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第7話 「休日」

 俺は今、休みの日に先輩とショッピングモールに来ている。

本当は竜崎も来て三人で来る予定だったのだが…。

どうやら家の事情か何かで用事ができたらしく、

今日の朝、グループチャットにメッセージで、


「大変申し訳ありません。急な用事が入り、行けなくなってしまいました」

「また今度お願いいたします」


 という文面と同時に、泣き顔のスタンプが送られてきていた。

その後もよっぽど行きたかったのかスタンプを、

通知の振動で携帯が壊れるかと思うくらい送ってきていた。


 最終的に先輩から『りゅりゅの気持ちは伝わったから落ち着いてね』と窘められていた。

だが竜崎の気持ちも分かる。

休みの日は私服の先輩が見れるのだから。

制服とはまた違った、雰囲気…。

それを見れるこの時間はまさに至福の時だ。


『じゃあ、まずどこへ行こうか』

『君は行きたいところとかあるかい?』

「えっ、いや俺は先輩が行きたいところでいいですよ」

『ふーん、なら本屋さんに行きたいな』


 そして俺たちは本屋へ向かって歩き始めた。

歩いている途中、私服の先輩を目に焼き付けようと、


 何回か先輩の方を見ていたら『前を見て歩かないとぶつかってしまうよ』と言われてしまった。


 そんなこんなあって本屋へ到着し、先輩は目的のものを探し始めている。

先輩が探している途中、俺は暇なので、

心の中で先輩が何の本を買うか予想してみることにした。


(先輩が買う本ってなんだ…?)

(勉強得意だったし参考書とかかな)


 そんなことを考えていると、先輩が『あった』と呟き、本を手に取った。

手に取ったのは自己肯定感の上げ方!と表紙に書かれた、自己啓発本だ。


(えっ先輩って自己肯定感が低かったのか)


と思っていると先輩がこちらを見て、


『僕じゃないよ』

『お母さんに言われたんだ、お姉ちゃんのためにこういう本を買ってきて、ってね』

「へーっ先輩ってお姉さんがいたんですね」

『うん…』


 そう言った先輩の表情は少し暗かった。

こんな顔、先輩と付き合ってきて一度も見たことがない。

少しすると先輩がハッとして、『さっきのは気にしないでね、じゃあレジへ行こうか』

と言われた。


 きっとあまり触れてほしくないのだろう。

俺は何も言えずに先輩とレジへ並び、そのあと本屋を出た。

 

