第5話 「知り合い」
俺は今、焦っている。
なぜなら初めて同級生──それも女子に話しかけられたからだ。
それはいつものように、俺がお昼ご飯を先輩と一緒に食べようと、先輩と待ち合わせている場所に行こうとした時だった。
「あなたに話があります。校舎裏に来ていただけますか」
クラスが少しざわめいている。
それも当然だろう。
話しかけてきたのはクラスで一番、いや世界三大美女にも入れるだろうと男子の間で言われている女子だったからだ。
(俺は先輩の方が綺麗だと思うけど…)
それはともかくとしてこいつはクラス委員長をやっていて、この高校にも首席で合格しているらしい。
俺は内心、期待と不安が混じっていた。
告白されたらどうしよう。
でも俺には先輩がいるしな…などという要らぬことを考えながら二人で校舎裏へ向かった。
向かっている途中、俺は先輩と待ち合わせていることを言おうとしたが、
陰キャである俺は一言も喋ることができなかった。
先輩に心の中で謝りながら、彼女について歩いた。
着いて早々、彼女は冷淡な声で言った。
「あなた、あの人とどういう関係なのかしら」
「あ…あの人?」
そして俺は一瞬考えた後、答えに辿り着いた。
「も…もしかして先輩のことですか…?」
「そうです」
「どういう関係と言われても…先輩と後輩というか…」
「なら恋人ではないのね、良かったわ」
そう言うとそいつは足早に去っていった。
(なんだったんだよ…)
と内心思いつつ、俺は先輩の元に急いで向かった。
『やあ、今日は遅かったね。なにかあったのかな』
「そうなんですよ、ほんとに聞いてくださいよ…」
俺は先輩に今日あったことを全て話した。
『それは大変だったね。でも話しかけられてよかったじゃないか』
「よくないですよ、急に絡まれてクラスの人にはじろじろ見られるし…」
「というかその人のこと、なにか知らないですか?」
俺は先輩にさっきのやつの特徴を思い出しながら話した。
黒いストレートの髪に黒い瞳で、顔立ちはいわゆる爬虫類顔だった。
身長は165cmほどで脚が長く、スタイルが良かった。
それとまつ毛も長くて、確かにクラスの男達が話すのも、
納得できるほどに綺麗だった。
「俺は先輩の方が綺麗だと思いますけどね」
『それは嬉しいね、それはそうと僕の知り合いにそんな人はいないよ』
「そうですか…」
『それよりお昼はいいのかい?』
「あっそうでした、待たせてごめんなさい。じゃあ食べますか」
結局、あいつがなぜ先輩のことを聞いてきたのか分からなかったが、
俺は先輩とお昼を食べながら話すうちに、その疑問を忘れていった。
『おや、そろそろ時間だね。じゃあまた放課後にね』
「はい」
そうして午後の授業も終わり、放課後になった。
俺はいつもの待ち合わせ場所へ向かった。最初に先輩と出会った場所だ。
俺がいつものように先輩に会いに行くと、
そこに昼に話しかけてきたあいつが先輩といた。
先輩に話しかけようとしたが、俺は会話に割って入る勇気がなかったので、
二人の会話が終わるまで隠れながら待っていることにした。
「私、竜崎竜奈って言います」
俺の時と声が違った。明らかに好意の入った声だ。
しかも俺には名前を言わなかったのに、先輩には言っている。
そういえば、先輩と恋人かどうかとか言っていたような…。
そこで俺は気がついた。
(もしかしてこの女、先輩が好きなのか!?)
(いやでも先輩は知らないって言ってたし…)
『僕は月城真央、それで僕になんの用かな』
「入学式の日…あなたを初めて見かけた時に感じました」
「ああ、これが運命の人なんだ…と」
「あの日から、あなたのことを陰で見ていました」
「お昼ご飯を食べているところも、放課後に話しているところも…ずっと見ていました」
(ずっと見られてたのか…こいつ、まるでストーカーじゃないか)
「その透き通るような白い髪も、美しい所作も、たまに見せる笑顔も…」
「すべてが私の目には魅力的に映りました」
(ん?この流れはもしや…)
「あなたのことが好きです」
「私と…付き合っていただけませんか」
(なにぃーーっ!?)
俺はあまりの衝撃に転んでしまい、二人に見つかってしまった。
『やあ』
「あっ…ど…どうも先輩」
「盗み聞きとは感心しませんね」
なにか言い返そうとしたが、またもや何も言えなかった。
俺は弱い。
「それより、真央さん。私と付き合っていただけないでしょうか」
こいつ、先輩を名前で呼んでいる。
俺だってまだ恥ずかしくて言えてないのに。
先輩は名前で呼んで欲しがっていたのに、言えずに他の人に先に言われる。
俺はなんて情けない男なんだ。
『そうは言われても、僕は君と知り合ったばかりだからね』
「でしたらお友達から…」
『それはいい案だね』
そのあと、先輩は俺の方をちらっと見てこう言った。
『そういえば枕木君は同級生の知り合いを作りたいと言っていたね』
「えっまあ…はい」
『この子と知り合いになったらいいんじゃないのかな』
それを聞いた後、俺と竜崎は目が合った。
おそらくお互いに(こいつと…?)と思っていただろう。
少なくとも俺はそう思った。
『二人が嫌なら無理強いはしないけれど、友達の友達は──ってやつさ』
「真央さんがそうおっしゃるのなら…」
俺も先輩が言うのならということで、
お互い渋々ではあるが連絡先を交換した。
『それと、せっかくだからL◯NEグループも作ろうか』
『ずっと作ってみたくてね』
こうして先輩のおかげで俺は同級生の知り合いが一応できた。
「話しかけられるのを待った方がいい」という先輩のアドバイスは、正しかった。
竜崎が先輩とお昼を食べる時に来るのは少し残念だが、
まあこれもこれでいいのかもしれない──。




