことを。
だというのに本人の目の前で口にして平静でいられるわけが無かったんだ。
あの子の家名を口にすればカーと顔に熱が集まった。
あ──クソ
名前を呼ぶ練習くらいしておけばよかった。
でもまさかあの子の家名を呼ぶくらいで俺がこんな風になるなんて思わないだろう?!
彼女の顔がこちらを向いた。
俺の顔はみっともなく赤くなっているんじゃないか?
背中がヒヤリとした。
もう自分の体は熱いのだか冷たいのだかもうわからなくなっていた。
あの子から顔を隠すように背を向け、誤魔化すように早口で中庭に移動しようと伝える。
中庭に向かっていると背中に彼女の気配がする。
素直について来てくれている。
それだけで夢の中を歩いているような心地がした。
「ボクの事は知ってくれているかな。」
ボクって……
令嬢を前にしどろもどろ話す男は本当に俺か?
あの子がこっちを見てる事に耐えられず、まともに向き合えない。
「ええ、そうですね。」
澄み切った湖のように落ち着いた声。
この声が俺に向いている。
初めてまともに聞くあの子の声にまたカァァと音を立てて顔が紅潮していくのが自分でわかってしまう。
ああもう、顔が赤くなるこの仕組み、俺はいらないんだよ!
クラクラとのぼせそうになりながら、風で乱れた髪を直すフリをして赤い顔を隠した。
ガサゴソと後ろで音がした。
バールとニックだ。
救いはアイツらが背後に潜んでいてこんなみっともない顔を見られずに済んだ事だ。
って、なにが救いだよアホウ
一番見られたくない相手がド正面に居るだろぼけぇ……
頭を抱えたい衝動をなんとか抑える。
もう自分でも何を言っているのかわからなくなってきたな。
なあ俺は今ペラペラと何を喋っている?誰か教えてくれよ……
そこで青天の霹靂
「それは私とお付き合いがしたいという事ですか?」
息が止まった。
「…違いましたか?」
「違わない!ずっと恋人になって欲しかったんだ!」
衝動的に口からついて出た言葉に愕然とする。
あまりにも軽く聞こえる告白。
こんな杜撰に心の内をぶちまける気はなかったのに。
いつものペースがすっかり乱され、みっともなく本音を曝け出していた。
俺の一世一代の告白
…これが?
あまりの格好悪さに情けなくなる。
こんな……こんな風に言う気なんてなかった……
もっとスマートに……そういつものように…………
そしたら……もしかしたらって思っていたのに……
こんな……
「いいですよ。」
「へ?」
見れば少し首を傾げるあの子。
…………今何を言われた……?
「何故そんなに驚いていらっしゃるんですか?」
「嬉しくて!」
ああ、また!
本音がダダ漏れ……!
「では私は委員がありますので。」
あっさり立ち去るあの子の後ろ姿を信じられない気持ちで呆然と見送る。
「…………ええ?」
思わず首を捻る。
何が起こった?
まさか、告白成功?
俺とあの子が……たった今から恋人同士……?
現実か?
図書館の中にあの子の姿が消えても俺はその場を動けなかった。




