File09: タナバタ
夜の闇に包まれた細い路地。
大通りの方から店の明かりなどが差し込み、暗い路地を薄っすらと照らしている。
「お前も……お前も異能者だったのか」
どうもと笑い、少年は男に言った。
「頼むからさ、大人しく捕まってくんねえかな?これ以上能力使うと後々めんどくさいんだよね」
その発言が気に障ったのか男は怒鳴り始めた。
「はっ!あんまり俺を舐めるなよ、糞ガキが!」
そう言うと男の姿は瞬く間に少年の視界から消えて無くなってしまった。
「(チッ!これが例の能力か!)」
少年は勢いよく指を弾く。
パチンッ!
その音は幾度も反響し路地全体に響き渡った。
少年はその音に耳を傾け、全神経を集中させた。
ーーー<エコーアゲイン>ーーー
指を鳴らして出した音を増幅し、周りへと放射する。そして跳ね返ってきた音を聞き周囲の物を立体的に捉えて把握する。
「(姿を消しただけならコレでっ!!)」
しかし、少年のソナーに人影は映らなかった。
「え?」
それとほぼ同時に、少年の背後でカランという音が鳴った。
「(なにっ?!)」
刹那、少年の後頭部に鉄パイプが振り下ろされた。
ガキンッッッ!!!
しかし、またしても凶器は少年の肌には届かずに弾き飛ばされてしまった。
ーー<ミュージックヴェール>ーー
ヘッドホンから流れる曲を、膜のように体に纏わせ鎧とする。
少年は急いで振り返る。
「痛ぇぇぇぇ!クソ!なんなんだよさっきから!」
そこには、先ほど姿を消したフードの男が立っていた。
「(コイツッ!ただ姿を消すだけの能力じゃないのか!)」
また姿を消される前に仕留める、そう考え少年は再び指を構える。
その予備動作に男は反応する。
パチンッ!
今度はその音を集約し男に向かって放った。
ーーー<スナップショット>ーーー
音を増幅、圧縮し。その音の塊を弾丸のように放つ。
音の弾丸は男の腹部にめがけて発射された。
しかし、弾丸は男に当たることなく空を裂いた。
再び消えたのだ。
「けっこう速いな…」
ヘッドホンを頭に装着し少年は呟く。
少なくとも見えなくなる能力じゃないってことは分かった、じゃあ一体どんな…
空間転移系の異能者なのか、けどそれにしては消えてから再び出現するまでにラグが有る。
そうこうしている内にまた男が襲ってくる、今度はそのパイプを投げたらしく少年に向かって2本のパイプが飛んできていた。
「そう何度もマトモに喰らってたまるか!」
そう叫んで音を纏った腕を振る。
ーーー<サウンドフィスト>ーーー
自らの手に音を纏わせ、インパクトの瞬間に音を爆発させる。
ギターをかき鳴らすような音と共に2本の鉄パイプはまるで針金のように折れ曲がり、路地の地面に叩きつけられた。
そして身をかがめ、地面を勢いよく蹴り5mほどあった距離を一気に詰める。
ーーー<マッハブラスト>ーーー
ヘッドホンから流れる曲を耳から体に取り込み、自身の存在と同化させることにより挙動全てを音速にする。
男の目の前まで接近し、右拳をその顔面に叩き込んだ。
殺してしまわないよう少し手を抜いて殴ったためか、路地の奥まで吹っ飛ばされた男はかろうじて意識が残っていた。
ヨロヨロと立ち上がり暗がりの方へと逃げて行く。
「くそっ、手ぇ抜きすぎたかーーーー」
その瞬間、少年の視界が大きくグラついた。
「ーーーーっ!!!」
気づけば少年は、肩で息をしていた。
「(なんだよ……コレッ……!?)」
すると男の逃げる先にライブを聞きつけて来たのか、中学生くらいの女の子が通りかかった。
それを好機と男は少女を捕まえ、落ちていたビンの破片を少女の首に突き立てる。
「動くなぁ!動いたらこいつを刺すぞ!」
「なに?!いやぁぁぁぁ!助けてぇ!」
「(とことんクズだなコイツ…クソッ、もう一回"マッハブラスト"で…)」
しかし体が上手く動かない、立っているのがやっとだった。
その時ーーー
「いつもいつも、キミは詰めが甘いんですよ」
声とほぼ同時に、激しい光纏った掌が男の眼前に当てられた。
「ぐああああああああああっ…………!」
男はうめき声を上げながら地面に倒れこみ、捕らえられていた少女は現れたもう1人の少年ち受け止められた。
「大丈夫ですか?お嬢さん」
笑顔で尋ねる少年に少女は顔を赤らめながら応えた。
「あ、はい…ありがとうございます…」
それを少し離れた所から見ていたユウヤは地面に座り込み、忌々しそうに言った。
「てめぇ…美味しい所だけ持ってくんじゃねえよ」
そんなユウヤに対し、突如として現れた少年は顔を歪める。
「いざという時までは隠れて様子を伺っていてくれ、と言ったのは君じゃないですか」
「むっ…まあ、確かに……」
反論できない。
怖がらせちゃってゴメンね、と少女を行くよう促してユウヤの方へと足を向ける。
接近してくる相棒に再びユウヤが突っかかる。
「それにしたってこんなタイミングで出て来られたら、なんか俺だけカッコ悪ぃじゃねえか」
口喧嘩を始めた少年2人を明滅する視界に捉え、地面に寝転んだ男は薄れゆく意識の中で呟く。
「………なんなんだよ…お前ら……」
2人の少年は口論を辞め、男の方を見る。
「キミ、自己紹介もしてなかったんですか?」
「はぁ?こんなのに自己紹介なんてする必要ねえだろ」
「どうせ面倒くさかっただけなんだろ。名乗るのは最低限の礼儀ですよ、キミがいつも言ってることでしょう」
「 …あぁ……分かったって」
そう言うと、男の方を向き直した。
「俺は七瀬結夜、さっきも言ったが探偵やってる」
嫌々自己紹介を始める少年。
「んで、コッチに立ってる根暗そうなのが俺の相棒な」
と、自分の相棒を指差す。
「夕ヶ谷晃助と言います、ヨロシク」
少年の嫌味を完全にスルーして笑顔で挨拶をする。
「俺たちはーーーー」
次の言葉を男が最後まで聞いていたかは定かではない。
しかし、彼は声高らかに宣言する、自身らに付けられた異名を。
「探偵コンビ、タナバタだ」




