キャルの目論見通り
俺たちは放課後の図書館を根城にしてした。
2階は書庫で誰も来ないというのに何故かある通路のような休憩所。
カフェスペースと名されるそこには2階の奥まった所にあり、テーブルセットが何組か置いてある。
昔ニックが令嬢に教えてもらって相引きに使っていたが、俺たちにもいい場所があると教えてくれたので放課後に使い出した。
図書館自体が辺鄙なところにあって、目立たない。
図書館に入ればすぐの所に階段があり、誰の目に触れることなく二階に上がることができる。
そもそも貴族が図書館を使うことはまずない。
なぜなら高位貴族なら家に図書室があるのは当たり前。
図書館は本を買う事ができない平民が使うもの、という認識が強い。
それを逆手にとって、誰も寄り付かないここで俺たちはゲームをしながら好き放題駄弁って帰るのが常だった。
「そろそろ令嬢達に騒がれるのも飽きてこないか?」
俺は機は熟したとばかりに切り出した。
2人にはあらかじめ平民の告白ごっこの話をしておいた。
きっとわかるはずだ。
これが合図だと。
バールは高位貴族だから言い出すことは決してない。
だがニックなら……
「いいこと思いついたぞ!このゲームに負けた奴は指定したご令嬢に告白するってのはどうだ!」
来た
ニックがちゃんと仕事をしてくれる。
もう皆わかっている。
ここに選ばれるのがあの子だって。
2人だって知りたいのだ。
あの子に婚約者がいるのかどうか。
貴族なら調べるとすぐにわかる。
貴族の婚約は家同士の契約だから届出がされているのだ。
でもあの子はこの間まで平民で、今も貴族じゃない。
だから聞くしかないのだ
可能性のない告白を覚悟して
本人に!
バールは愛らしい見た目に反して侯爵家嫡男としての矜持を高く持っているから、負け戦に先陣を切るなんてことは決してしない。
ニックは意外と保守的。
今も自分が先兵になるか、俺に押し付けるか、迷っているはずだ。
俺はサナリス伯爵家だという矜持は持っているが、四男という気楽な立場だ。
こういう時は便利だな。
絶対に負けて、一番にあの子に話しかけて口説く権利を持ちたい。
振られたっていいんだ。
婚約者がいないことがわかればいい。
後はゲームといえど振られて悔しいとでも、必ず落としてみせるとでも、なんとでも言っておけば、堂々と口説ける。
俺たちはこの告白ごっこをきっかけにあの子に話しかけたいだけなんだ。
ニックの往生際が悪く勝負は白熱したものの計画通り俺は負けた。
よしっ!!
拳を突き上げそうになるが、悔しがるポーズを忘れない。
案の定告白ごっこに指定されたのはあの子。
「そうと決まれば明日決行だ!見ておけよ?」
俺は宣言した。
「キャルよ、とはいえどうやって呼び出すんだ?俺たちが話しかけたら目立つぞ?準男爵令嬢相手とはいえ罰ゲームはこっそりやりたい。だろ?」
それはそうだ。
「カザン準男爵令嬢といえば図書委員だったはずだ。放課後この辺で待ってれば向こうからやってくるんじゃないか?」
さっきまではあの子のことよく知らないふりをしていたというのに、実は詳しい事が丸わかりだ。
だけれどそこをつっこむ者などいない。
些末な事だ。
とうとうあの子と接点が持てる高揚感が場を包んでいる。
「あー楽しみだなぁ。上っ面にみんな騙されてて気の毒だなあって思ってたんだ。キャルよ、一回くらい振られろ!」
「あー楽しみだなぁ。大真面目令嬢までも俺の魅力にやられるところをみせてやれるんだからなあ!」
ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ ドッ
軽口をたたいたものの話しかけるのは明日だというのに、俺の心臓は破裂寸前。
身体中に響く音がうるさかった。




