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そして俺は宰相になる  作者: ふーげん
第二章 反乱軍編
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第二十話 交渉

「皆聞いてくれ! 領主の奴がバンジェロ様を見せしめに殺すって言ってたぞ!」


 深夜のファイスト村にて若者達は密かに談合をしていた。


「やっぱり余所者は信用ならねぇ! 年寄り共を言いくるめたって俺達は騙されねぇぞ!」


「俺らもバンジェロさんに加勢しよう! オルディアの連中を追い出すんだ!」


 月が雲に隠れ、漆黒が辺りを覆う中、煌々と輝く火の光がルークの屋敷へと向かっていた。


「お前ら、準備はいいか?」


 複数の若者達が矢を松明にかざす。


「窓を狙えよ。構え......撃て」


 合図と共に一斉に火矢が撃ちかけられる。鋭い風切り音と共に窓ガラスが割れる。

 音と煙で目が覚めたルークは急いでアリアを起こし、大広間へと向かう。

 既に全員集まっていたようで、火の手が屋敷中に広がる前に外に出た。


「領主さんよ、悪いがあんたには死んでもらうぜ。俺達がバンジェロさんを守り抜く。

 余所者のあんたらがいなくたって、俺達は上手くやっていけるんだ!」


 一斉に襲いかかってくる若者達、無数の殺意がルークに集まっていた。


(どうするこの状況......! 丸腰じゃアリア一人も守れない! 囮となって皆から引き剥がすか?

 いや、危険すぎる! あいつらが皆を襲わない保証はない! じゃあどうする?

 考えろ考えろ......! こういう事態も切り抜けられるように軍師をやってきたんだろ俺!)


「ルークフェルト様、恐れながら我々に戦闘の許可をくださいませんか?

 どうやらアリア様は、酷く憔悴なさっているみたいですので......」


 今回の襲撃で精神に限界が来たのか、息も絶え絶えでルークに寄りかからなくては立っていられない状態となっていた。


「......あぁ分かった、お前達に戦う事を命じる。

 ただし、あいつらは一人も殺すな」


「承知いたしました」


 セナが右手を高く掲げるとメイド達は若者達に向かって飛び出していく。


「行っくで~! シロちゃんの力思い知らせたる!」


「だるー、ベラ行きまーす」


「あわわわわ......キョウ参ります~!」


 武器を持った屈強な若者達を次から次へと徒手空拳で沈めていく。

 戦闘を許可してからジャスト3分、40人はいたであろう若者達が全員地面で伸びていた。


「皆さんそこまでです! やりすぎは厳禁ですよ!」


 セナの号令によりメイド達の動きが止まる。

 それはメイドというよりも訓練された軍隊のような動きであった。


「す、すごい......。体格差のある相手をこんな簡単に......。

 もしかして皆さん、元々メイドじゃなくてどこかの軍に所属を?」


「良い女には秘密が付きもの。詮索は野暮でございますわよルークフェルト様?」


 ルークは慌てて口を噤む。消化活動の為にメイド達に指示を出していると、

 騒ぎを聞きつけたナルニック達が急いで駆けつけてきた。


「ルークフェルト様! これは一体何の騒ぎですか!? 

 なっ......お屋敷が......おい皆の衆! 急いでバケツの用意を!」


 村の大人達の助力もあり、火事は数時間で消えた。

 幸い、近くの森に燃え広がる事は無かったが、屋敷の中は黒焦げになっていた。


「それで、どうして俺達を襲ったのか説明してくれ」


「......あんたらがバンジェロさんを殺すって言ったんだ! あんたらはバンジェロさんの偉大さを何も分かっちゃいない!」


 若者は縄で拘束されながら喚き続ける。あまりにも会話になっていないやり取りを見かねた村長が語り出す。


「バンジェロ様はガナン盆地の守護神のような御方なのでございます。

 この地は肥沃な土地でございますので、魔物や山賊がよく村々を襲いにきておりました。

 バンジェロ様はそれをことごとく打ち破り、この地に平穏をもたらしたのです」


「そんな凄い方がいたなんて......今まで一度も聞いた事が無いのが不思議なくらいです」


「バンジェロ様は目立つ事がお嫌いだったので......手柄は全てシクタカ様に譲られていたのです」


(才気に溢れ領民に慕われていながら、その存在が一切表に出ない人物......。

 直接会って、どんな奴か確かめないといけないか)



 ――ガナン盆地北部、ガナン第一大砦屋上


「ルークフェルト・ローズロックが面会を?」


「おうそうだ! 髭さんに会いてぇって手紙があって、もうこっちに向かってるみてぇだぞ?」


 好機到来、元々戦場で討ち取る予定だったバンジェロにとって獲物の予期せぬ来訪は願っても無い事だった。


「ルークフェルトっつったら皆に優しいって評判の領主様だもんなぁ! おらも一度会っでみてぇと思ってたんだ! 着いたらすぐにおらん所まで来るように伝えてくんねぇか?」


「おうよ! やっと髭さんの話が分かってくれる奴が来そうだな! じゃあ俺、行ってくるよ!」


「よろしくなぁ~......皆の者、獲物が熊の巣穴に来るらしい。馳走の準備は抜かりあるまいな?」



 ――ガナン第一大砦前のとある路地裏


「ねぇお兄さん、ちょっとだけで良いからさぁ。アタイに教えてくれなぁい?」


「だ、駄目だよエスターちゃん......俺にバンジェロ様は裏切れないよ......」


「ふぅ~ん? じゃあさ、サービスしてあげたら教えてくれる?」


「へ? あっ......あぁ......」


 バンジェロ軍は日に日に規模を増やしており、その数は1万を超える事。

 長期戦になっても半年は耐えられる備蓄がある事。

 これまでの勝利から士気は最高潮に達しており、降伏の空気は微塵もない事を男は白状した。


「毎度あり~、じゃ、お兄さんバイバ~イ」


「ま、待ってエスターちゃん! また会いに来てくれるかな!?」


「う~ん......じゃあ、今よりもっと重要な情報を持ってこれたら考えてあげるね~」


 エスターもといエストリヤは、持ち前の愛嬌と話術を活かしてバンジェロの本拠地で諜報活動をしていた。


(さっきの男は大した情報持ってないからダメだねぇ。ここにはロクな男いないのかなぁ?)


