第二十一話 神降ろし
更新頻度少し落ちます。
バンジェロ討伐に向け、各地より諸将が集結した。
唯一ブレイブだけは、最後の連合領主ユリウス・クランジヌスへの抑えとして軍議に参加していなかった。
「皆さん、お集まりいただいて感謝します。
本日はバンジェロ率いる反乱軍の討伐軍を編成する軍議となります。
敵は農夫を中心とした一揆軍ですが士気は非常に高く、ただの平民と侮っては痛い目を見る事でしょう。
そして、今回は我々にとって非常に厳しい戦いとなります。
この戦いを制したとしても守るべき領民の多くは元々敵だった相手です。
ガナン盆地は難治の土地となるでしょう。なので、一切の略奪や凌辱を禁じます。」
「はいはーい! ついでにアタイから補足ー! バンジェロは領民にとって神様みたいな存在になってるから、下手な挑発は逆効果になると思うよ。だから、戦いの常識が通用しない相手だと思ってね~」
軍議は粛々と進行していく。
侵攻ルート、動員可能兵力、戦争可能期間を算出した結果を諸将に伝えると、あまりにも残酷な現実に誰もが閉口していた。
「ルーク......本当にこの結果で正しいのか?」
「あぁ......何度もシミュレートしたんだ。この結果は間違いない」
ガナン盆地は北と南の2箇所のみ渓谷となっており、天然の要害となっていた。
北口はバンジェロによって封鎖されており、南からの侵攻を余儀なくされていた。
「地形条件の理由から、一度に動員可能な兵力は3千が限度です。
そして、今は10月初旬、来週には雪が降り始めます。そうなれば戦争は継続できません。
なので、我々はこの1週間の内にバンジェロ軍を討伐しなくてはなりません」
「それで、誰が向かう?」
「私と......陛下が、直接軍を率いて叩きます」
「ルーク君正気かね!?」
「陛下に万が一の事があったらどうするのだルーク!」
非難轟々といった様子で現場は騒然とする。
レオが片手を挙げて諸将を沈めなければ今にも乱闘が起きかねないほどだった。
「ルーク、説明しろ。敵の狙いは俺とお前だろう? 何故わざわざ懐に飛び込む?」
「仰る通り、敵は我らを狙っています。だからこそ狙い目となるのです。
我らに敵の目を引き付ける事で、南口の注意を逸らし、その間に兵員を増やして人海戦術を仕掛けます」
「という事らしい。皆の意見はどうだ? 異議が無ければ軍議はこれにて終了とする」
「無論反対でございます!」
「主君を囮に使う策など聞いた事もない! あまりにも危険すぎます!」
反対多数であり、ルークの策は否決される。唯一の有効策を潰されたルークは悔しさを滲ませる。
(くそ! この策は駄目か! 相手は普通じゃないんだ......常識で考えてたら勝てる訳もない!
それを皆ちゃんと分かってるのか!?)
「陛下、ここはこのテゲニにお任せください。所詮奴らは農民の集まりでございます。
ルークフェルト殿が何に怯えているのか分かりませんが、血迷った作戦に縋るほどの相手ではありません」
「このバンガも共に向かいます。外様の我らでもお役に立てるという所を陛下にご覧にいれましょう」
「いや駄目だ! お二人ではただ殺されるのがオチだ!」
「無礼な! 我らの力を疑うと言うのか!」
ルークに味方する者はいなかった。
誰も国王を危険に晒す作戦を受け入れられず、ルークの事をまるで狂人かのように非難し始めた。
中には、ルークは敵と内通しているのではないかと、あらぬ疑いまでかけられてしまったのである。
「諸君静粛に。これ以上の議論は何も生まん、よって王命を下す。
テゲニ、バンガ、それぞれ1500の兵を率いて南口より攻めよ」
「「はっ!」」
ガナン盆地にオルディア軍が侵攻してくる。その報はすぐさまバンジェロの下へ届けられた。
「そうか、とうとう戦ぁせんとならんようになっちまったかぁ」
バンジェロは兵を広場に集めるよう命じる。
広場には大勢の人で溢れ返り、バンジェロの熱狂的な支持者たちが開戦を心待ちにし、
女子供に至るまで共に戦える事に狂喜していた。
「皆集まってくれてあんがとなぁ」
アーティストのライブを心待ちにしていたファンのように、バンジェロの登場で民衆の戦意は最高潮に達していた。
「バンジェロー! あんたと戦えて嬉しいよ!」
「おらも嬉しいどぉ」
「バンジェロさーん! 僕も一緒にオルディア軍と戦うよ!」
「子供は母ちゃんのお乳でも飲んでてなぁ」
「バンジェロ様大好き―! こっち向いてー!」
「おぉ......女子にそんなアピールされっと、小っ恥ずかしくていけねぇや」
領民達は常に希望を感じていた。不敗の守護神が必ず守ってくれるという安心感と、
圧政を敷こうとする暴君に立ち向かう英雄のような姿は民衆が奮起するのに十分だった。
「これからおめだづに作戦を発表すっぞ! 皆、家に帰ぇっていつも通り仕事をしててくれや!」