 その間、さっきの表情について考えようとしたが、

あまり考えないほうがいいと思い、忘れることにした。

そんなことを思っていると、まるでお昼を知らせるようにお腹が鳴ってしまった。


『おや、お腹が空いたのかい?』

「は…はい」

『ふふっ、じゃあフードコートへ行こうか』


 フードコートへ着くと、休日のモールなだけあり、ほとんどのテーブルが埋まっていて、

店の前もちょっとした列ができているのが見える。

俺たちは必死に席を探し、ようやく座ることができた。


「ふーっ、休日だと座るのも一苦労ですね」

『そうだね、そういえば君はお腹を空かせていたね』

『先に並んできたらどうかな?僕は席で待ってるよ』

「えっ、先輩は並ばなくていいんですか?」

『僕はあまりお腹が減っていないし、荷物だけ置いて二人とも席を立つのも危ないでしょ』

「まあ…確かに」


 俺は先輩の言葉に甘えて、列へ並んだ。

頼んだのはラーメンだ。

注文を終え、ベルを受け取った後、俺はテーブルに戻った。


 先輩の元へ戻ると『君はなにを頼んだのかな?』と言われたので、

なんとなく「なんだと思いますか?」とクイズを出してみる。

すると先輩は俺の顔をじーっ、と見つめてきた。


「ちょ…ちょっとなんですか、恥ずかしいですよ」

『ん〜?クイズを出されたからには正解したいじゃないか』


 そう言いながら、少し考えたそぶりを見せたあと、先輩は口を開いた。


『分かったよ、答えはラーメンだ』

「な…なんで分かったんですか」

『だって呼び出しベルにラーメン屋さんのロゴがあるからね』


 俺がベルを見ると確かに、ラーメン屋のロゴが入っていた。


「それずるくないですか!?」

『問題を出すならもっと周りの状況に気をつかうべきだったね』


 俺がなにか言い返そうと頭で考えていると、時間切れを知らせるようにベルが鳴った。


『ふふ、行ってらっしゃい』


 俺は敗北を噛みしめながら、ラーメンを受け取り、テーブルへ戻った。

先輩はクスクスと笑って俺を見ている。


 その状態で食べるラーメンは不思議と塩辛く感じた──。

俺が食べ終わり、店に食器を戻すといつのまにか先輩が背後にいた。


「あれ?テーブルから離れていいんですか?もう空席ないですよ」

『僕は別にいいよ、それより次に行きたいところがあるんだけどいいかな?』

「いいですけど…」


 そう言うと先輩は、俺の手をそっと握って、先導するように歩き始めた。

俺はビックリしすぎて何も言えなかった。


 急な手繋ぎに驚いたのもあるが、なにより先輩の手の感触が素晴らしかった。

絹のように滑らかで、それでいて吸いついてくる。


 手の温度もほんのり温かく、先輩の体温が全身に伝わって、母親のお腹の中のような安心感を感じる。

ずっと握っていたい…なんて思っていたら手が離れ、いつのまにか到着していた。


「ここは…服屋ですか」

『うん、服が見たかったんだ』

『前から気になっていたのだけれど、どうせなら人に見てもらいたくてね』


 俺は今ドキドキしている。

おそらく、先輩がいろんな服を着て、

俺に『どっちが似合ってるかな』と先輩が言うイベントが起きると思っていたからだ。

だが、結果としてあまりドキドキはしなかった。


 イベント自体はあったが、とにかく長かったのだ。

何着も何着も……もちろん全てが似合っていて美しかったのだが、長い。

最初は楽しかったが、後半は苦痛であった。


 最後は先輩に察され、『ごめん、長かったね』と言われ、

先輩が服を買い、店を出たあと、気まずい空気になってしまった。


『さっきはごめんね』

「い…いやそんな謝らなくても…」


 その後、先輩と俺の間で言葉のやりとりが止まった。

時刻は現在16時30分、おそらく先輩はもうすぐ帰ってしまうだろう。


 こんな空気で終わりたくないと思った俺は、必

死に考え、

短時間で終わり、思い出になるような…。

そうやって考えていると俺は思いついた。


「ぷ…プリクラ撮りませんか?」


すると先輩がこちらを向き、少し笑った。


『それいいね』


 先輩とプリクラのコーナーへ着くとそこにはさまざまなプリクラ機があった。

正直思いつきで言ったから、どれがいいのかまったく分からない。


 そもそも俺はプリクラ自体初めてだ。

すると先輩が、さっきみたいに手を繋いで『あれがいいな』と俺を機械の中まで連れていった。


「へーっプリクラの中ってこうなってるんですね」

『ん、君は初めてなのかい?』

「はい」


 そう俺が言うと先輩が口角を上げながら流し目で、


『枕木君の初めてをもらってしまったね』


 と言ってきた。

俺は思わず照れてしまった。

そんなことを言われたら俺はもっと先輩のことが…。


『ほら、ちゃんとしないと撮られてしまうよ』

「え」


 俺が慌ててポーズを取ると、

──カシャッ

シャッターの音が機械に響き渡った。

俺が戸惑っていると、先輩が言った。


『ふふっ、シャッターに撮られるところだったね枕木君』

「もしかして撮るタイミングでわざと言いましたね」

『ごめんね、君の反応は可愛いから』


また先輩に負けた気分だ。

けど…不思議と嫌ではない。


『ほら、落書きの時間だよ』

「そんなのあるんですか」

『プリクラといえば落書きだよ』

「そうなんですか」


 機械の横を見ると、タッチパネルがあり、そこにさっきの写真が映っている。

ここからペンで書いたりできるらしい。


 俺は経験がないのでなにを書くか迷っていると、

先輩が『好きなことを書けばいいよ』と言ってくれたので、

なにか書いてみることにした。


(なにがいいかな…)

(そうだ、あれにしよう)


 先輩は真ん中にHAPPYと書いている。

そして俺は…。

マオ先輩いつもありがとうと書いた。

それを見た先輩は嬉しそうに笑っていた。


 プリクラ機から写真が印刷され、俺と先輩で一枚ずつ持った。

先輩がじっと写真を見ている。

「そんなに名前で書かれるのが嬉しかったですか」と俺が言うと、

『そうだね、嬉しいよ』と先輩が笑顔のまま言った。


「ならよかったです」

『でも』

「でも?」

『僕は文字じゃなくて言葉で言ってほしいのだけど』

「えっ」

『ほら』


 先輩が乙女のような表情で待っている。

だが俺の口から出た言葉は自分でも、最低な言葉だった。


「そ…そろそろ先輩も帰る時間じゃないですか」

「今日はこのへんで…」

『……………』


 先輩の表情が真顔になっている。

やってしまった。


『ま、いいよ』

『楽しみは取っておくことにするよ』

『じゃあね、枕木君』


 そう言うと先輩は足早に帰っていった。

──後日


「ショッピングモール…私も行きたかったです」

「プリクラまで撮るなんて羨ましい」

「竜崎も来れたらよかったのにな」

『楽しかったよ、次はりゅりゅも一緒に行こうか』

「はい!真央先輩!」

『……りゅりゅは優しいね、名前で呼んでくれて』

『どこかの誰かさんは、呼んでくれなかったのにね』

「す…すいません」


先輩は少し怒っていた──。






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