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家が没落して家族バラバラになったので集めます  作者: 柳上晶


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1/3

始まり

 少し昔、とても仲睦まじい家族がいた。貴族だった。

 誰からも期待され、支持されていた侯爵家であり、誰よりも誠実だった。

 だがある時、様々な問題が積み重なり、その家は没落してしまった。本当に、不慮の事故だった。

 そうして、家族は離れ離れとなり、姿を見なくなった辺りで、いつしか噂話が広がった。


「彼らは、呪われてしまった。……母親が死んだときから」






 それから、数年の時が経った。




 

 ところ変わってある冒険者ギルドの中。様々な冒険者がはびこる中、ひときわ存在感を放つ人物がいた。

 凛とした佇まいに、近寄りがたい雰囲気。誰が見てもきれいな横顔は、話しかけづらい圧と恐怖が入り混じっている。その人物は、依頼の紙が貼られた掲示板の前で立ち尽くし、物憂げにため息をついた。


「――なあなあ。あの人って、あの有名な?」

「そうそう。紅の狼。期待の新星。奇才の魔術師。二つ名が多くてもはやどう呼べばいいかわからないってやつ」

「男?女?」

「詮索するのはやめとけ。殴られるらしいぞ」

「えぇ……こわぁ……」


 遠巻きに眺めていた人々は、その人物の話ばかりをしている。今話題の人だ。

 最近始めてやってきたと思いきや、ものすごい勢いでランクを上げていき、トップに近い位置まで駆け上がった恐るべき人物。本人を知らない人は作り話と思うほど、それは異様なことだった。


「でもさ、同じような噂あったけど、あれはあの人じゃないの?」

「あー……同一視してるとこもあるけど、あっちははっきり男って言ってるし、特徴も違う。それに剣士らしい。あの人は魔術師だから」

「へぇー。じゃあ、どんな感じなの?」

「高身長に緑のメッシュ。でかい大剣持って振り回してるらしい」

「え、あんな感じ?」

「え?」


 そう言って指さした方向には、短い髪に緑のメッシュが入った大剣持ちの、ちょうど話していた特徴そのものの男性がいた。彼は慣れた足取りで掲示板に歩み寄り、依頼を物色し始めた。

