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第66話 「特技」

 昼休み、俺はお昼を食べる前にお手洗いに行こうとしたが、

そこが混雑していたせいで、普段より遅れていつもの場所へ行った。

到着すると、竜崎と先輩がなにかについて楽しそうに話しているのが聞こえる。

俺はなにを話しているのか気になり、物陰に隠れて盗み聞きをすると、

どうやら「特技」について話しているらしい。


 ……これはまずい。

きっと、俺が今行ったら「やあ、枕木君。あ、そうだ、君って特技はあるかい?」とか言ってくるだろう。

……俺には、特技と言えるようなものはない。

だが、俺と違って先輩や竜崎は凄い特技があるのだろう。


(よしっ、ここは、俺だけ特技無しで自尊心が傷つかないように話題が変わるまで隠れていよう、そうしよう)


 そう思っていた時だった。

足元にあった小枝を踏んでしまい、音で気づかれてしまった。


「枕木君かな?」

「そ、そうです。は、ははっ、すいません今日遅れちゃって……」

「ふうーん……」


 先輩はそう言いながら俺の顔を見ようとしてくる。

これはまずい。

このままでは盗み聞きや、特技のことまでバレてしまう。

そう思った俺は急いで先輩から顔を背けた。


「そんなに顔を隠さなくてもいいのにね。僕は悲しいよ〜ふえーん」


 先輩がわざとらしい声で泣いたふりをしている。


「だ、だって顔見せたら思考読まれるじゃないですか」

「……そうだね。君が盗み聞きとかしてたのがね」


 その一言に俺は一瞬固まってしまった。

なぜか、盗み聞きしていたことがバレている。

……ここまで読まれているということは、おそらく特技のこともバレているだろう。


「な、なぜそれを……」

「前に言っただろう? 君は分かりやすいから一瞬で分かるってね。さて、そんなことよりお昼を食べようよ」

「ぬぐぐ……」

 

そして、俺は渋々ベンチに座り、一緒にお昼を食べ始めた。

すると、竜崎がこちらを軽蔑が混じったような眼差しで見つめてきている。


「な、なんだよ竜崎」

「盗み聞きとは、感心しませんわね。というよりあなた、前も盗み聞きを行っていましたよね?」


 竜崎が眉を顰めながら俺を見つめてくる。


「そ、そんなこともあったかなあ。ま、まあいいじゃん、昔のことは忘れようぜ」

「ふふ、そうだよりゅりゅ。いいじゃないか少しくらい」

「先輩……」


 先輩が俺をかばってくれたのが嬉しく、つい声が出てしまう。

先輩は優しい。


「それより、特技の話に戻ろうよ」


 先輩はニヤけた表情で、俺を見つめそう言った。

俺の思考を読んだはずなのにわざわざ話を戻すなんて……やっぱり先輩は優しくない。


「りゅりゅは、確か『気配を消す』のが得意なんだったよね」

「はい、そうなんですわ」

(なんだその特技……本当かなあ)


 俺がそう思っていると、先輩が俺の顔を見て、

「おや、枕木君は疑っているようだね。せっかくだし、りゅりゅ見せてあげてよ。枕木君が来る前にやったけど、凄いんだよ」と言い、

竜崎は一旦、見えなくなるほど遠い場所まで歩いていった。


「ふふふ、枕木君、今のうちに周囲を警戒した方がいいよ」

「なんすかそれ……」


 一応、周囲を見回してみたが誰もいないし気配もしない。


「誰もいませんよ先輩。はあ、早く終わら……」


 そう俺が言いかけると、急に背後から肩に手を置かれた。

……い、いやそんなはずはない。

先ほど見回した時にはいなかったはずだ。

だが確かめるために背後を向くと……そこには竜崎がいた。


「ほあああああっっ」

「ふふ、言ったでしょ。りゅりゅの特技は凄いって」

「す、凄いですけど……びっくりしますよ」

「ちなみに、私はあなたが見回してる時にはすでにいましたわ。ベンチの下に隠れていましたの」

「そ、そうか……まあ竜崎の特技が凄いのは分かったよ……」

「ふふ、じゃあ次は僕の特技を話すよ。りゅりゅにはもう言ったのだけれど……」


 その瞬間、午後の授業が始まる五分前を知らせるチャイムが鳴った──。


「おや、もうこんな時間だね。そしたら教室へ行こうか、じゃあね二人ともばいばい」


 先輩は手を振りながら教室へ戻って行く──。

……結局、昼休みは竜崎の特技を見ただけの、意味の分からない時間になってしまった。

そのあと、俺たちも教室へ戻り、授業が始まった。


(はあ、今日の昼休みはご飯食べて驚かされただけかよ……まあいいけど。てか、先輩の特技ってなんだ? 気になってきたぞ……)


