第67話 「ズボンorスカート」
「おはよう、枕木君」
「あ、どうも先輩……ん?」
今日もいつもと同じように、校門にいる先輩に挨拶をしたが、
一つだけいつもと違う部分があった。
制服が女子ではなく男子用のものだったのだ。
「今日は男子ですか。珍しいですね」
「ふふ、ズボンの気分だったし、なにより今日は風が強いしね」
先輩の男子制服は、いつも女の子のように見える先輩が、実は男だという事実を思い出させてくれる。
普段とのギャップを感じられるから、俺は先輩の男子制服姿が好きだ。
ただ、風が強い日に着てくるというのはいただけない。
俺は風の日でも……いや、風の日だからこそ先輩にスカートを履いてほしいっ。
「ふうん……君は、僕が風のいたずらに困っている所が見たいのかな?」
「えっっ、まだ顔見られてませんよっ」
「ちらっとね。まあ、君がスケベなのは今に始まったことではないけど、風の日にスカートを履いてたら、君以外にも見られるかもしれないしね」
またスケベと言われてしまったが、今回は否定できない。
それはそれとして、確かに他の人に先輩のスカートが風にいたずらされている所を見られるなんて、
想像しただけで怒りで全身の血が体から吹き出してしまいそうだ。
「とにかく、僕は風が強い時はスカートを履かないということさ……あ、そうだ。君に教えてほしいことがあるんだ」
そう言うと、先輩は急に俺と目を合わせ、真剣な表情になった。
なにか重要なことでもあるのだろうか。
「ど、どうしました……?」
「もし、僕がこの先ずっと、ズボンかスカートどっちかしか履けないってなったら、君はどっちを選ぶかな?」
俺は予想外の答えに力が抜けそうになった。
真剣な顔だった割には、こんなよく分からない二択をしてくるなんて。
「なんすかその二択……」
「いいから、答えてほしいな」
「はあ……まあいいですけど」
……おそらく、この質問の意図は「ズボンとスカート、どっち姿の僕をずっと見たい?」ということだろう。
しかし、そうなってくると正直スカートを選びたい気持ちが強くなる。
ズボンにはズボンの良さがあることは承知だが、
スカートには、先輩の黒いニーソとスカートの間の太もも……いわゆる「絶対領域」が見られるという魅力が……。
ズボンの先輩には申し訳ないが、ここはスカート先輩だろう。
「俺は、スカートを選びますっ」
すると先輩が、自分の口に指を当て、俺を笑ってくる。
「な、なんですか」
「ん〜? 予想通りだなって。だって君、僕がスカート履いてるとき太ももばかり見てるもんね」
「えっ、そ、そんなことは……」
「これは君の思考を読んだ訳じゃなくて、君の視線がいつも太ももを向いていたということさ。僕が座ってる時なんかは特にね。ちなみに、ズボンの時は君は僕の顔ばかり見てるよ」
自分で意識していたつもりはないが、どうやら俺の視線はずっと先輩の下半身に向いていたらしい。
また先輩にスケベ扱いされてしまう……。
「まあとにかく、君の答えは『スカート』でいいんだね?」
「えっ、まあ、はい」
「本当に……? 本当の本当に……? ファイナルアンサ〜〜?」
先輩がしつこく聞いてくる。
この二択にそんな時間をかける必要なんか……いや、もしかすると、
先輩は本気で俺の答えた方しか今後着ないのかもしれない。
普通の人ならこんなしょうもない二択で、今後の人生の服装を決めたりしないだろうが、先輩は決めてくるかもしれない。
だとしたら安易にスカートと決めるのも……いや、だがしかし……。
「ふふ、悩んでるみたいだね。じゃあ僕は教室へ行くよ、またね枕木君」
「え? ちょ、ちょっと待ってくださいよおっ」
俺は先輩に声をかけたが、そのまま教室へ行ってしまった。
人を悩ませるだけ悩ませておいて先に行くなんて、酷い。
「先輩のいじわるっ、先輩の悪魔っ」と、教室に行く途中に振り向いてきたら、