 緊迫した雰囲気になりかけた中で、隣同士で並んでいた二人の目が合い、まったくおんなじ反応をして驚いた。

 目を見開き、互いを指さして叫ぶ。


「おま……!」

「親父!!??」


 しばらく見つめあい、硬直する。

 あまりのことに、二人して状況が呑み込めていないのだ。

 こんがらがった頭で考え、はっと我に返ると、その場の視線をすべて受けていることに気づき、冷や汗を流す。普通なら、ここまで慌てる必要はないのだが、場所が場所である。

 かなり危うい。


「……親父。出るぞ!」

「は、なん、待て引っ張るな……!」


 腕を握り外へと引っ張り出ていく。

 周りの人々はその様子を、ただただ呆けた顔で見守ることしかできなかった。





「いやーまさか、親父もおんなじことを考えてたとは」

「それは、こっちのセリフだけどな?紅の狼さん」

「お?やんのか?全然手出る」

「やめろやめろ。店だぞ?お前も出禁は嫌だろ」


 ちょっとした飲み物を机に置き、二人は話をする。

 再開を懐かしむというよりかは、まるで昨日も会っていたかのようなフランクさで話を進める。


「で、何してんだお前」

「見ての通り冒険者。あんなとこにいて冒険者以外なんてことはないだろ」

「まあそうだが、そうじゃなくて。お前のことだから早々に国を離れてると思ったんだよ」


 手元のグラスに刺さったストローで氷をかき混ぜ、カラカラと音を立てる。


「ほら、お前ずっと自由に生きたいとかなんとか」

「一人の方が気楽とは言ったな」

「そうそう。いつか陰気な屋敷から出たいって言って困らせてた」

「うわーー……おれ……私ってそんなイキってるガキだったんだな」


 乾いた笑いで、ごまかすように飲み物を手に取る。そのまま口につけて味わう。気まずいうえにどこかいたたまれない。

 そんな様子を面白そうに眺める。


「……なんだ?」

「いや、変わってないなと。安心した」

「そっちはなんか、老けた?」

「おい」


 あははと笑い、軽口が叩ける相手がいることにほっとする。


「そういや、今の名前何?昔の名前捨てた?」

「あ、昔の奴から適当にとってカナデにした。お前は?」

「俺はそのままカイなんだが」

「変えないタイプか。それでもよかったけどなー」

「何で変えたんだ?」

「お前……わかるだろ?名前があまりに貴族なんだよ」

「ああ…………なんだっけ」

「忘れてんじゃねえ」


 他愛のない会話を続け、たまに軽食を頼み、日が傾くまで気づかずに話は続いていく。

 積もる話が山のようにある。今まで何をしてきたか。どうやって生きてきたか。どんなことがあったか。あらゆる話をしては笑いあう。


「あ。そういや、依頼を受けにきてたんだよな。邪魔したか?」

「まあ、お互いさまってことで。じゃあ、明日一緒に依頼受ける?」

「そうするか。今日はもう遅いし。宿どこ?」

「あっち」

「んじゃ、解散で」

「うい」


 あっけなく終わりの時間が来て、今日はこれで終わりと別れる。別れを惜しんだりはしない。それはもう昔の内に終わらせた。

 カナデは、カイに手を振り後ろ姿をしばらく眺めた後、自身もさっと動き出し宿へと帰った。

 実に数年ぶりの再会。三年か、四年か、詳しくは覚えていない。思い出そうとはしない。

 それでも、久しぶりに会っても、変わらずに接してくれたことがうれしかった。変わってないのが分かってよかった。

 帰り道、少し浮かれた足取りでスキップをした。







 次の日、共にギルドに訪れた二人は、異常なほど目立っていた。わかりやすい視線に苦笑いしながら掲示板の方に向かう。

 進む先にいる人々は二人のために道を開けて、伺うように見ている。

 その視線に当てられてそわそわとしているカナデを見て、面白くなって鼻で笑う。


「――お前さ、なんか緊張してね?」

「あ、まあ、うん、そう、だな?うん」

「めっちゃどもってんじゃん何で?!」

「いや、こんな見られることなんてなかったし……」

「そういや人見知りかお前」


 口元に手を当てて表情を見せないようにしているが、目があからさまに嫌そうにしている。隠しきれていない。ただ、口元の方はもっと嫌そうに歪んでいるのだろう。

 仕方なしに依頼の紙を見る。大したものはなく、前と比べたら依頼は確実に減っている。

 それを二人して眺めて、まあそうだろうなと考える。


((俺が片っ端から片付けてったからなー))


 さてどうするかと悩み始めた途端――――



「――――ん?」

「どうした――」


 急に明後日の方向を見始めるカナデにつられて、カイも同じようにそちらを見る。その場にいた冒険者たちも不思議そうにしながらカナデの見た方向を見るが、何もわからずカナデの方を見た。


「何か来たな」

「あ?」


 そう呟いた次の瞬間、耳をつんざく咆哮が国中に響き渡る。

 皆耳をふさぎ、何が起きたのかわからない状態で、一部の人を除きその場に倒れる。カイはその咆哮を聞き、面倒くさそうにため息をついた。


「もしかして、ドラゴン?」

「らしいね。ラッキーじゃん」

「どこが!?」


 早足にギルドを出て、明後日の方向の青空に地上を覆うほどの影を作るドラゴンが悠々と飛んでいるのを発見する。

 町の人々は阿鼻叫喚。持っていた荷物も捨て去り我先にと逃げようとする。一番安全とされる城の方へと人がなだれ込んでいく。

 その人の流れに逆らいながら、カナデとカイの二人はドラゴンの方へと向かう。


「ドラゴンって、めちゃくちゃ高く売れるじゃん」

「そうだけど……まさか?」

「そのまさか」


 だんだん人が少なくなってくるとカナデはおもむろに杖を取り出し、構える。腕の肘辺りまでの長さの杖を軽く振れば、二人の足元に魔法陣が現れる。

 そのまま光に包まれたかと思うと、いつの間にか城壁の外に出ており、カイは唐突な場面変更に躓きかけた。


「おい!こういうのは先に言え!」

「すんまへーん」


 一瞬で目の前に現れた二人に、ドラゴンは警戒する。

 このドラゴンは黒く、圧倒的な存在感を放っていた。かつて国をいくつも滅ぼしたとされる黒龍であり、その数は少ないがどれも好戦的。黒龍にとって、国の侵略は暇つぶしに過ぎない。

 カイも大剣を抜き、戦闘状態に入る。

 そんな中、いつまでもボケっとしているカナデは、ドラゴンを見た。


「大きいし素材多そうだな」

「何?金欠なの?」

「いや、やりたいことがあって」

「そうかよ」

「じゃ、前衛頼むわ」

「おう」


 しれっと始まった初めての協力だが、二人して特に不安はなかった。

 互いに信頼関係があるからとかではなく、本当にどうでもいいこと。


(まあ、こいつなら何とかするだろ)


 そうして、ドラゴンの炎のブレスを皮切りに戦闘が始まった。が、それはあっけないものだった。ドラゴンがかわいそうに見えるくらいには。

 ブレスは結界によって阻まれ、炎の中から飛び出してきたカイに狙いを定めようとする。そちらに意識を割かれ、上からくる魔法に気づけない。結果、羽の根元に打ち込まれた光の剣によって羽が切り落とされ、地上に落ちていく。

