File03: 仲間
同日放課後、学校所有のグラウンドの端にポツンと佇む物置小屋、"探偵部"と書かれた看板が目立つその小屋に計4人の男女が集まっていた。
1年前までは野球部が使用していたのだが、彼らが"非公認部活動"の身分で公認部活動との激しい闘い(フルメンバーでのジャンケン大会)を制し、勝ち取ったのだ。
いわば、"非公認部活動"反撃の狼煙とも呼べるものであり、他の非公認部活からは神仏のごとく崇められている。
中は応接室ほどではないものの、そこそこの広さがあり、彼らが勝手に持ち込んだ家具や物品で溢れかえっている。
その内1人は早朝、教頭の正義の鉄拳をいただいたアイドル少年、もとい、銀漢高校2年1組所属の"七瀬結夜"だ。
校内校外関係なく度々問題を起こす、銀漢高校きってのトラブルメーカー。
不良を目の敵にしており、カツアゲなどを目撃したり、行動が少しでも癇に障ると所構わずケンカを仕掛ける。
雅嶋市において、彼の名を知らない不良はいないほど。
その一方で可愛らしい女性に目がなく、どんな場合でも自ら進んで女性に手を挙げることはない紳士な一面も持つ。
早朝の大捕り物劇は生徒たちの記憶にも新しいだろう。
"校長を置いて逃げた罰"と言わんばかりに彼の横っ腹に撃ち込まれた朝練中のサッカー部のシュートは見事の一言だ。
殴られたのは朝のはずなのに未だに痛みがひかない、頭蓋にヒビでも入ってるのではないかと本気で疑っていた。
どんな威力で殴りやがったあのババア、と口に出しそうになったが、"口は災いの元"という昔の偉人のありがたい御言葉を思い出し、喉のところでどうにか飲み込むことに成功する少年。
朝の一件でヘッドホンを没収されたためか音楽プレーヤーは素のまま置いてあり、スピーカーからはPOP調の曲がだだ流しになっている。
ソファーの前の机には3枚の"短冊"が置いてありその内の1枚を手に取りながら、不満げな表情を見せていた。
そこには時間や場所らしきものを示したらしい文字がボールペンで書かれており、その上から"完了"の二文字が赤いインクのペンで大きく書かれている。
机に置かれたままの2枚にもそれぞれに同じく時間、場所、そして"完了"の赤文字が入っていた。
「今日の依頼は、俺の以外全部"完了"かぁ…」
ユウヤは誰ともなくつぶやいた。
「誰かさんが朝から教頭先生のお世話になっているものだから、僕達3人で全部いただいてしまいましたよ」
本を読みながら敬語まじりで応えたのはこの中のもう1人の男子、名前は"夕ヶ谷晃助"。
学年では成績トップ、運動神経もバツグン、文武両道才色兼備とはまさに彼のためにある言葉だろう。
クラスは違うがユウヤと同じく銀漢高校の生徒、2年3組に所属している。
入学当初は誰も彼もを見下しており、ユウヤとは特に反りが合わず、犬猿の仲とまで言われていたが、今では多少性格も丸くなり、探偵部では彼とコンビを組んで行動することも多い。
彼らの名字の最初の一文字から"七夕"、転じて、「銀漢高校の探偵コンビ"タナバタ"」と呼ばれるようになり近隣の不良を中心に恐れられている。
「いやいやあれは急に叫んだ校長が悪りいだろ!なんで俺までとばっちり受けなきゃなんねえんだってえの!」
わかりやすくイライラしている少年を横目にコウスケは続ける。
「どうせ君も叫んだんだろ?」
「うっせーよ、ノリってあるだろ!その場のノリ!」
ギャーギャー言っている少年達の会話に割って入るように少女の声が飛んだ。
「おい、校長からの依頼とは結局何だったんだ?」
「あぁ?!いや、その…アレだよ…」
「ハッキリ言えユウヤ、今なら許してやる」
「なんで俺が悪いことしたみたいになってんの?!」
驚愕しているアイドル少年に代わりコウスケが答えた。
「ユウヤと校長がご執心のアイドルがいるんですけど、その人が明日この町でゲリラライブをやるらしいんですよ、だけど正確にどこでやるかが分からないそうで、だからその場所を突き止めて欲しいとのことです」
長いため息のあと少女は応えた。
