私は私のままでいい!
学校でこんなに接近していい訳がない!
一瞬、思い浮かべたそんな事も消し飛ぶくらい、目の前に将之さんの顔。
右に目を向けると、将之さんの左腕。
左に目を向けると、私の肩に将之さんの右腕。
どきどきと高鳴る鼓動。
体全体が熱くなって行く気がする。
頬も真っ赤かも知れない。
「何でそんな事言うんだよ」
いつもの優しい口調ではなく、ちょっと厳しい口調。
「だって」
「だって何なんだよ」
周りがざわめいている気がする。でも、そんな事を気にするのも、忘れてしまうほどのシチュエーション。
「だって、私は地味で、かわいくないし、子供っぽいし」
最初に口から出たのは、私のコンプレックス。
土曜の早紀さんと私の大きな差。
「そんな事、関係ない」
「関係ない事ないよ。
将之さんには早紀さんがいるじゃない。
あんなにきれいで、素敵で、大人っぽくて!
私なんかにもうかまわないで!」
私の体は熱くなるばかり。
熱で私の思考回路は熱暴走し始め、今まで言えなかった事を口からあふれ出させた。
「早紀なんか、関係ない。
落ち着いて聞いてくれ」
何て言ったの?
私の思考回路が将之さんの言葉を再検証し始めた。
早紀さんなんか、関係ないって言ったよ!
言った、言った。確かに言った。
妄想好きの私が膨張し始めた。
でも、意味がまだ分かんないよ。
冷静な私が反論しようとしたけど、膨張した妄想好きの私に全領域を占領され、冷静な私は押しつぶされた。
後は、将之さんの言葉を聞くだけ。
「いいかい。まどかちゃんは何か誤解している」
将之さんは一度上を向いて息を大きく吸い込んだかと思うと、吐き出しながら、顔を正面に向けた。
「俺はずっと前から、まどかちゃんの事を知っていた。
俺んちの店先で、真剣な表情で、本を読んでいた。
そして、お気に入りの本でも見つけたらしい時に見せる嬉しそうな笑顔。
俺はくぎ付けだった」
将之さんが話を止めた。
やっぱり、将之さんは私の事をずっと前から知っていた。
そして、釘付けになるくらい想ってくれていた。
心の中は、予想外の喜びでいっぱい。
涙が込み上げてきそうになるのを必死でこらえた。
「俺はこんな事、誰にも言った事はないんだからな」
また一度、間を置いた。
「俺はまどかちゃんが好きだ。
俺が好きなのはまどかちゃんなんだ。
まどかちゃんは、まどかちゃんのままでいいんだ。
他の人なんか気にする必要はない。
俺は今のまどかちゃんが好きなんだ」
学校だよ。
ここは学校の廊下だよ。
そんな思いが一瞬よぎったけど、すぐに消え去ってしまった。
両手で顔と鼻の辺りを覆う私。
目の前の将之さんの顔がうるうるしていく。
「本当に?」
声が震えている。はずかしい。
「ああ。当り前だ」
なんて幸せなんだろう。
体の重心が前のめりになった。将之さんの胸に飛び込みそうになった。
でも、早紀さんは?
それに、ここは学校だよ。
冷静な私が将之さんに傾いて行く私の体を立て直した。
「早紀さんは?」
潤んだ瞳で、じっと将之さんを見つめた。
「ただの幼馴染だけど」
良かったぁ。妄想好きの私が胸をなでおろした。
この人、鈍すぎかも。ある意味悪い男だよ。冷静な私が呆気にとられている。
「でも」
でも、早紀さんはそう思っていないと思うんですけど。そう言おうとした私の言葉を妄想好きな私が遮った。そんな事言ってどうすると。
「何?」
「そんな事言ったら、早紀さん悲しむと思います」
冷静な私が言うべきだ。と力を込めた。妄想好きな私も結局賛成した。
勝てると言う自信を持った妄想好きな私。
ここで、勝負しておかなければ、後々まで引きずるぞ!とも、妄想好きな私は考えた。
「あいつが?
いや、それはないな。
もしも、まどかちゃんの言うとおりだったとしたら、まずは怒って俺にビンタを食らわすと思うな」
その瞬間、ちょっときつい表情の早紀さんが、将之さんの頬に平手打ちをする姿が思い浮かんだ。
「ばか!」
そんな言葉と共に平手打ち。あのきれいな早紀さんなら、かっこいいかもしれない。
「くすっ」
その光景に私の顔が緩んだ。
「実はね。私も将之さんの事が大好きだったんだ」
涙をぬぐって、将之さんを見つめた。
もう私の中の妄想好きな私も、冷静な私も一つになって、私自身だけになった。
「俺もだ」
一瞬、二人の顔が接近しそうになったけど、すぐに現実に引き戻された。
私たちの周りで、大歓声が起きてしまったからだ。
将之さんが慌てて私から離れて周りを見た。
その顔はさっきまでの真剣な表情とはかけ離れた驚き顔。
将之さんはここが廊下だと言う事をすっかり忘れていたのかも知れない。
将之さんは突然、私の手を取った。
「ここから逃げるぞ」
将之さんに引きずられるように、その場から離れはじめた。
下足箱から自分の靴を取り出す。
将之さんはさっさと履き替えて、その先で手を伸ばして私を待っている。
靴を履きかえると、飛び込むかのようにして、将之さんの手を取った。
校舎の玄関を抜け、校庭に飛び出した。
手をつないだまま、駆け抜ける。
将之さんが私に振り向いて、微笑む。私も微笑み返した。
もう涙は流れていない。
私は私のままでいい。
無理に背伸びする事も、卑下する事も必要ない。
こんな私でも、好きになってくれる人がいる。
それも、私も大好きな将之さんが。なんて、夢のよう。
早紀さんにはちょっと悪い気がしない訳じゃない。
でも、譲ることはできない。
私だって、将之さんが好きなんだもん。
ううん。早紀さんが将之さんを想っている以上に、私の方が将之さんを好き。自信がある。
「わーっ!」と叫びたくなる衝動を抑えて、校庭を駆け抜けて、校門を出た。
「これで、まどかも俺から卒業だな」
お兄ちゃんの言葉が頭に浮かんだ。
「うん!」
思わず声に出してしまった。
「何?」
将之さんが振り向いた。
「ううん。何も。大好きだよ。将之さん」
「俺も」
にこりとした将之さんの向こうに広がる青い空。
私って、幸せ! 大空に向かって、大声で叫びたかった。
まず、はじめに。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
完結できましたのも、拙い文章にもかかわらず、読んでくださった皆様のおかげです。
初めての恋愛ジャンル(正確には別のサイトで一度だけアップした事あるんですけど)、いかがでしたでしょうか?
じれじれが多くて、テンポが悪かったでしょうか?
もう一度だけ、恋愛もの書いてみようかと思っていますので、そのあたり感想なんか聞かせていただれば、うれしいです。
どうも、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。




