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家が没落して家族バラバラになったので集めます  作者: 柳上晶


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7/7

初めましてと言うか

 展覧会内の放浪を終えたカナデは、変わらず椅子に座っているカイの元に戻ってくる。

 満足げに帰ってきたカナデを視認し、カイはよっこいせと立ち上がる。


「どうだった?」

「めっちゃすごかった。絵めっちゃうまい」

「そりゃそうだろうよ……」


 ほぼ中身のない感想に、あきれて何も言えないカイは、やれやれと言った様子で腰に手を当てる。


「じゃあ、もうそろそろ行くか。もう十分堪能しただろ」

「うい。早く行こ」


 並んで行く先は『フィラナ』との対談会場。ようやくご対面といったところだ。

 パンフレットに書かれてあるものに従いながら進んでいく。人の流れもそちら向きになってきている。

 周りの人間を横目に見ながら、カナデは先ほど見た屋敷の絵画を思い出していた。


「……なあ親父」

「ん、なんだ?」

「さっき、気になる絵を見かけてさ。大きな屋敷の絵」

「そんなものがあったのか。何が気になったんだよ」

「いや……昔住んでた屋敷にそっくりだなって思って……」

「え、それって……」


 それは、今回の件を確定させるものだと思い、問いただそうとする。

 カナデも、言葉を続けようとするが、それは阻止される。


「皆さん、今回はフィラナの展覧会にお集まりいただきありがとうございます!」

「おっと――話はあとでにしよう」

「そうだね」


 声高らかに告げられた言葉に、口を閉ざす。どうやら時間がきたようだ。

 対談の始まりを宣言する人物に視線が集まり、これから登場するであろう『フィラナ』を待望する。その期待を一身に背負って司会は語り続ける。


「皆様を待たせるのは野暮ですので、さっそくご登場していただきましょう!稀代の天才画家フィラナです!」


 わあっという歓声とともに迎えられて登場した『フィラナ』は、それはそれはスタイルのいい青年だった。

 司会を務めている人物よりも背が高く、短く切りそろえられた濃い紫の髪は、手入れが行き届いているのだろうと思わせる清潔感があった。その立ち姿からも気品を感じる。

 目深くかぶった帽子を、少しだけ上げて、集まった人々を確認する動作をする。

 その一瞬の隙を見逃さず、カイとカナデの二人は顔を確認する。


「――――!」

「――」


 カイと『フィラナ』はその視線が絡み合い、はっと息をのむ。

 その顔は、見覚えのある人物のものだったからだ。

 昔の知り合い。かつての執事。

 誰よりも、フィラナと共にいて、そばに仕えた。忠誠心の高い彼。

 なお、カナデは視力があまりよくないので見えていない。目を限界まで細めて頑張って見ようとしている。


「……あいつ、ヤスだ」

「え、ヤス?ヤエキス?あれ。へーー」

「何でわかんねぇんだよ」


 ヒソヒソとそう話しているうちに、『フィラナ』もといヤエキスは視線を逸らす。そうして何事もなくそのまま進行していく対談だが、情報を把握するためにカナデとカイは人混みをかき分けて離れる。

 目標のフィラナではなかったが、同じほどの収穫はある。

 そんな2人の後ろ姿を、帽子の下からじっと見つめていた。




 ヤエキス。家事、芸術、武術。何でもできる万能執事であり、フィラナの専属執事として働いていた。

 家が没落した後、フィラナと共に出たと認識している。というか、十中八九そうだと確信している。ヤエキスというのはそういうやつだ。

 いつどこにいてもそばに控えて、時に呼べばすぐ現れたり、ある時には怖いぐらいに過保護になる。よく他の召使をにらみつけていたのを思い出す。

 そんな奴が一人でかつ、フィラナの名前を使って活動している。


「絶対なんか裏があるって!おかしいだろ!」

「まあ、気がふれた以外に理由づけるものがないしな」

「それ以外でも考えろ……と言いたいとこだが、本当に謎なんだよな」


 展覧会の建物から出ると、人がおらず閑散としていた。きっとこの辺りにいた人々はすべて対談に向かっているのだろう。この状況は都合がいい。周りを気にせず話せる。


「あいつ、多分俺に気づいてたぞ」


 先ほど視線が合ったことを思い返しながら、カイはそう言う。


「本当?じゃあ、向こうもわかってるってこと?」

「多分な。ただ……」

「……どう接触するか」

「なんだよなーー」


 面識があるからといって簡単に会える相手ではない。だからといって、諦めるわけにもいかない。

 カイを見て反応したということは、少なくとも覚えている側の人間だ。これを逃す手はない。


「どうする?権力?」

「権力って……そんなもんないだろ。冒険者の地位で勝負できると思うか」

「貴族と平民なら絶対負ける」

「そういうもんだよ。いい感じにならないかな。なんか、こう、いい感じに」

「具体性がなさすぎる。向こうから接触してきたりとか、そういう感じ?」

「そういう感じ」


 絶望的すぎる状況に、思わずため息が漏れ出そうな顔をしているカイ。それを見て、カナデは腕を組んで悩む。

 いい案は思い浮かばないが、とりあえず思いつくもの全てを上げていく。


「突撃」

「ダメ。具体的に言えよ。どこに突撃するんだ」

「待ち伏せ」

「いいけど、言い訳どうする」

「宿まで尾行」

「何する気だよ。衛兵呼ばれる」

「今から職員に金握らせて会いに行くか」

「まあ、確実だけどさあ」

「じゃあ意見出せよ!」

「おっしゃる通り!」

「あ、あのー……」


 ワイワイぎゃいぎゃいと話している二人は、声の音量がだんだんとエスカレートしていき、近くまで来た人に、声をかけられるまで気が付かなかった。

 慌てて口を閉じて声がした方を向けば、職員らしき人が困った様子でたたずんでいた。

 驚きと焦りで声が出ない二人は、しばらくの沈黙の後、ゆっくり言葉を発した。


「…………ぁ、な、なんでしょう」

「すみませんお忙しい中」

「いえいえ!全然!」

「そう全然気にしてないですよ!」


 冷や汗を流しながら目配せをして、先ほどの会話が聞かれてないかを案ずる。幸い、深掘りはされなさそうだ。


「その、フィラナ様からの伝言です。この後、南門の前で待っているとのことです」

「南?しかも門前で?」

「伝言は伝えました。それでは、失礼します」


 伝え終えると一礼をして背を向ける。すぐに建物の中に戻っていく後ろ姿を見送り、顔を見合わせる。


「……罠?」

「……まさかぁ」


 本当に、なんか、いい感じになった。

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