「そんなことだろうとは思ってたけど…どうりでそういう流れになるわけね」
飽きれたように少年の頭を見ながら眉をピクピクと震わせている。
この腕と脚を組みながら高圧的な口調で話す少女は"織原祈"、銀漢高校3年3組に所属している。染めたような綺麗な黒髪セミロングで大きなアホ毛がかなり目立つ。
性格とは裏腹に可愛らしい見た目をしており、入学当初はかなりモテていた。
しかし、あらゆることを完璧にこなしてしまう才能と、荒っぽい性格があいまってしだいに敬遠されるようになったため、今では寄ってくる男も少なくなっている。
この非公認部活動である"探偵部"の部長をしており、4人の中で唯一の3年生。
スカートは校則で定められた長さ丁度にしてあるのだが、その下からは太ももにピッチリと張り付いたスパッツが見え隠れしており、今の脚を組んだ体勢はかなり際どい。
ユウヤが生唾を飲みながらそちらに目を取られていたところ、横からまた別の声がかかる。
「ユウヤは可愛い娘なら誰でもいいんだよねえー」
"スケベ高校生七瀬君"をジト目で見つめながら、会話に参加してきた癖っ毛ショートヘアーの少女は、"探偵部"の残る最後の1人、"笹島未宙"。
銀漢高校2年生でユウヤと同じく1組所属、彼のケンカ友達でもある。
年齢の割りに背が低く幼い印象を受けるが、中学時代は番をはってたという頼もしい経歴を持つ。
昔ユウヤにケンカを売り、男と勘違いした彼にこっ酷く負けた過去があり、そのため彼のことを一方的に慕っている。
その一見可愛らしい外見から、校内では密かにファンクラブが誕生しているなど、かなりモテているが、本性を知ってからも関わり続けている男子生徒はユウヤとコウスケくらいである。
校則ガン無視のしかしそれでいて短すぎない絶妙なスカート丈は少し動いただけで中が見えそうだ。
しかし中身は短パンなので本人曰く問題ない。
「なっ!おい、ソラ!人聞きの悪いこと言うなよ!てか、割って入るならせめて助け船をだな…」
味方だと思っていた人物からのまさかの攻撃に対し驚きを隠せないスケベ高校生は半分諦めたようにうなだれた。
こんな彼ら4人が"銀漢高校探偵部"
生徒はもちろん、教師や近所に住む住民などからも依頼が来ており、この近隣ではそれなりに有名な4人組である。
依頼は体育館の裏、学校の敷地外に設置してある掃除用具入れの横にくくりつけてある"笹の枝"を通して行う。
朝の7:30〜8:00までの30分の間に"時間と場所を書いた短冊"を下げ、8:00時点で探偵部のメンバーが短冊を回収し、短冊に書かれた時間にその場所へ行って依頼人と落ち合い直接聞く、という方法を取っている。
ただし依頼は先着4人までであり、それ以降は短冊を付けない、という暗黙のルールがある。
「てか、そんな話はどうでもいい!お前らの方の依頼はどうだったんだよ?」
ユウヤが3人の仲間に向けて問いかける。
「僕の受けた依頼は財布をなくした男子生徒からでした。失せ物探しならユウヤの能力の出番でしょうに、かなり手こずりましたよ」
やれやれといった様子でため息まじりに話すコウスケ。
「僕の能力は物探しには向いてませんから」
「お前のチカラは尾行とか潜入向きだしな、今度なんか奢るから勘弁してくれ」
両手を合わせて拝むような仕草で少年は弁明する。
「私の依頼は女子生徒からよ、ストーカーの撃退をして欲しいとのことだったんだけど相手も"異能者"でね、少し手こずったけど、どうにか能力は使わずに制圧したわ」
「"異能者"とは珍しいな、てかお前が相手だとストーカーの方が可哀想に思えてくるな…」
「あん?」
一瞬殺意に満ちた目で睨まれ「ヒィ!!」と情けない声を出してしまうユウヤだったが、イノリは特に手を出すつもりはなかったらしく、そのままソッポを向いてしまう。
「アタシぃー、近所のおばあちゃんとスーパーに買い物行ったよぉー!」
「それもはや探偵の仕事じゃねえっ!」
予想の斜め下すぎる発言をした少女に対し、他のメンバーが全力でツッコミを入れる。