俺の顔を見せて、思考を伝えてやろうとしたが、先輩が振り向くことはなかった。
そのあとも俺は授業中や昼休み、とにかく一日中、
先輩の質問に対して頭を悩ませていた。
そして気づけば──。
(全然集中できずに今日の学校終わっちまった……。これも全て先輩のせいだ)
そんな風に先輩のせいにしながら、帰ろうと校門へ向かうと、
いつも通り先輩が立っていた。
「やあ、枕木君」
「もお……先輩のせいで集中できなかったんですからね」
「ふふ、ごめんね。でも君は賢いから、これくらいでは成績に支障はないはずさ」
なんか「賢い」と褒めて誤魔化そうとしている気がするが、
なんだかんだで褒められるのは嬉しいので、俺は誤魔化されておくことにした。
「それで……二択の答えは決まったかな? 枕木君」
「それは……」
俺は一日中考えたが、結局答えは出なかった。
俺には、先輩の一生の服を決める勇気はない。
「その、俺には決められないというか……どっちもいい所があって選べないっていうか……」
「……ふふっ、仮定の話なのにそんな真剣に考えてくれたんだ」
「えっ、仮定なんですか」
「当たり前じゃないか。二択で今後の服を決めるなんてありえないよ」
俺は深読みしすぎていたらしい。
だがそれはそれとして、先に言っておいて欲しかった。
「まあとにかく、君はどっちかじゃなくて、どっちもが良いんだね」
「え、まあ、はい……」
「ふふっ、そしたら明日を楽しみにしておいておくれよ。じゃあね枕木君」
そして、先輩は帰って行った。
……明日を楽しみにとはどういう意味だろうか。
そして次の日の朝──。
登校すると、また校門に先輩が立っている。
今日の先輩は女子制服に戻っている。
「やあ、枕木君」
「どうも先輩、あの、昨日のことについてなんですが……」
「……ここだと人が多いから、校舎裏へ行こうか」
「えっ? わざわざですか?」
「うん、ほらおいで」
先輩が俺の手を引っ張って、校舎裏まで連れて行こうとする。
一体なにがあるのだろうか。
「……さて、ここなら人がいないね」
「先輩……なんのために来たか教えてくださいね」
「ふふっ、それはね」
先輩はそう言いながらスカートの裾をつまみ、まくり上げようとする。
「ちょ、ちょちょっと、なにしてんですかあっ」
「いいから、見ててほしいな」
先輩はスカートをまくり上げていく──。
朝からこんなことするために俺を校舎裏へ呼んだのだろうか?
困惑する俺をよそに、先輩はさらにまくり上げていき、もうスカートの中が見えてしまいそうで──。
「せ、先輩っ。朝からハレンチすぎま……ん?」
先輩がスカートをまくり上げ、その中に見えたのは、短ズボンだった。
「えっと……これは……」
「ふふっ、君が昨日『どっちもいい』と言ったからね、スカートとズボンをどっちも履いたのさ」
「は、はあ。そうでしたか……」
「ふふっ、困ってる枕木君が見れて楽しかったよ。ほら、ズボンなんだからもっと見ていいよ」
先輩が、俺をからかってきている。
先輩は、まるで小悪魔だ。
「じゃ、じゃあ俺だってじっくり見てやりますからねっ」
「ふふ、構わないよ」
そして、俺は先輩の短ズボンの部分をじっと見つめた。
……短パンと、黒ニーソの間の太ももが素晴らしい。
先輩の太ももは細いが、それが体が小さめの先輩に合っていて、とてもいい。
見ているだけで、膝枕の時などの感触を思い出させて来て、俺を興奮させてくる。
そんなことを思いながら見つめていると、先輩が急にまくり上げていたスカートを下ろした。
顔を見ると、少し赤くなっている。
「どうしました先輩? 見ていいんじゃないんですか」
「……思ったより恥ずかしかったから、これで終わりね。じゃ、じゃあね枕木君」
そう言って先輩はそそくさと教室へ向かって行った。
……自分でやっておいて恥ずかしがるなんて、先輩はよく分からない。
まあ、可愛いからいいか──。