 エストリヤは次から次へとカモになりそうな男をリスト分けしていく。

 次の獲物を探していると、大通りの方が騒がしくなっており、エストリヤは人込みをかき分けて騒ぎの中心を見物しにいった。


(ん~? あそこにいるのはフィアンセ君......と、アリアちゃん!? なんで? なんであのバカップル敵地のど真ん中まで来てるわけ~!?)


 とりあえず自分の仕事をしよう。エストリヤはその場から離れ、再び闇に潜って情報収集を続けた。


「こ......こここ、こちらで、ひげ......じゃなかった、バンジェロ様がお待ちになっておるますです!

 どどど、どうぞ中へお入りくだひゃい!」


(この男、平民だよな? すっごい緊張してる......)


 バンジェロのいる砦に着くと、案内係を名乗る男が案内を申し出ていた。

 砦の中まで案内されたルーク達は、男に従うまま応接間の手前まで来ていた。


「そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ。ここまで案内ご苦労様でした」


「あ、いえいえ! 敬語大事って親父に昔教わったんで! じゃ、俺は失礼すっからよ!」


 男は扉を開けると早々に立ち去っていった。

 応接間の中にはバンジェロが一人椅子に腰かけ二人を待っていた。


(なんだ? この部屋の違和感は......? どこか歪な感じがする)


 応接間に足を踏み入れた瞬間、不気味な違和感を感じて応接間を見渡すルーク。

 アリアは不思議そうな顔で見ていた。


「どうかしたかねルークフェルト殿。王宮と比べちゃみすぼらしいかもしんねけんど、

 こんな所でもここじゃ立派な御殿なんだで。ちったぁ汚くても見過ごしてくれや、がっはっは」


「あぁすいません、私の勘違いのようでした。バンジェロ・カナイガス殿ですね?

 私はルークフェルト・ローズロック、こちらは副官のアリア・オスワルドです」


「こりゃ丁寧にどうもどうも、いやぁ都会から来た新しい領主様ってなぁすげぇなぁ。

 こんな美人な副官なんて連れ回しちゃって~、あぁどうぞどうぞ座ってくれや」


 バンジェロに促されて二人は席に着く。

 今回は降伏勧告ではなく内部調査、なぜ反乱を起こしたのか原因を探りに来たのだ。


「それでは早速本題に移りたいと思いますが、今回の蜂起は税の急激な引き上げに反対しての事だと予想しておりますが、間違いないでしょうか?」


「如何にも」


「承知いたしました。では、私の方から一つ提案があります。

 今回の騒動、私も陛下の強引な姿勢には思う所がありました。

 なので私は陛下に数年ごとの税の引き上げに変更するよう陳情するつもりです。


 さらに、税負担の分散化も行う予定です。

 ガナン盆地にはガナンリンゴというブランド品がありましたよね?

 こちらのブランド品を大陸全土に売り出した際の収益と麦などの年間収穫量、これに15パーセントずつ税をつけ農作物という括りで合計30パーセントとします。


 これなら皆さんの負担も少ないと思います。これで納得いただけないでしょうか?」


 バンジェロは唸り声をあげながら悩んだ様子を見せる。

 この提案が跳ね返されれば戦争をするしかない、バンジェロの賢明な判断を期待するばかりだった。


「ルークフェルト殿、おめさんは領民の事をよう考えてくれるんだなぁ。

 もっと早くおめさんと出会ってたら......いや、おめさんがこの地を治めてくれてたら変わってたのかもしんねぇな。


 すまん! おめさんの提案は受け入れらんねぇ! もうおらだづは殺し合うしかねぇんだべ」


「なっ!?」


(おいおいマジかよ! これを蹴られたらどうしろってんだ!?)


「すいませんが、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」


「理由もなんも、おめだづに従うより、おらだづで仲良くやった方が上手くいぐっでだけよ。

 ともかく、もう戦うしかねぇ! 話はこれで終わりだ!」


(戦いたがっている? いや、戦わざるを得なくなっている? 

 いずれにせよ、バンジェロはともかく道中に出会った連中の反応を見る限り勝てる戦だと思われてるな)


「そうですか......ではバンジェロ殿、あまり俺達を舐めるなよ?

 隠し扉にいる刺客の殺気に俺が気付かないとでも思っているのか?

 お前らが思うよりも俺達は強い、無駄な抵抗は被害を増やすだけだ」


 途端に周囲からざわめき声が聞こえてくる。

 アリアは気が付かなかったようで、ざわめき声を聞いてようやく異変に気が付いた。


「ほほう......小僧、中々勘が働くようだな。

 被害など増やさん、貴様を戦場(いくさば)で仕留め、獅子の首を取ればそれで終いじゃ。

 今日は見逃してやる、戦場(いくさば)で存分に死合おうぞ」


 こうしてルークとバンジェロの会談は高い緊張感を持って終わりを迎えた。

 ルークから報せを受けたレオは全軍に指令を出しバンジェロ討伐を命じた。

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