「おばあちゃんがお菓子買ってくれてさぁー、えへへ」
「えへへ、じゃねえよ全く…、俺も行きたかったなソレ」
なにやら羨ましそうに少年は呟く、結局は同じ穴の狢である。
一見、特に共通点があるようには見えない4人。
しかし、ある一点だけ他の者にはない共通点がある。
それは、4人ともそれぞれ"異能力"を持って生まれてきた"異能者"ということだ。
"異能者"はここ20年の間に生まれてきた子供たちに見られるようになった、人類の進化系と目されている存在で、本来ならば普通科の高校には通わずに"異能力者研究保護機関"と呼びれる国家機関によって番号が付けられ、中学卒業までは自由にされるが、中学卒業後は機関所属の学校に通わされる。
しかし時々、彼らのように生まれてから中学校卒業まではハデに能力を使わずにバレないように過ごし、能力を隠したまま高校に入学する者がいる。
彼らもそのようにして銀漢高校に来た。であるからして"異能者"でありながら普通科の高校に通っているというのは稀であり、高校に限った割合ならば5校に1人いるかいないかといったところである。そのため彼らのように同じ高校に4人も集まったというのはかなりのレアケースということになる。
しかし、そういった例は日本に限らず、全世界で少なからず有るため、"機関"もなにか問題さえ起こさなければ、彼らのような"未登録の異能者"を積極的に捜索するといったことはせず、異能者が起こす犯罪行為に目を光らせている程度のことしかしない。
ただし、機関に目をつけられた場合は強制連行の後ナンバリングされ、機関の監視の元で一生を過ごすことになる。
そのため彼らは平穏な日常を過ごすべく、極力能力は使わないよう、もしくはバレないように使いつつ、探偵というハードな仕事をこなしているのだ。
「ったくあの教頭…まだ頭がクラクラするぜちくしょう」
未だに痛みが残っているのか後頭部に手をやりながらユウヤが愚痴り始めた。
「調子に乗った罰ですよ、というか時間も時間ですし、そろそろ解散しましょうか」
壁に掛かった鶏の形をした時計を見ると午後7時を過ぎていた。
「え、帰るの…?」
愚痴が長くなりそうだと察し、帰宅を促したコウスケの判断力は見事だと言える。
グラウンドのある土手は一本道なので徒歩で5分ほどは家の離れた4人も一緒の道を行く。
街灯のない土手は普段ならかなり暗くなるが、今夜は月が明るく、あまり暗さは感じられない。
「校長の依頼、どうするんですかユウヤ?」
教頭への恨み言を垂れ流していた少年にコウスケが問いかける。
「そりゃモチロン、受けた依頼はキッチリこなすさ、報酬も約束してくれたしな」
と、笑顔で振り返る。
もう頭を気にする様子がない、心配してほしかっただけなのだろうか、と心の中で思うコウスケだったが。
紳士な彼はあえて言わないことにした。
そこにイノリが続ける。
「そんなに大金を積まれたのか?たしか仕事への文句を減らすために依頼料は一律500円という風に最初に決めたはずだけど」
素朴な疑問を投げかけつつ、全く信用していない目で少年を見つめている。
「大金とかじゃねえって!俺をなんだと思ってんだお前!」
「じゃあなんだったんですか?」
コウスケが問いかけた、だがその顔は既に答えにあたりがついているという顔だ。
「いやぁ…ゲリラライブのグッズって結構高いからさあ、少しばかり助力いただくことに…」
「だと思いましたよ」
「なんだよお前ら!頼めばお前らの分だってなあ!」
と喚くユウヤ、なんとも滑稽な相棒の姿にコウスケからは思わず笑みがこぼれる。
アイドルなどには特に興味もない女子2人は飽きれて何も言えなかったので、黙って話を聞き流しつつ月光の照り返す川の水面を眺めていることにした。
「明日はここ来ねえわ。放課後、直で町見てくる」
そう言うとユウヤは走り出した。
走り去る少年の背中にコウスケが叫ぶ。
「そうですか、なにか問題が起きたら呼んでください」
少年は応えるように大きく右腕を挙げながら振り返る。
「おう!頼むぜ相棒!」




