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File07: 宴

午後7時、街に夜の帳が下りるころ。


大音量のバックミュージックと共にアイドル"柊こずえ"のライブは幕を開けた。


その傍ら、ステージから向かって左手に1人の学生が立っていた。

首にはヘッドホン、右手にあるのは携帯の音楽プレーヤーだろうか。

険しい表情でステージに立つ少女を見つめており、ただライブを楽しみに来たような様子ではない、その顔は真剣そのものだ。


「始まったか…」


そう呟きながら、ステージ上のアイドルに集中している。


彼がこのような真面目な顔をするというのはかなりレアだ。

女子更衣室への潜入を決意した時、風になびくスカートを直視している時、そして、女の子の涙を見てしまった時。


彼は先ほど、あの笑顔で歌っているアイドルと約束をした。


彼女を追い回すストーカーを捕まえる、その代わりそいつが客の中にいたら教えてほしいと。


「(結構人が集まっちまったな…こりゃ見つかんねえかも)」


神妙な面持ちで佇む少年に、隣で腕を組んでいた男が話しかける。


「七瀬君、キミは何をそんな険しい表情をしているんだね」


ピンク色の法被(はっぴ)(?)に身を包み、両手にはサイリウムを持っていてなにやら気合が入っている様子だ。


「え?」


突然声をかけられて少年は驚く。


「この場所を突き止めてくれたことには感謝している、おかげでなかなかに良い位置を取ることができた、しかし君はこの一夜限りの宴を真剣に楽しんでないようだな?」


教頭の件で置き去りにされたことを根に持っているのか言葉からは多少の苛立ちが感じられる。


「そんなことないってダンナ!楽しい!超楽しいよ!」


目の前の少年は明らかに様子がおかしい。

しかし、どうやら置き去りの事を気に病んでこんな態度を取っているわけではないように感じられる。


「……何か、あったのか?」


ステージから目をそらし心配するように少年を見た。


「…いやぁー、別にぃ?」


目が泳いでいる。またこいつは、と呆れる校長だったが。

微かに笑い、少年に言った。


「まあいい、君のことだ、くだらん事ではないのだろう。今は、聞かないでおいてやる」


はぁー、とため息を吐き安心したように少年が言う。


「…悪いなダンナ、終わったら全部話すよ。ライブの情報、ホントに感謝してる」


「気にするな、私と君の仲じゃないか」


そういうと少年に笑ってみせた。


「ああ、ありがとう」


『ファンのみんなーっ!私っ!みんなの顔、ちゃーーんと覚えてるんだよーーーっ!!』


曲が間奏に入ったらしく、アイドルがファンに語りかけ始めた、一種のファンサービスだろう。


しかしーーーーー


「ほう、珍しいな。こずえちゃんがこんなパフォーマンスをするなんて、初めて見たよ」


その校長の言葉でユウヤは気づく。


ーーーこれは、メッセージだーーー


例のヤツを見つけたのか


少年は彼女の声に耳を傾ける。


『後ろの方のー、帽子の人っ!このまえ握手会来てくれたよねっ?これからもヨロシクーーっ!』


こずえちゃんが覚えててくれたぁ!と帽子をかぶった中年の男が大喜びしている。


『そこのフードの人っ!ライブ、毎回見に来てくれてるの、私知ってるよっ!ありがとうね!』


客席の丁度反対側辺り、フードの男が立っていた。

照れているのか、手でフードを下げオロオロしている。


『そして、最前列のあなた!綺麗なお花ありがとう!とっても嬉しかったよ!』


最前列にいるサラリーマンらしき男は感動のあまり涙を流している。


そして、間奏ももう終わるというところで彼女はこちらを向き、笑顔でウインクした。


「うっ!」


激しくトキメいてしまう少年の横で、全く同じリアクションを取るおっさんがいたが、気にせず思考を働かせる。


「(恐らく今のは"今言ったのがそいつだ"ってことなんだろうな…)」


全く…と思いつつも、そういえば自分も彼女のファンだったのだと再確認したユウヤだった。


「なあ、七瀬君!なんで彼女はこっちの方にあんな特大の笑顔でウインクしてくれたんだろう!」


分かりやすく興奮している定年間近の御老体へ冷たい目線を送る。

そんなんだから奥さんに愛想尽かされるんだよと思うも、口に出したらまた怒られそうな気がしたため言わなかった。


「悪りいダンナ、ちょっと行ってくるわ」


そう言って少年は客をかき分けてどこかへ行ってしまった。

校長はそれを真顔で見送る。


「なるほど…そういうことか……」


色々言いたいことはあるが、今はライブに集中しておこうと強面のオヤジは心の中で思った。


少年は先ほどの彼女の言葉からストーカーの犯人と思しき人物を捕らえるため動いていた。


「(彼女は言った、そいつはライブに毎回来ていたと…)」


そしてさっき、そんなことを言われていたのはーー


目の前に1人、このライブ会場を離れようとする人影があった。


駆け足でその人物を追いかけ、路地に入った所で追いついた。


そこにはフードをかぶった1人の男がいた。


「なあ、アンタがこずえちゃんのストーカーかい?」


その声にフードの男は振り返る。


「なんだ、お前…」


低めの、しかし若い声が返ってくる。


「なに…ただのしがない探偵だよ」

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