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第9話 「制服・上」

今日は風が強い…。

油断していると吹き飛んでしまいそうなほどに。

木々が揺れ、風の音がする…。

正直、学校が休みになって欲しいと思うほどだったが、

そう都合よくはいかなかった。

やっとの思いで校門へ着くと、そこには先輩がいた。


『やあ、おはよう』

「おはようございます先輩」

「朝に会うのはめずらし…」


俺はしゃべっている途中にいつもの先輩との違いに気がついた。

制服が女子用の制服ではなく男子用のものを着ていたのだ。


「せ…先輩なんで男の制服を…」

『今日は風が強くてスカートを穿くのは危険だし…』

『そもそも僕は男だからね』

「男女両方の制服持ってたんですか」

『うん、僕は気分で変えるよ』

『普段はスカートの方が多いけどね』


そうだったのか。

俺はずっと、女子の制服を着た先輩しか見たことがなかったから、

今のズボンを履いた先輩は、いつもとはまた違う雰囲気だ。

これもまたいい。


『じゃあ僕はそろそろ教室へ行くよ、またね』

「はい、じゃあまたお昼に」


お互いに挨拶した後、俺は教室へ向かった。

一時間目の授業への準備をしている間、俺は先輩のことばかりを考えていた。


(ズボンの先輩可愛かったな…)

(でも今日はスカートの先輩も見たかったな)

(風が強いし、スカートなら運が良ければ…って何を考えているんだ俺は)


そんな邪な妄想をしていると、いつの間にか授業時間になってしまった。

結局なんの準備もできなかったが、俺は先輩のせいにし、開き直ることにした。

授業が始まり、教師が黒板に文字を書き、周りの生徒はそれをノートへ写している。

だが俺は、なにもしていない。

なぜならまた先輩のことに夢中になっているからだ。


(女子の制服ばっか着てるから忘れてたけど)

(そっか、先輩って男なんだもんなあ)

(あんなに可愛くて、綺麗で、優しい人が…男)

(なぜかドキドキする…)


「はい、では一時間目の授業を終わります」


(えっ?)


俺は先輩のことを考えるあまり、授業をまったく聞いていなかった。

これはまずい、このままだとまた、テストで悪い点をとってしまうだろう。

俺は気合いを入れ直し、二時間目の授業へ挑んだ…が、

またしても意識が先輩へと向いてしまった。


(俺はなにをしてるんだ…これじゃあ先輩に失望されてしまう)


そう思い、授業を受けたが結局午前の授業時間は全て、

先輩のことを考える時間になってしまった。

俺は何をしているんだと思いながら、先輩とのお昼の待ち合わせ場所へ向かった。

今日は風が強いのでいつもの場所ではなく屋内の食堂で待ち合わせることにしている。

俺が食堂へ向かうと、すでに先輩が席に座って待っていた。


『おっ、来たね』

『授業はどうだったかな?』

「えっ、ま…まあまあですよ」

『ふーん、じゃあ今日の授業の内容を教えてよ』

「そ…その、いろいろやったんで、忘れちゃいましたあはは…」


俺が苦し紛れに笑うと、先輩は顎に手を当てながら少し考えた後、

『君は…授業をまじめに聞いてないのかな?』と言ってきた。


「い、いやそんなことは」

『でも、一つも授業内容を言えないことなんてあるのかな?』

『少しでも聞いていたなら言えると思うのだけれど』


俺は先輩に見透かされたのが恥ずかしく、洗いざらい全てを話すことにした。


『やっぱり聞いてなかったんだね』

「それは先輩の制服のせいで…」

『君が僕のことを考えてくれるのは嬉しいよ、でも』

『僕のせいで学業が疎かになるのなら…僕は君から離れるよ』

「えっえっっえっ」


その一言は俺にとってあまりにも大きな衝撃を与えた。

先輩が、俺から離れる…?

もしそんなことになれば俺は、学校生活を楽しめなくなるだろう。

だがこうなったら原因は俺にあるのだから仕方ないのかもしれない…。


『まあ、すぐ離れるのも君が可哀想だからチャンスをあげるよ』

「チャンス…?」

『うん、たしか来週あたりにテストがあったよね?』

「まあ…はい」

『そこで全科目90点以上とれたら、僕は君と離れないよ』

「9…90点って」


俺は勉強は特段勉強が苦手なわけではないが、勉強不足の状態から、

一週間で90点を取るまで勉強できる自信はない。


「ちょ…ちょっと厳しいですよ」

『んー?確かに難しいかもしれないけど、僕は君ならできると思ってるよ』

『学生の仕事は勉強だからね』


俺は不安になってきた、もし達成できなかったら、俺は先輩と離れてしまう。

そう考えて、俺はうつむいていると先輩が、俺の耳元まで来て囁いてきた。


『もし、90点以上とれたら…君にご褒美をあげるよ』

「えっ、ご…ご褒美って」

『それはその時までのお楽しみだよ』

『じゃあ頑張ってね、枕木君』


そう言うと先輩はどこかへ行ってしまった。

俺は果たして一週間で90点を取れるほど勉強できるのだろうか?

だがそんなことを考えている暇はない、

やらなければ先輩は俺から離れていってしまう。

それだけは絶対に避けなければならない。

それに…ご褒美の内容も気になる。


(…やるしかない)


俺は決意を固めたのであった──。


                     つづく

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