家を買おう!
換金作業も終わり、ドラゴン襲撃事件が落ち着いてきたころに、カナデとカイは再び会う流れとなった。
カイに軽く手を挙げて場所を主張する。開けた広場でいつもの服装で顔を合わせる。
「――じゃ、家見に行くか!」
「だから!気が早い!」
ウインクして立てた親指を見せるカナデに、突っ込みを入れる。
もはや平常運転だ。いくらか頭がおかしいが。
「何買うんだよ、まず。目星はつけてんのか」
「つけてるけど……親父が代わりに買ってくんない?」
「ナンデ?!」
「金は払うからさ!」
両手を合わせてお願いをされる。頭も下げられ、逃げ道をふさがれる。
こうなってしまえば断れない。それを理解したうえでか、無自覚かはわからないが。
とにかく、一秒でも早く顔を上げさせなくてはならない。今こうしている間にも視線が痛くなる。
「い、一応聞くが、なんで俺?」
「買い方わからんし怖い」
「おおい!人見知りを発動させるな?」
肩をつかみ、無理やり顔を上げさせて見えたカナデの顔は、少しも悪びれていない顔だった。
「だって……契約金だの土地代だの建物代だのめんどいもん。金は腐るほどあるけどさ」
「あーー……なるほど?どんだけ持ってんの?」
「城は買える」
「桁がちげえ!」
「三、四割は先日のドラゴンね」
「あいつやばっ。金のなる木……いや、やめとこ」
とにかく、場所を移動しながら話すことにした二人は、カナデの理想とする屋敷について延々と聞かされることとなった。
まず広く、庭もあるもの。家族ともう複数人が悠々と暮らせるもの。不自由がないもの。昔住んでいた屋敷に近いもの。
次々と上げられる希望に、カイはだんだんと複雑そうな顔になる。
「本当にそれがいいのか?」
「いや別に」
「何だったんだ今の時間!!」
「ははっ!」
頬を緩めているカナデに、それ以上踏み込もうとは思わず目をそらす。
「ま、広ければ広いほどいいだろ。さすがに、掃除が行き届くくらいにはするけど」
「どんだけ広くするつもりだよ。そもそも……使用人もそんないなかっただろ」
「まあ、フィラナにべったりでゾッコンだった奴が二人?」
「それ以外はさすがにどっか行っただろ。また集めるのか?」
「それも面倒だしな……」
「小さめの奴にしろ」
「わかったよ」
そうこうしているうちに不動産につき、カイを先頭に入っていく。
店の中は人があまりおらず、すぐに順番が来る。
通されたほうには人当たり良さそうな女性がおり、二人を見た途端笑顔のまま動きが止まった。
二人はそれになんの疑問も抱かず目の前の椅子に座った。
「すみませーん。屋敷サイズの家を買いたいんですけど」
「小さめのやつな?最低でも六人くらいが住めるのがいいな」
「立地はどこでもいいです」
「できるだけ私生活が不便にならない程度で」
カナデの一言一言に訂正を挟みながら、的確に候補を絞っていく。ただ、それを聞いている職員はそれどころではなかった。
プルプルと震えながら、信じられないと言った様子で手を握りしめる。
その様子に疑問符を浮かべた二人は、まともに働けとシンプルに思って目を合わせた。
「あの?」
「……す、すみません!ええと……失礼ですが、冒険者で話題の……?」
「あぁ……まぁ…………」
「そう、だな?」
斜め上を見上げながら、肯定をする。すると、ガタッと音を立てて立ち上がっては興奮気味に身を乗り出してきた。
「新星の狼と剣聖の二人?!ももも、もしかして!同居……!け、結婚……!」
「違うわアホぉ!」
「年齢差すごっ。てかうるせえ」
建物中に響き渡る声に、一気に視線が集まる。
ここ最近、注目されてばかりだ。カナデは隠そうともせずうんざりした顔を作る。カイも、額に手を当てて天を仰いでいる。
望まない注目はお呼びではない。むしろ嫌よりである。
そんな二人を知ってか知らずか、身振り手振りで喜んでいることを表現する。
