第6話 「あだ名」
今日は高校に入ってから一番バッドな日だ。
それはなぜか…先輩が校外学習に行って、会えないからだ。
しかもその授業は、学校に戻ってこずに現地解散するらしい。
これでは放課後にすら会えない。
(先輩がいないと寂しいなぁ)
そんなことを考えながら、俺は無気力状態で授業を受けていた。
だが竜崎は普段通りに見える。
やはり俺の方が先輩のことを思っているんだな。などと、
心の中でマウントを取っていると、
──キーンコーンカーンコーンと昼休みを知らせるチャイムが鳴った。
不思議だ。
普段よりチャイムの時間が早く感じる。
いつもは待ち遠しい昼休みも、
先輩がいなければただの、からっぽで退屈な時間だ。
けれど他にすることもないので、いつもの場所でお昼を食べることにした。
するとそこには竜崎がいた。
「あら、あなたも来たのね」
「まあなんとなく…」
そこで会話が止まった。
竜崎と知り合ったばかりで、関係性はまだ友達の友達レベルだからだ。
先輩がいないと気まずくなって喋れない…。
この空気には耐えられない。昼休みが早く終わってほしい。
そう思った時であった。
かすかな音と振動を感じる。
俺と竜崎の携帯に同時に電話がかかってきたのだ。
誰からだと思い、画面を見ると先輩がビデオ通話をかけてきていた。
『やあ』
「あっ先輩、校外学習なんじゃなかったんですか」
『ん?昼休みで暇だからかけてみたんだ』
そうだった。
別に校外にいても話せるということに今、気づいた。
だから竜崎は今日も平然としていたんだろう。
『【りゅりゅ】もそこにいるのかな?』
「はい、真央先輩」
「【りゅりゅ】って誰ですか先輩。まさか竜崎のことですか?」
『そうだよ』
『竜崎って毎回呼ぶのもあれだしね。二人であだ名を決めてみたんだ』
『竜崎竜奈の頭文字をとって【りゅりゅ】、いいと思わないかい?』
思わず目を大きく見開いてしまった。
知らない間に、二人の仲が深まっていたのだ。
しかも、もうあだ名まで付いている…。
俺にもあだ名が付いていないのに。
竜崎の方を見ると、勝ち誇っているような、優越感にどっぷりと浸かっている表情をしていた。
「ちょちょっと、じゃあ俺にもあだ名をつけてくださいよ先輩」
『ふうん、少し困ってしまうね』
「枕木遊星からとって、【まゆ】でいいのでは?」
(余計なこと言うな竜崎ぃ〜っ)
(俺は先輩に考えてほしいんだよぉ)
なんてことを思ったがさすがに口に出す勇気はなかった。
『うーん、それも悪くないけれど少し違うかな』
『でも僕も思いつかないよ』
『君はあだ名がなくてもいいんじゃないかな、枕木君』
それを聞いた瞬間、俺は嬉しくなった。
確かにあだ名なんて俺にはいらない。
もう名前で呼んでもらえるのだから。
今度は竜崎が驚いたように目を見開いていた。
俺は、仕返しとばかりに優越感に満ちた表情をしてやった。
「せ…先輩、やっぱり私も竜崎ちゃんって呼んでもらえませんか」
『ふふっ、いいよ竜崎ちゃん』
「ちょ、先輩、竜崎は【りゅりゅ】じゃなかったんですか!?」
『別にいいじゃないか、いろんな呼び方があったって』
「じゃあやっぱ俺にもあだ名くださいよ!」
どうやら今日が一番バッドな日だというのは間違いだったようだ。
だってこんなにも楽しいのだから──。
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ちなみに竜崎の身長は166cmです。