 落ちた先には、カイが待ち構えている。

 最後の悪あがきに、口を大きく開けてブレスを放とうとする。喉の奥が光り、揺らめき、ブレスが放たれる。

 カイは、そのブレスごと叩き切り、見事その首を落とす。哀れなことに、ドラゴンはものの数分で倒されたのだった。

 そして、至近距離にいたカイはドラゴンの断面から噴き出た血を頭からかぶり、全身が赤く染まった。


「ふはっ」

「水!水くれうわっくっさ!!」

「ほいほい」


 ちょちょいと杖を振ってカイの頭から滝のように水を生み出す。水にぬれた子犬のようになったカイを見てまた笑う。


「ははは!」

「お前なあ……なんか笑いの沸点低くない?」

「いやいや、笑顔がないと社会に溶け込めないよ?愛想笑いしてたらそっちに引っ張られたの」

「そうか……乾かして」

「うーい」


 一瞬にして鎮圧されたドラゴンを見て、カナデはにんまりと笑う。


「これはもう、十分足りるな」

「そういや、何しようとしてるんだ?」

「まあ、単純なことだよ」


 とことこ歩いてドラゴンの首のもとに行き、鱗を撫でる。固く、ザラリとした手触りに、素材として万能だと思う。

 どれくらいの金額になるか、考えるだけでもワクワクする。

 視線をカイに戻し、楽しそうに笑う。


「また家族で集まって、一緒に暮らしたいんだよね。そのための、地盤を作るんだ」


 そう言ったカナデに、嫌な予感がすると冷や汗を流しながら、カイは剣についた血を払いながら疑問を口にする。


「まさか、爵位を買うとか……」

「違うよ。あんな面倒ばっかのことはもうこりごりだ」


 杖を軽く振ると、手元から消える。何も持たない手で腕を組み、自信満々に答える。


「まあまずは家かな。屋敷」

「バカだろお前!?」

「親父は栄えある一人目だぞ!喜べ!」

「素直に喜べるかあ!!」


 絶叫するカイに、わかってないなあとでも言うように首を振る。

 かなり癪に障るため、カイは切れる寸前だ。


「親父だってさ、みんなと会いたいだろ」

「……会えたら、そりゃうれしいけど。どこ行ったかなんて知らないだろ」

「それはまあ、何とかなるし。親父もさ、サラ、は、何とかやってそうだし。フィラナ――お嬢が無事か気になるでしょ」

「ううん……お嬢はヤスがいるからな……」

「え、そうじゃん。じゃなくて」


 思わず突っ込みを入れる。

 カナデは咳払いをして、一旦この空気をリセットする。


「私は家族とまた一緒に暮らしたい。ただそれだけ。親父はそう思ってない?」

「そう言われるとな。もちろん会いたい。また一緒にバカやって笑いあって、面白おかしく過ごしたい」

「じゃあ決まりだ」


 カイの目の前に歩み寄り、手を差し出す。それを訝し気に眺めた後、カナデの顔を見る。

 何も読み取れない。


(相変わらずだな、本当に)


 カイは、ため息をつきながらその差し出された手を握る。


「しゃあ!一人目!」

「うわびっくりした!急に大声出すな!」

「早速いい感じの屋敷探そうぜ!」

「待てい!後始末が先じゃい!」

「あはっ、そうじゃん」


 カイは頭を抱えるが、その実心の底では嬉しさがこみあげていた。

 この感じ、昔と変わらない。変わっていない。それが嬉しく、思わず口元がにやける。

 この能天気な長女カナデが、考えたことを即実行する破天荒な性格を変えることがないまま生きていたことがありがたく、奇跡のようなものだと考える。それと同時に、一抹の不安がよぎる。昔と変わらないのであれば、昔見え隠れしていた狂気はどうなっているのか。


(多分、消えてないよなあ。節操なしじゃないし、心配するもんじゃないけど)


 親父として、カナデを奇行に走らせないようにするため、そばにいた方がいいという結論に至る。

 社交性を身に着けてはいるが、何がきっかけになるかはわからない。


「次誰を探す?」

「やっぱ、お嬢が心配だわ。お嬢成分が欲しい」

「キッ……」

「言いよどむな?むしろはっきり言ってくれ?」


 笑い上戸とでもいうように笑い続けるカナデに、仕方がないなと笑う。

 これから、バラバラになった家族を探すなどという無謀なことが行われる。だが、無理だとは思わない。むしろ、ようやっと動き出したかとさえ思った。

 この家族は、思っているよりタフで自由奔放でうまくやっている。きっとほかの家族もそうだ。

 これから起こるであろう事象に思いをはせながら、楽しげに笑った。

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