第68話 「目を見て話そう」
午前の授業が終わり、たまたま会った竜崎と共にいつもの場所へ向かうと、
そこにはベンチに横たわっている先輩がいた。
その姿はまるで、長時間の労働で力尽きたサラリーマンのようだ。
「……あ、やあ……りゅりゅ、枕木君」
先輩の声はいつもより元気がないのか、かすかな風にもかき消されそうなほど小さい。
「ど、どうしたんですか先輩」
「そうですわ。大丈夫ですか先輩……?」
「ん……授業で疲れてしまっただけさ……。いま、起きるね」
先輩がゆっくりと、横たわっていた体を縦にしていく。
「はい、これで二人とも座れるよ」
「あ、どうも……」
「では座りますわ……」
俺たちはベンチに座り、お弁当を食べようとした。
だが、先輩がなぜこんなに元気がないのか気になってそれどころではない。
……直接聞いてみよう。
「あの……なんかあったんですか。悩んでるなら聞きますよ先輩」
「そうですわ。いつも先輩にお世話になっているので、今度は私たちを頼りにしてください」
「……二人とも、優しいね。まあ、それなら僕も話すよ」
そして、先輩は話し始めた。
どうやら午前の授業にグループワークがあり、そこで人と話したから疲れてしまったらしい。
俺もグループワークは苦手なので気持ちが分かるが、
ある疑問が出てきた。
「……あれ、先輩って人と話すの苦手でしたっけ。その割には入学式に初対面なのに俺に話しかけてきましたよね」
「確かに、私と初対面の時も優しく会話してくれましたわ」
「ん……話すこと自体は苦手ではないけれど、ほら『人と話すときは目を見て話せ』というだろう?」
「まあ、そう聞いたことはありますけど」
「僕の場合は、人の目を見て話すと、その人の思考が勝手に見えてしまうのさ。それに疲れてしまってね……」
「あー……」
確かに、それは嫌かもしれない。
人の思考が勝手に流れてきたら、俺も嫌だ。
特に、失敗した時などに人からの「あっ……かわいそ」みたいなものまで読めてしまうと想像しただけで、発狂してしまいそうだ。
しかし、先輩の読心術がそんな不便なものだったとは……もしかして読心術ではなく、ただ感受性が高いだけなのではないだろうか。
「まあ、とにかくそういうわけで疲れてしまって、横になっていたわけさ」
「そうだったんですわね……それは疲れるのも当然ですわ」
「そうでしたか……そうだ、先輩を元気づけてあげますよ」
「……? どうするつもりなのかな枕木く……んむぐ」
俺は先輩に顔を見られ、なにをするか察される前に、先輩を優しく抱きしめた。
「先輩はよく俺を抱きしめてくれるから、お返しです」
「……ふふ、枕木君は優しいね」
先輩の顔を見ると、先ほどまでの疲れていた顔に、いつもの元気が戻っていた。
そのあとも抱きしめていると、竜崎が口を大きく開けて呆然としていた。
「なっ、わ、私もやりますわっっっ」
こうして、俺たちは先輩をサンドイッチのように挟み、昼休みが終わるまで先輩を元気づけた。
「……ありがとうね。二人とも」
「大丈夫ですよ先輩」
「そうですわ」
「ふふっ、二人となら、顔を見て話しても、疲れなくて楽しいよ。それじゃあ、僕は教室に戻るね……あっ」
「ん? どうしました先輩」
「お弁当、食べ忘れてしまったね」
「あ……」
そのあと、俺は空腹に耐えながら授業を受けた。
竜崎もかなり辛そうな表情で授業を受けている。
……お昼はきちんと食べよう──。