「あの、私、お二人と話してみたいと思ってまして!先日の襲撃事件で被害を出さずに鎮圧したって聞いてホッとして、すごい実力者なんだなって!本当に感謝してます!」
「そ、そんな褒めても何も出ないからな?」
「鼻の下伸びてるぞ」
「うそやん?!」
「うそ」
軽口を言い合う姿を見て、職員はさらに感激する。巷で噂の冒険者が互いに認識があり、かつ仲良さげにしているのが何らかの刺激になったのだろう。
その場にいた大半の人は、面白そうなことが起きていると好奇心を丸出しにしてカナデとカイを見ている。中には敵意を見せてくる人もいるが華麗にスルーする。どうせ騒がしくしているのが気に食わないだけだろう。
「お二人はどうやってであって仲を深めて…………!」
「もう、なんか、いいかな。帰りたくなってきた」
「おおう。心折れるのはやすぎぃ」
「あ、待ってくださいすみません!」
「そう言うんだったら早くしてくれーー」
少々予想外の展開にはなったが、何とかして話を軌道に戻す。
ゆっくりと通常運転に戻っていき、空気も元に戻ったあたりで、話が進んでいく。
先ほどと打って変わってサクサクと進んでいく話に、カナデは流し聞きしているだけになった。話が右から左に流れていく。理解しようとはしているが、言葉が頭の中に残らないのだ。
(親父いてよかったー。本当に。脳死で契約するところだった)
カナデにとって難しそうな話を聞き流しながら、たまに周りを見回したりして時間をつぶした。
「――――では、こちらの屋敷にということで」
「親父ー!探検してくるー!」
「はい、それで大丈夫です――おいカナデどっか行ってんじゃねえ!」
ものの見事に全てをカイに押し付けることに成功し、テンションが上がりまくっているカナデは、どこの子供かと思うほどに無邪気に振舞っている。
カイはその様子に困った顔をするが、咎めることはなく見守っている。
「……家族、なんですか?」
「え?」
職員の方を見れば、以外というような顔でカイを見ていた。カナデはいつの間にかどこにも見当たらない。
カイは、「まぁ」と言って頬をかいた。
「長く離れてはいましたけど、家族ですよ。親父って言ってついてきて、家族を大切にしてて…………俺は、あんまり考えてやれなかったけど」
「それって……何かあったんですか?」
純粋な疑問。それに苦い顔をして言葉を考える。
背景が複雑すぎるため、説明もできないうえ、どう思われるかもわからない。沈黙を貫こうとも思ったが、続きを求める職員の目に、顔が引きつりかける。
(何で家族事情に首っ突っ込んでくるかなあ?!そっとしておいてくれよ!)
冷や汗だらだらで無言で訴えるが、逆に期待のこもった目で見てくる。
かなり圧がある。
(どうしようどうすればいいかなぁ!この話はやめときますかねって言うか?そうするか?!そうしよう――――)
「親父ーー!!」
「ぐえーーー!!!」
突如、横から突進してきたカナデに吹き飛ばされる。
良くも悪くも腰を折ることとなった。
「もう終わったか?金払う?」
「おごごご……」
「やばい、勢いつきすぎた……?あ、お金です」
「あ、ど、どうも……」
何もないところから財布を取り出し、カードを取り出す。手持ちの金はすべてここに収められているので、一括で支払える。
支払いが終わった後、そそくさと逃げるように帰っていった職員の背中をじっと見つめ、ふいっと視線を外す。
地面で痛みにのたうち回っているカイに手をかざし、回復魔術を使う。
「お前ガチさ……」
「ごめんごめん」
「おわっ、なんか、痛みなくなった」
「すごいやろ」
「すげえや、あんがと。でも……」
立ち上がり、カナデを見下ろすカイの顔は、背筋が凍るほど冷たい顔をしていた。
これから起こることを理解し、カナデは自主的に正座を始める。
「人に危害を加えるな」
「すみません…………」




