第55話 「スイーツ店」
俺が夜寝ようとしていると、先輩から急にメールがやってきた。
【先輩】 「枕木君、急にメールしてごめんね。美味しいスイーツのお店があるから、明日一緒に行かないかい?」
【まくらぎ】 「本当に急ですね、でも気になるし行きますよ」
【先輩】 「それじゃあ、明日楽しみにしているよ。おやすみ枕木君」
そして、俺も先輩に「おやすみなさい」と返信したあと、寝て、
次の日のお昼、俺はウキウキしながら、待ち合わせ場所へ向かった。
しかし……外は暑い。
スイーツ店がどこにあるか知らないが、あまり遠いと干からびてしまいそうな暑さだ。
そんなことを考えながら待ち合わせ場所へ向かうと、
日傘を差し、サングラスをつけアームカバーまでつけている、
日除けグッズの化身かと思うような人が立っていた。
(この人、すごい日差し対策してるな……。まあいいや、それより早く先輩来ないかなあ〜)
なんてことを思いながら先輩を待っていると、
日除けグッズの人がゆっくりとこちらに近づいてきた。
俺が怖くなってその場から離れようとすると、その人に声をかけられた。
「待ってよ、枕木君」
「ひいっ、なんで俺の名前を……ん? この声は」
最初は少し怖かったが、落ち着いて聞いてみると、なにやら聞き覚えのある声だ。
「も、もしかして先輩ですか?」
「そうだよ」
どうやら、先輩だったらしい。
……最初からよく見ていれば、身長で先輩だと気づけたかもしれない。
そのあと先輩から話を聞くと、今から行くスイーツ店は人気で、
いつも行列ができていて、長時間外で待つことになるから日除け対策を徹底した結果、
こんな怪しい格好になったらしい。
「ごめんね、驚かせてしまって」
「本当に驚きましたよ……日傘を差すのはよく見ますけど、サングラスとか普段つけないじゃないですか」
「ふふ、それだけ外で並ぶということさ。さあ、行こうか」
先輩はそう言うと、俺の隣に来て、
俺も日傘に入れてくれた。
「あ、あの、俺は日傘大丈夫ですよ」
「今の夏は日傘が大事なんだよ枕木君」
「はあ……まあ、そういうことなら」
相合傘の状態で、俺たちはスイーツ店へ向かった。
正直、日傘があまり大きくないので日除けになっているか微妙だが、
少しは日除けになっているだろうし、なにより先輩と相合傘なのは嬉しい。
そして10分ほど歩くと、
目的地が見えてきた──。
「先輩……あれが……」
「そう、あのお店が僕たちの今日の目的地さ」
そのお店の見た目は、和風な感じで、
暖簾が風で揺れていて、古めかしい見た目だが、
内装は新そうに見え、古さと新しさが融合した、
とてもいい外見だ。
……だが、それより目に入ってくるのは、
お店に入る頃には日が沈んでいるのではないかと思うほどの、
長蛇の列だ。
「あの、先輩。これ並ぶんですか……? 違うお店と間違えてたりは……」
「ここだよ」
「あ、そうすか……」
俺はこの後どれほど待つかを想像し、
少しうなだれたあと、先輩と列の最後尾に並んだ。
「これ、どれくらい待つんですかね、せんぱ……えっ」
俺が先輩の方を向くと、いつのまにか先輩は日傘を閉じ、
つばの広い帽子をかぶっていた。
「いつのまに帽子にしてたんですか」
「列に並ぶ時さ、だって日傘を差していたら邪魔だろう?」
「まあ、確かに」
「ふふ、さて、君にこれをあげるよ」
そう言うと、先輩が今つけているものと同じ帽子を、
俺に渡してくれた。
「えっと……これは……」
「帽子だよ、日傘がない今、君が日光に直接晒されてしまうからね。サイズ調整できるから、君もかぶれると思うよ」
「ど、どうも……」
俺は先輩から帽子を受け取り、
頭にかぶった。
「ふふ、お揃いだね」
「……それはいいんですけど、帽子があるなら日傘の時から……」
すると、先輩は流し目でこちらを見ながら、
声色を変えて話しかけてきた。
「君と、相合傘がしたくてね」
「……まあ、そういうことなら。そもそも俺は日焼け対策してなかったせいですしね」
「ふふっ」
そのあと、俺たちは水分補給などをしながら、
三十分ほど待った。
……が、まだ入れない。
「あの、まだ入れないんですか」
「あと一時間くらいじゃないかな」
「えっ、まだそんなに……」
俺は思わず、頭を下げ、
また、うなだれてしまった。
すると、先輩が俺の腕に、腕を絡めてきた。
「えっ、あっ」
突然の先輩の行動に戸惑っていると、
先輩は笑いながらこう言った。
「あと一時間、ずっと君の隣にいられるね」
「先輩……お、俺っ」
「ふふっ」
「あ、暑いです」
「……」
俺が正直に暑いと言うと、先輩は腕を絡めるのをやめた。
……だが、正直に言ったせいで俺は少し気まずい。
そのあと、あまり会話が弾まないまま一時間ほど経ち、
俺たちはお店の中に入り、席に座ることができた。
だが、気まずい。
「あ、あの……なに頼みましょう」
「ここは、ぜんざいと抹茶のセットがおススメだよ」
「じゃ、じゃあそれで……」
そして、俺たちは「ぜんざいと抹茶のセット」を店員さんに注文し、
また、気まずい時間に戻ってきた。
このままでは、一時間半も待ったスイーツが不味くなってしまう……。
そこで、俺はある案を思いついた。
「あの、先輩」
「……ん?」
「手、テーブルの上に出してください」
先輩が手を出した。
俺は、その手を両手で優しく握った。
「そ、その、前のお詫びっていうか……お店の中は涼しいですし……」
俺がしどろもどろになりながら話すと、
先輩は何も言わず、もう一つの手も出して、
俺の手に乗せた。
顔を見ると、なんだか嬉しそうだ。
そのまま、ずっとそうして手を合わせていると、
ぜんざいセットが来たので、俺たちは手を離し、
ぜんざいをいただきはじめた。
……とても美味しい。
そして、あまりのおいしさに、俺たちは言葉を発する暇もなく、
いつのまにか食べ終わってしまった。
「おいしかったね、枕木君」
「……ですね。一時間半待った甲斐がありましたよ」
「ふふ、ならよかった。そしたら、今日は僕が奢るよ」
「え、いや申し訳ないから俺も払いますよ」
「じゃあ、割り勘ね」
俺が「なんだかんだ言って先輩が払ってくれる流れじゃなかったのか……」と思っていると、
先輩に顔を見られ「ふふ、枕木君は正直だね」と言われてしまった。
「そ、その今のは……」
「ふふっ、いいよ。ちょっとした冗談さ。くっついたお詫びも含めて僕が奢ってあげるよ」
「あ、ありがとうございます」
そのあと、支払いを終え、
俺たちは店を出た。
「ふふ、今日は楽しかったね枕木君」
「お……俺も楽しかったです」
「なら、よかったよ。そしたら帰ろうか……そうだ」
先輩が、俺に腕を絡めて、
くっついてきた。
「君を家まで送ってあげるよ」
「そ、それは嬉しいんですけど……あ、暑いです」
「ふうん、そっか」
その後も、先輩に何度か暑いと言ったが、
離してくれることはなかった。
まあ、先輩とくっつけるし、これでいいのかもしれない──。




