もう私にはかまわないで欲しいんです! って、言っちゃた
次の月曜。私は学校で、ハイだった。
理由は簡単。将之さんの事が吹っ切れたから。
だったらいいけど、そんな訳はない。ただ、ただ、将之さんの事を吹っ切りたい。それだけ。
あんなに泣いたんだもん。もう、すっきりしたい。
私にはみんなに自慢のお兄ちゃんだっているんだし。
ゆかりと美由紀から聞いた話では、あの日、二人はセンター街のハマヤに行ったとの事だった。そして、将之さんたちのバンドの練習に最後まで付き合い、その後、近くのお店で盛り上がったらしかった。
将之さんは私が来なかった事を残念がってくれたらしかったし、近藤さんが駅から逆方向に向かう私を見たと言う話しもしたらしかった。
「なんで?」
と、将之さんは言ってくれたらしかった。
でも、もういい。やっぱ、もっと早く忘れるべきだったんだ。
授業を終えた私は一人、廊下を急ぐ。
いくら会う機会がほとんどないと言っても、学校にいると将之さんへの想いがチャージされて行く気がしてならない。
家に帰ってしまえば、将之さんへの想いは放出され、お兄ちゃんへの想いで胸が満たされて行く。そんなありもしない幻想を抱きながら。
階段を駆け下りて、もう少しで一階にたどり着く。
一階の廊下を右に曲がったちょい先に下足箱がある。
一階にたどり着いた私が、右側に曲がった。
下校しようとしている生徒たちが、楽しげな会話をしている空間。
そこに私は将之さんを発見してしまった。
壁にもたれかけて、私の方を見ていた。正確には階段から降りてくる人を見ていた。
目が合った。
どきっとした。
将之さんが持たれていた壁から体を起こして、向きを私の方に向けた。
もしかして、私を待ってくれていた。
押し出したはずの妄想好きの私が甦ってくる。
そんな訳ないじゃん。いつまで、ばかな事言ってんのよ。
冷静な私がそう言ったかと思うと、私の体を支配した。
視線は将之さんから逸らす。
足は早足で。
進路は将之さんから離れる角度で。
「まどかちゃん」
耳に届いたのは幻聴ではなく、本当の将之さんの声。
でも、冷静な私はここで立ち止まって、将之さんと関わりを持つ事を拒む。
聞こえないふり。聞こえないふり。
さらに足を速めた。
そんな私の腕が掴まれた。
私の腕が伸びきったところで、私の動きが止まった。
将之さんは強引なところがある。
そう思いだした瞬間、私の腕は引っ張られた。
男の人って、やっぱ力強い。
私の体は将之さんに吸い寄せられるかのように、よろめいて将之さんの体に接触寸前まで近づいた。
行っちゃえ、行っちゃえ。
妄想好きな私はそのまま将之さんの中にと誘惑する。
ここは学校の廊下よ。それに、将之さんの事は忘れるんだったでしょ、と冷静な私が体全体に力を加え、バランスを立て直そうとする。
危機一髪のところで、私は体勢を立て直した。
将之さんは私の進路を塞ぐ位置に立った。
「まどかちゃん」
接近気味の距離で将之さんが言った。私は目線を合わさないで、床に目を向けた。
「何でしょうか?」
「土曜、待ってたんだよ」
その言葉に私の心がざわついた。
でも、そのざわつきを一生懸命抑え込む。
待っていたに深い意味はない。
もうきっぱり、忘れちゃうんだ。今しかない。
私は心の中で頷いた。
「もう私にはかまわないで欲しいんです」
言った。言った。
ついに言っちゃった。これで、もう将之さんとの関係は終わり。
もう吹っ切っちゃうしかない。
涙が出そうになるのをこらえて、将之さんと壁の隙間を通り抜け、下足箱を目指すため、一歩を踏み出した。
そのまま通り過ぎようとする私の左腕が再び掴まれた。
将之さんの力で、向きを変えられ、将之さんに向き合う私。
進もうとしていた方向に、将之さんの左手が伸びて行き、廊下の壁とつながった。
どん。
私の耳のすぐ近くで、壁が振るえた。
その衝撃は私の耳だけでなく、心にも大きな衝撃を与えた。
私は進路は塞がれ、左腕は掴まれたまま壁に押し付けられた。
そして、心も。




