↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/78

第62話 「もう嫌だ」

「先輩、もう学校嫌です〜」


 俺は朝、校門で俺を待ってくれていた先輩に、

学校の愚痴を話していた。

そもそも、少し前まで夏休みで自由だったというのに、

急に自由時間がガクッと減り、その上宿題まで出してくるような、

鬼畜な学校に文句を言わない方が難しい。


「ふうん、そっか。枕木君、君は学校が始まったばかりなのに、こんなに文句ばかり言って、これまでどうやってきたのか僕には不思議でしょうがないよ」

「それは……気合いで……」

「じゃあ、今回も気合いで頑張ってね。応援してるよ枕木君。それじゃあね」


 先輩はそう言って、教室へ向かっていった。

先輩は基本、俺の話を真剣に聞いてくれるが、

愚痴の時だけはテキトーに流してくる。


 確かに、俺の愚痴は暗くて長くて、聞きたくないものだと自分でも分かっているが、

それでも、先輩には聞いてほしい。

でも、先輩が聞きたくないのも……。

そんなことを頭の中でぐちぐち考えながら、

俺は午前の授業を受けた──。


そしてお昼──。


「やあ、枕木君」

「あ、どうも……」


 午前の授業を終え、昼休みになった俺は、

久しぶりに、いつもの場所に三人で集まって、お昼を食べながら話していた。


「枕木君、久しぶりの授業はどうだったかな?」

「どうって……もう嫌ですよ。ああー、夏休みに戻りたい〜っ」

「はあ、あなたの愚痴も久しぶりに聞きましたわ。いつ聞いても情けないですわね」

「なんだと竜崎っ」


 俺と竜崎が言い争っていると、先輩が笑った。


「ふふふ、騒がしくて楽しいね。でも、いつまでも愚痴られたら、ご飯が美味しくなくなってしまうよ……そうだ、せっかくだし楽しくなるようなことを考えようよ」

「楽しくなることってなんですか……?」

「秋の学校行事さ。考えるだけで、きっとワクワクしてくるよ」

「はあ……」


 そのあと、先輩は「枕木君の学校生活を楽しくしてあげようの会」と称して、

秋の学校行事を挙げていった。

……が、俺の心が動くことはなかった。

そもそも、学校が嫌なのに学校行事でテンションが上がるわけがないのだ。


「ふうん、枕木君の『学校楽しくないよ愚痴が止まらないよ病』は一筋縄では解決しないね」

「なんすかそれ……」

「僕が命名したのさ……おっと、そろそろ午後の授業が始まるね。じゃあまたね枕木君」

「そしたら、私も教室へ行きますわ」


 そして、二人は教室へ戻っていった。

……久しぶりにお昼休みに三人で集まったというのに、

俺は愚痴ばかりで、得たものは先輩から宣告された意味の分からない病名だけだ。

なんて、情け無い男なんだろう。


 そのあと、俺も落ち込んで地面の方を向きながら、

教室へ戻り、授業を受けた。

そして──。


(はあ……ようやく授業終わった。さて、校門で待ってるであろう先輩に会いに行くか……)


 だが校門へ行っても、先輩はいなかった。

少し待ってみたが、先輩が来ることはなかった──。


(もしかして、俺にまた愚痴られると思って、帰っちゃったのかな……それも当然か……あんなに愚痴ばっか言ってたら……)


 俺は、自分の行いがいかに愚かで、人を嫌な気持ちにさせるものだったのかということを、

反省しながら、家へ重い足取りで帰った。

そして、家へ着き、ドアの鍵を開けようとすると「あ、来たね」という声がした。


「え、そ、その声は……」

「僕だよ、枕木君。驚かせてごめんね」

「ど、どうしてここに……」

「ふふ、それはね……」


 先輩の話によると「放課後なら、時間があるし、君の愚痴を聞いてあげるよ」とのことらしい。

こんな愚痴ばかりの俺に優しくしてくれるなんて、先輩は……先輩は……。


「感動するのはいいけど、家に入ってからでもいいんじゃないかな」

「あっ、はい」


 俺たちは、家に入り話し始めた。


「それじゃあ、君の愚痴を聞かせてほしいな」

「え、いいんですか……?」

「うん。放課後だから時間はあるし、今は愚痴を覚悟してるから大丈夫さ。ほら、話してみて、僕が聞いてあげるから」


 先輩が胸を軽く叩いている。

「この胸で受け止めてあげる」ということだろうか。

……俺は、先輩の優しさに甘え、愚痴を話した。

休み明けで、単純に学校が面倒くさいことや、

宿題やグループワークが嫌なことなど、全てを話した──。


「そうなんだ。ふふ、君は嫌なことがいっぱいだね」

「もお〜笑わないでくださいよ……」

「でも、話して少しスッキリしただろう?」

「……まあ」

「ふふっ、ならよかったよ。じゃあ最後に『あれ』をしてあげるよ」

「……『あれ』ってなんですか?」

 

 俺が先輩にそう聞くと、

先輩はなにも言わずにこちらに近づいてきて、

そのまま俺を抱きしめてくれた。


「えっ、な、なんですか」

「ん? ご褒美さ。嫌なことがいっぱいあるのに、それでも頑張ってる枕木君は偉いよ」


 そう言いながら、先輩は俺の背中を優しくさすってくれる。

……先輩は、まるで聖母のように優しい。


「先輩……ありがとうございます」

「ふふ、これで君の『学校楽しくないよ愚痴が止まらないよ病』も終わりだね」

「だからなんなんですかその病名……」

「ふふっ」


 なにはともあれ、俺は先輩に愚痴ることで、心の霧が晴れたような気がした。

これで、明日から学校生活を楽しく過ごせるはずだ──。


 次の日の朝──。


「先輩、学校嫌です。でもそれでも頑張ってるから俺、偉いですよね。ぎゅーってしてください」

「……はあ、そう来るとはね。まあ、ぎゅーっとしてあげるから、少し屈んでくれるかな」

「え、なんで屈む必要が……別にいいですけど……」


 指示に従って屈むと、先輩がヘッドロックを極めてきた。


「あだだっ、なにするんですかあっ」

「お望み通り、ぎゅーっとしてあげてるのさ。うりゃうりゃ」

「あだだだだだっ」


 どうやら、いつでも抱きしめてはくれないらしい──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。