――ガナン盆地南口
テゲニとバンガは計3千の兵を率いて渓谷を抜け、村々を通り過ぎていた。
「ずいぶんと田舎ですなバンガ殿」
「えぇ、戦いなど無いかのように仕事に勤しんでおります」
事前に聞いていた状況と大きく違っており、二人は困惑していた。
ある程度の抵抗は覚悟していたが、一人の民兵も見当たらないままガナン盆地の中央まで来ていたのである。
「いやはや、どんな屈強な反乱軍かと思ったが、そんな気配は微塵もない。
1万の反乱軍と言うから警戒してここまで来てみたが、拍子抜けも良い所じゃ。
やはりルークフェルト殿は過剰に恐れて気でも触れたのでしょうなぁ。
陛下のお気に入りとはいえ、所詮はただの若造、我々大人とは経験値が違い過ぎる」
「とはいえテゲニ殿、これだけ静かとなると不気味とすら思えてきますな。
まぁ相手は農民、素直に我々に恐れをなしたと思っても良さそうです」
オルディア軍は油断していた。
再三ルークから指摘があったにも関わらず、所詮はただの領民でしかないと高を括っていた。
彼らの未来を暗示するかのように闇深い森の奥へと進軍していた。
「髭さん、奴ら森ん中入ってきやがったぜ」
物見が報告をする。
森の中に本陣を構えていたバンジェロは、絶好の狩場にやってきた獲物にほくそ笑む。
「そうかぁ、熊の巣穴に迷える子兎共に、獣の狩りというのを見せてやらんとな」
バンジェロは両手を広げ天を仰ぐ。
「白狼よぉ、白狼よぉ、我が祈りを聞き給う。我、ただいまより獣となりて数多の命を汝に捧げん。いでよや白狼......我が呼びかけに応じよ」
(全く、また面倒事に巻き込まれおって。懲りぬ男よな)
バンジェロが天に呼びかけると、背後から白く美しい毛並みのフェンリルが現れる。
「おぉ白狼! 我が友よ、すまんがまたお前の力を借りっぞ。神降ろしにて彼奴らを葬らん」
(ふっ、良かろう。再びお主と共に戦える時を楽しみにしておったのだ)
フェンリルはバンジェロの体内に入り込む。
凄まじい光を一瞬放ち、フェンリルの姿が消えると、バンジェロの目が青く輝いていた。
「ひ、髭さん? どうしたんだ? さっきの馬鹿でかい狼も消えちまったよぉ?」
「主ら......狩りの時間じゃ。敵は我らの30メートル程先におる。
既に森ん中にゃあ木こりが準備しとる。良いか主ら、敵に悟られる事なく取り囲め。
我はこれより兎共を食い殺す」
バンジェロ軍が行動を開始する。地元の農民にとっては闇深い森も庭と変わらず、慣れた土地勘が迅速な行軍を可能としていた。
――森の中、オルディア軍
「テゲニ殿、何やら森が騒がしくありませんかな?」
「はて? 私には何も感じませんが、恐らく獣でしょうな。そこまで警戒する必要もないでしょう」
「だと良いのですが......」
バンガが警戒し始めた頃、斥候が大慌てで戻ってくる。
「敵襲! 敵襲! 敵軍総大将バンジェロ・カナイガスがこちらに向けて突撃を敢行しております!」
「なに!? 敵の数は?」
「一騎のみ! 総大将による一騎駆けです!」
二人の目の前に大槍を振り上げてこちらに駆けてくるバンジェロの姿が映る。
さながら獲物を見つけた狼のように鋭い視線が、多くの者を釘付けにする。
「ふん! 大将が一人で向かってくるなど常道を知らぬ田舎者めが!
弓兵前へ! 大将バンジェロを討ち取れ!」
無数の矢がバンジェロ目掛けて発射される。
しかし、矢は全てバンジェロに当たる直前で軌道が逸れ、バンジェロは無傷のまま直進してくる。
「弓兵何をしている! さっさと奴を撃ち殺さぬか!」
「個性か何かにより矢が一切当たりません!」
「ならば槍隊前へ! 敵の勢いを止めよ!」
兵士が槍衾を展開する。しかし、バンジェロは愛馬と共に空高く飛び上がる。
「まずは一匹」
バンジェロが手にしていた槍を投げ飛ばす。猛スピードで落ちてくる槍を回避する事が出来ず、ビョクオウ・テゲニは胸を貫かれる。
「テゲニ殿!?」
「皆今じゃあ! 一匹残らず狩り尽くせや!」
森の中から農民たちが飛び出す。敵の突然の出現にオルディア軍は大混乱に陥る。
「くっ! 一体どこから伏兵が!? 皆の者、態勢を立て直すぞ!」
バンガは全軍に撤退命令を下す。混乱する味方をまとめ上げ来た道を引き返す。
「......終いじゃ、一度巣穴に来ちまったらもう逃げらんねぇよ」
逃げるオルディア軍の目の前で突然木々が倒れ、行く手を塞ぐ。
「バンガ様! 目の前で突然木が倒れました!」
「見れば分かる! 誰ぞ、他に退却できる道を知らぬか!?」
オルディア軍にガナン盆地の土地勘がある者はいなかった。
前方の道は倒木が横たわり、後方にはバンジェロ軍が追撃していた。
「......二匹目」
ラナイト・バンガ、ビョクオウ・テゲニ死す。
被害兵数は3千人、オルディア軍の大敗であった。




