これが展覧会か〜
町から離れた場所にある森の中。
聞くだけで気分が悪くなるような魔物の鳴き声が絶えず、どこか雰囲気が暗い森の中で、魔物の討伐に向かった二人組がいた。
大剣を持った、緑混じりの髪をした大柄の男性カイ。
杖を持った、赤のグラデーションの髪をした女性カナデ。
狼の姿をした魔物の群れとの交戦中、魔法の準備をしていたカナデの腕に、一匹の虫が止まろうとして飛んできた。それはセミであり、ジジッと鳴きながら近づいてきた。
「――ぉばっっっっっかやろおあぁぁ!!!!」
「は?!なん――――」
結果、魔法が暴発した。
あたりの木々を吹き飛ばし、大きな煙を作り出し、二人は吹き飛ばされた。空に。
空中でカナデはとっさに、暴発して爆発して更地になった森の一部に再生魔法をかけ、カイと自分に防御魔法をかけ、復活した木々めがけて落っこちる。木々の隙間を縫って、カイは見事に受け身をとって着地をしたが、カナデはそこまでの身体能力はないため、木に引っかかった。
逆さまで枝に引っかかりつられた状態で、カナデとカイは見つめあう。
「――――何があった?」
「――セミ……セミが…………」
カナデが虚ろな目でそう呟く。カイは素直に驚いた。
虫がダメなことも爆発したことも。
「虫ダメなんだな」
「虫がダメというか、飛んでるやつがダメというか、セミは死んでもいい」
「風物詩消えちゃうからそれ」
一部の人間を敵に回す発言をしながら、ぶらぶらと体を揺らす。
いつまで逆さまになっているのかと思っていると、ふと思い出したかのように目を瞬かせて体を起こす。そして木から降りてくると、服についた汚れを払い落しながら言った。
「そういや展覧会もう明日か」
「急だな?そうだよ。だからこうして金稼いでるんだよ」
「あ、そういうための今日だったんだ」
「じゃあ何のために来たと思ってた?」
苦笑しながら、カイも同じになって服の汚れを払いのける。爆発の影響で砂埃などが巻き上がって煙たい。
「――なぁ、魔法って爆発するもんなのか?」
「何というか、私が使ってるのは半分感覚だから……」
「感覚が狂うとよくない?」
「よくない。気が散ったら本当に危ない」
「魔法ってわかんね~~」
そんなやり取りをしながら、カイはあっと声を上げる。
何事かと首をかしげるカナデに向かって、口元を隠す動作をする。
「どした?」
「魔物……跡形もなく吹っ飛んだけど、素材……討伐の証……」
「あ…………」
魔物からとれる魔石がないと、魔物を討伐したことを証明できない。これは、冒険者教会で定められているものだ。そのため、今の状態で行ったとしても承諾されない。
冷や汗を流しながら、この状況を変えようと考えるが、何もいい案が思いつかない。
そもそも、魔石まで跡形もなく粉砕する事態を想定していない。
「べ、別の奴を探して倒す、とか?」
「生態系の維持は必須だし、さっきの爆発で絶対逃げただろ。追っかけても逃げるぞ」
「あーー…………今日は運悪く見つからなかったということで」
「ちゃんと報告しに行くぞ。セミにビビッて魔法暴発して塵すら残らず消滅させましたってな」
「ひぃん……はい……」
泣きまねをするカナデに鼻を鳴らしながら、帰り道を歩く。カナデもそれについていく。ただ、心の中では『セミはやっぱり滅んだ方がいい』と強く願った。
カナデがこの世の中で一番嫌いな虫はセミである。その他は大丈夫なくせして、これだけはどうしても克服できなかったのだ。
その後、帰り道の馬車で森の爆発について問いただされ、冒険者ギルド内でも根掘り葉掘り聞かれた。
自分の責任だとわかってはいるし、ちゃんと反省もしているのだが、心の奥底でセミへの恨み節をつぶやいていた。
そんなこんなで迎えた次の日。『フィラナ』の展覧会が開催される日だ。
町はいつもよりにぎわっていて、すれ違う人々の多さが段違いである。それだけ、注目されているのだろう。
その人の波が行きつく先の展覧会で、カイとカナデはパンフレットを見ながら列に並んでいた。
「すご。こういうの行ったことなかったからな~」
「実物はもっとすごいと思うぞ」
実際、屋根のある外に、日の当たらないように注意しておかれている絵画は、遠くからでもわかる迫力がある。見た人を魅了する力を持っている。そう錯覚できるほど素晴らしい出来栄えである。
少しずつ進んでいく列は、案外早く二人の順番となった。
入場料を払い、入っていく。
すぐ目に映った絵画たちに、カナデは目を輝かせる。カイはまるで評論家のようにほうと感嘆している。それほど、素晴らしいものばかりだった。
歩きながら、絵画を流し見ていく。前述通り風景画ばかりではあったが、それでも飽きが来ない。
街並み。街道。雑木林。川のほとり。滝つぼ。夕焼け。
ありとあらゆる日常風景が切り取られ、そこに陳列してあった。
「親父。普通にすごいわ」
「わかるそれな」
静寂を壊さぬよう、静かな声で同意を求める。
カイも同意見だったようで、深くうなずいた。
あらかた見回って一区切りついたころに、カナデはパンフレットをまた確認する。そこには『フィラナとの対談』というものの開始時間が書かれている。まだもう少し時間があるようだ。
「――カナデ。座っていいか?」
「あ、疲れた?」
「あーちょっと。おじいちゃんにはきついわ」
「まだそんな年じゃないだろ」
近くのベンチを探し、カイは腰掛ける。カナデも隣に座って少し休んでいたが、早々に飽きて立ち上がる。
「そこらへん、見て回ってくる」
「へーい」
カイを置いて、カナデはふらふらとあちこち歩き回り始める。共に行動する人がいなくなると、自由さが増す。あっち行ってこっち行ってを繰り返す。
たくさんの景色に囲まれ、心地よい気分になってきたところで、カイの元に戻ろうと足を止める。振り返ろうとして、また動きが止まる。
カナデの目に映った絵画は、どこか古く、懐かしさを感じるものだった。他の絵画と違う雰囲気のそれをじっと見つめ、見つめ、すっと視線を戻してその場から離れる。
その絵は、庭の広い大きな屋敷の絵だった。




