↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/78

第70話 「お姫様」

 休日、俺は家でだらんと過ごしていた。

普段は先輩や竜崎と遊んだりしているが、

たまには一人、家でくつろぐのもいいものだ。

そんなことを思っていると、突然チャイムが鳴った。


(……ったく、宅配便を頼んだ覚えはないぞ〜? くそ〜誰だか知らんが俺のいい休日を邪魔しやがって……)


 俺は心の中で毒づきながら眉間に皺を寄せ、

玄関のドアを開けに行った。

そして、ドアを開けると立っていたのは先輩だった。


 今日の先輩は、足首まで隠れるロングスカートを履いていて、

上はカーディガンという、なんとも秋らしい服装だ。

全体的にゆったりとしていて、肌の露出が少なく、先輩に似合っている。

それと、手におしゃれで高そうな紙袋を持っている。


「あっ……先輩でしたか」


 俺は急いで寄せていた皺を伸ばした。


「ふふ、急に来ていい休日を邪魔してごめんね。でも、皺を寄せて人に対応しない方がいいよ」

「ご、ごめんなさい……っていうか、勝手に顔見ないでくださいっ」

「ふふっ、ごめんごめん」

「まあ、いいですけど。というか、なにか用事があって来たんですか?」

「うん、お見舞いと頼み事があってね」


 先輩の話を聞くと、前に竜崎との力比べで俺が負傷したので、

大丈夫か見に来てくれたらしい。


「手は大丈夫かな? 枕木君」

「ふふん、もう大丈夫ですよ。そもそも大した怪我じゃなかったし……もう、いつも通りのパワーを発揮できますよ」

「ふふっ、ならよかったよ」

「でも、先輩は優しいですね。わざわざお見舞いに来てくれるし、お見舞いの品まで……」

「……この紙袋のことかい? これはお見舞いではないよ」

「えっ?」


 ずっとお見舞いの品だと思っていた俺は、その言葉に腰を抜かしそうになってしまった。


「お、お見舞いのやつじゃないんですか」

「うん、りゅりゅから、もうお詫びの品を貰ったらしいじゃないか。だから僕はいいかなって」

「そ、そんなあ〜」


 「別にお詫びとお見舞いは違うのだから、先輩もくれていいじゃないか」と思ったが、

言葉には出さないようにした。

まあ、言わずとも先輩にはバレてるかもしれないが。

しかし、じゃあ手に持っているそれはなんだというのだろうか。


 まさか、他の人に渡すために出かけていた時、

たまたま俺の家の近くに通りがかったから、ついでにお見舞いしにきただけなのだろうか。

そんな邪推をしていると、先輩に「違うよ。枕木君は想像力が豊かだね」と言われてしまった。


「じゃ、じゃあそれはなんですか」

「ほら、さっき頼み事があると言っただろう? タダで頼むのも申し訳ないから、それ用の品ということさ」


 そういえば、確かにさっきそんなことを言っていた気がする。

まあなんにせよ、貰えるならなんだっていい。

紙袋が高そうなので、中身にも期待が膨らむ。


「はい、どうぞ。枕木君」

「あ、ど、どうも。ありがとうございます。ちなみに、中身ってなんですか?」

「ふふ、それはね、君の大好きな『高級』お菓子さ」


 先輩がニヤニヤしながら、そう言ってくる。

確かに俺は高いものが好きだが、こう言われると、

高い物ばかりねだる、いやらしい男みたいで恥ずかしい。


「こ、高級をそんな強調しないでくださいよ」

「ふふ、ごめんね。じゃあ、家の中にお邪魔するよ」

「え? まあはい……えっ?」


 あまりにも自然に家に入ってこようとしたので、

一旦、手で先輩を止めた。


「おや、この手はなにかな」

「なにかなって……そりゃ急に入ろうとされたらビックリしますよ」

「僕の頼み事は、君の家でしかできないからね。もし家の中がダメだったら、僕は帰ることにするさ」

「ええ……」


 アポ無しで来ておいて、家に入ろうとするのはどうかと思うが、

よく考えれば先輩はいつもこんなものだし、なによりお土産も貰ったので、

俺は家に入れることにした。


「もお〜先輩じゃなかったら家に入れてませんからね」

「ふふ、ありがとうね。枕木君」


 そして、先輩をリビングに招いた。


「とりあえずお茶持ってくるから、ソファーに座って待っててください」

「分かったよ。ありがとうね」


 そのあと、お茶を持っていって、俺もソファーに座ると、

先輩がこちらに近づいてきて、俺の膝に座った。


「えっと……なんですか先輩」

「ん? 君の膝は座り心地がいいからね。嫌なら離れるよ」

「嫌ではないですけど……」

「じゃあ、座ったままにするよ。それじゃあ頼み事についてだけど……」


