勝手な思い込みじゃなかったの?
茶道部だって、部活はちゃんとしている。
幽霊部員の私と違って、美由紀はちゃんとした茶道部員。部活のある日は部室に行って、部活している。
それはコンサートがあった日曜の週の火曜日だった。
美由紀は部活。ゆかりも用事があるとかで、私は一人で校舎を出た。
一人と言う事で、話しながらだらだら帰る訳でもない。そんな場合は少し早足になってしまう。
女の子はもちろん。その辺のへたな男子より歩くのは速い。
私の前には何人ものうちの学校の生徒がいたが、その間を縫うようにして、追い抜いて行く。
男子の集団。女子の集団。
ちらりとだけ視線を向け、その速度、密集度。全てを頭の中で処理して、最適な経路で、するりするりとかわしながら、時には歩道から車道にはみ出して、追い越して行く。
男子の二人組。
一瞬、私はどきりとした。
ちょっと長めでブラウンっぽい髪。
将之さん?
私の高校に、こんな髪型の人はそう多くないはず。その確率は高い。
少しでも逢えたうれしさ。いえ、これは逢ったとは言わない。見かけた程度。それでも、胸は高鳴ってうれしい気がする。
そんな気持ちをすぐに打ち消す別の私。
早く忘れたいのに、どうしてまた逢ってしまったのか?
私の胸の奥では、将之さんへの想いを打ち消す私の方が勝った。
それはもしかすると、傷つくのが怖いからだけなのかも知れない。
私は視線を地面に落とし、歩道の端から車道にぴょんと飛び降りると、早足で将之さんたちを追い抜いて行く。
ちらりとでも、将之さんの顔を見てみたい。
そしたら、「やあ」と声をかけてくれるかも知れない。
そんな妄想が広がる。
ばかじゃない。いつまで、未練がましくそんな事を考えているのよ。
さっさと駅に向かいなさいよ。
別の冷静な私が私の体を操って、足を速めさせた。
普通なら追い抜いたらすぐに歩道に戻る私。でも、将之さんたちのすぐ前を行く勇気もなく、足を歩道に向けられない。
「やあ」
私の脳裏にそんな声が浮かび上がった。その声は紛れもなく将之さんの声。
本当、私って妄想ばか。
将之さんの声が聞こえた気になるなんて、もう妄想と現実がこんがらがっている。
恥ずかしすぎる。そんな思いで、足をさらに速めようとした時、肩を叩かれた。
全くどうしようもない私は、叩かれた肩と反対側をまた振り向いた。
誰もいるはずもない。
と言うか、本当に叩かれたのかどうかも怪しい。
私の妄想は幻聴だけでなく、痛覚神経にも偽の刺激を与えるようになったのかも知れない。
恐る恐る反対側に振り向くと、将之さんがにこりと微笑んでいた。
「今、帰り? 一人なの?」
さっきまでの恥ずかしさとは違う恥ずかしさで、頬が熱くなっている気がする。もしかすると、真っ赤になっているかも知れない。
「あ、はい。今帰りです。一人で」
将之さんの隣の見知らぬ男子生徒は誰これは? と言う様な表情だ。
「この子は誰?」
その男子生徒が、たずねてきた。将之さんはその男子生徒の方を向いて、答えた。
「ちょっとした知り合い。かわいいだろう」
その男子生徒も、私もその言葉に驚いた表情になった。
「はぁ?」
私の目は点だった。どう受け取っていいのか分からない。
これが本当にそう思ってくれているのなら、飛び上がりたいほどうれしいことだけど、そんな訳はない。
相手は女生徒たちに人気の中井先輩。
女の子の扱いに慣れている。そう言う事なんだと思う。
何しろ、私は地味であって、堅物であって、そんなかわいいキャラじゃない。
「そうなんだ。でも、うちの生徒だよね?」
「この前、うちの軽音のコンサートに来てくれていたから、知っているかも知れないけど、こいつは俺の連れで、あの時のヴォーカルなんだ」
将之さんはその男子生徒を親指で差した。
ヴォーカル?
視線をその男子生徒に向けた。私に、にこりと微笑んで見せた。
はっきり言って、あの時、私はそれどころじゃなかったので、他のメンバーの顔なんて、覚えていない。
と、そこで私の思考回路はまた迷路に落ち込んだ。
私が見に行っていた事を知っているの?
もしかして、私の方を見てくれている気がしたのは、私の勝手な思い込みじゃなかったの?