 それを考えだしてからというもの、俺は授業に全く集中できなくなり、

気づいた時には……。


(やべ、今日の授業もう終わっちゃった。授業内容なんにも記憶に残ってないぞ)


 そう思いながら帰りの準備をし、少し落ち込みながら帰ろうとすると、

校門に先輩が立っていて、俺に話しかけてきた。


「やあ、どうやら僕の特技が気になりすぎて授業に集中できなかったようだね」

「ぬぐぐ……そこまで見られるの嫌ですね……。まあ、そうなんですけど」

「ふふ、でも集中できなかったのは僕のせいでもあるし、お詫びに僕の家に来てほしいな。僕の特技を実演してあげるよ」

「えっっ、先輩の家に行っていいんですかっ? やったああっ」

「ふふっ、じゃあ行こうか」


 そして俺はウキウキしながら、先輩の家に行き、

先輩の部屋に入った。


「はあ〜、先輩の部屋に入るのは久しぶりですね」

「枕木君、あまり気持ち悪いことはしないでね」

「しませんよっっ」

「ふふっ、さて本題に入ろうか」


 そう言うと先輩は、どこからか縄を取り出した。

その縄は重いものを吊るしても千切れなさそうなくらい、立派なものだった。


「えっと……それは特技にどう関係が……」

「関係大アリさ。さあ、この縄で僕を縛っておくれよ」

「えっっっ」


 特技とはまさか緊縛されることなのだろうか。

いや、それは特技というより趣味のような気がするが、

どちらにせよ先輩にこんな趣味が……。


 戸惑いながら先輩を見つめると、先輩は口を開いた。


「何を勘違いしているのか知らないけど、僕の特技は『縄抜け』だよ」

「あっ……そうでしたか」

「枕木君のスケベ」

「スケベじゃないですうっ」

(ま、まさか先輩の縄抜けが特技だったとは……まあいいや。スケベ扱いしてきた仕返しにキツく縛ってやりますからねえ)


 俺は、縄で先輩の手と体をまとめて、帯のようにぐるぐる巻きにして縛った。


「ふうん、枕木君は僕をこういう風に縛り上げたいんだ」

「違いますっ。そんなことより早く抜けてみてくださいよ。無理だったら早めに言ってくださいね。ハサミで切ってあげますから」

「ふふ、その心配は必要ないさ。いくよ」


 そう言うと、先輩はするりと縄から抜けた。


「なっ」

「ふふ、驚いたかな。まあいろいろとコツがあるのさ。君が知りたかったら教えてあげるよ」

「別にいいですよ……てか、この特技いつ使うんですか」

「ん? ほら、いつか変な人に襲われて縛られるかもしれないだろう? その時に助けになればと思ってね」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は少し不安になった。

確かに、先輩は可愛くて綺麗だから、そんな目に遭わないとは言えない。

けど、そんな状況になってほしくはない。


「……あ、ごめんね枕木君。こんな暗めの話をしてしまって」

「だ、大丈夫ですよ。その……そうならないように、俺が守りますから……」


 少しの間、二人の間に静かな時間が流れたあと、先輩が笑った。


「な、笑わないでくださいよ。お、俺結構本気で言ったんですからね」

「ふふ、知っているさ。君が守ってくれるって聞いて嬉しくなってしまったんだ」

「もお、先輩ったら……」

「ふふっ、そういえば君は特技ないことに悩んでいたけれどあるじゃないか」

「え、なにがですか?」

「僕を喜ばせてくれるって特技さ。ふふ、じゃあこれから守りは頼んだよ、枕木君」

「は、はいっ」


 後日──。


「あっ、先輩待ってくださいっ。ベンチに座る前に俺が確認しますからっ。よしっ、ささくれ等はありません。安心して座ってくださいっ」

「あっ、先輩危ないっ。足元に葉っぱが落ちてますっ。滑ると危ないですよっ」

「あっ、先輩っ。他の生徒にあまり近づきすぎないでくださいっ。他のやつらなんか何を隠し持ってるか分かりませんからねっっ」

「あっ、先ぱ……」

「枕木君」

「どうしました先輩?」

「ちょっと過保護かな……」


 そのあと、俺は守りの任を解任された──。


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