 先輩は普通に話し始めたが、膝の上に乗られているせいで集中できない。

……先輩から花のようないい匂いがしてくるし、

先輩の柔らかい感触も、体重がかかってきているせいか、とても感じる。


「……というのをしてほしいのだけど、どうかな?」


 話し終えた先輩が、こちらに顔を向け、俺の顔を見てくる。


「……おや、僕が膝の上に座ったせいで聞こえてなかったみたいだね」

「だ、だって先輩を感じて……」

「ふふ、そっか。興奮したかな?」

「してませんっ」


 俺は図星を突かれ、衝動的に否定したが、

そもそも、先輩は顔を見たら分かるだろうし、

わざわざ聞いてくるなんて、いじわるな先輩だ。


「まあ、興奮はしていなかったということにしてあげるよ。ちなみに、頼み事は『お姫様抱っこ』をしてほしいんだ」

「えっ?」

「ほら、君が前に言っただろう?『人がいるから嫌だ』ってね。でも、今は二人きりだからね」

「……分かりましたよ。じゃあ、しますから膝から下りて一度立ってください」

「ふふっ、嬉しいよ」


 先輩に立ってもらい、俺はその背中と膝の裏に手を回して、抱き上げた。


「えっと……これでいいんですよね」

「うん、あっ、そうだ」


 そう言うと、先輩は俺の首に手を回した。


「やっぱりお姫様抱っこは、首に手を回さないとね」

「はあ、そうですか」

「ふふっ、重くないかい? 枕木君」

「ん……まあまあですよ」

「……ふふっ、そっか。『まあまあ』か、君らしいよ」


 「君らしい」の意味は分からないが、先輩が嬉しそうにしているので、それでいいのかもしれない。

そのあとも、俺はずっと先輩をお姫様抱っこし続けた──。


「……ねえ枕木君」

「どうかしました?」

「今の僕ね……本当にお姫様になった気分だよ。ありがとうね、枕木君」


 先輩が、とても嬉しそうに笑っている。

その笑顔に俺まで嬉しくなってきてしまう。


「ふふ、先輩嬉しそうですね。そんなにお姫様になれたのが嬉しかったですか?」

「うん、嬉しいよ……君にとってのお姫様になれたみたいで……」


 先輩は俺の顔を見ながら、頬を赤らめてそう言った。

……先輩が、俺に気持ちを伝えてくれた。

だったら、俺も先輩に気持ちを伝えたい。


「お、俺にとっては、前からずっとお姫様ですけどね……」


言ってしまった。

少し恥ずかしい台詞を口にしたせいで、自分の体温と心拍数が急激に上昇していくのを感じる。

先輩も俺が喋ってから黙っているし……。

そんなことを思っていると、先輩は赤かった頬をさらに赤らめて笑った。


「ふふふ、そっか、僕はもうお姫様だったんだね」

「な、なんで笑うんですか」

「……ははっ。だって顔を見ても、同じ言葉しか見えてこないから、本当にそう思ってくれてるんだなって思っただけさ」

「も、もお〜。恥ずかしいんですから、顔見たり笑ったりしないでくださいよっ」

「ふふ、ごめんね」

 

 そのあとも、俺たちはお姫様抱っこを続け、

しばらく経ってから先輩をゆっくり下ろした。


「……お姫様抱っこ、ありがとうね。枕木君」

「べ、別に大丈夫ですよ」

「そっか、そしたら僕はそろそろ帰るね」

「あっ、そしたら……玄関まで見送りますよ」

「優しいね、枕木君」


 そして先輩は玄関へ行き、靴を履いてドアに指をかけた。

すると、先輩はこちらを向いてきた。


「忘れ物とかありましたか?」

「ん? ただ君に、最後にもう一度お礼を言いたかっただけさ」

「そうでしたか」

「ふふ、じゃあ今日はありがとうね。僕の『王子様』」


 先輩の思わぬ一言に、一瞬フリーズしてしまった。

先輩は俺のことを王子様だと思っていたのか。

なんてことを考えていると、お姫様抱っこの時のように先輩が顔を赤くし、

俺から顔を背けるようにドアの方を向いた。


「や、やっぱり、今のは恥ずかしいから……忘れてほしいな」

「えっ、あ、はい」

「じゃ、じゃあね」


 先輩は空気に耐えきれなくなったのか、そそくさと外へ出ていった。

……忘れてほしいとは言っていたが、忘れることなんてできないだろう。

だって、先輩が俺のことを大事に思ってくれていたのだから──。


 そして、休みが明け学校の日の朝──。


「あ……やあ、枕木君……」

「ど、どうも……」


 昨日のせいで、お互い恥ずかしくなり、

しばらく俺たちは顔を見て喋れなくなってしまった──。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

よければブックマークや評価をいただけますと、

創作活動の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。