第54話 「クイズ」
それは突然だった──。
「枕木君、クイズでもしようか」
先輩の家で遊んでいると、
急に先輩がクイズがどうのと言い出したのだ。
「クイズって……なんのクイズですか」
「それはお互いについてのクイズさ。簡潔にルールを説明するよ」
先輩の説明によると、
出題者側と回答者側に分かれ、
出題者は自分に関係する……例えば「好きな食べ物はなに?」などの問題を出し、
回答者はそれに答えるというものらしい。
「これでお互いのことを、どれだけ知っているかが分かるよ。楽しそうだろう? 枕木君」
「はあ……」
まあ確かに、お互いをどこまで理解しているかが分かるというのは、
少し面白そうだ。
俺は先輩の誘いに乗って、クイズをすることにした。
「ふふ、じゃあ枕木君が先に出題者になっていいよ」
「えー……まあいいですよ。なんの問題にするかなあ……」
俺がどんな問題を出そうか悩んでいると、
先輩がこちらを見つめてくる。
……よく考えたら、先輩に見られていては、
問題も答えもバレバレだ。
「先輩、こっち見ないでくださいよ」
「おっと、そうだったね。じゃあ僕は目を瞑ることにするよ」
そう言うと、先輩は目を瞑った。
……本当に目を瞑っているのだろうか?
実は薄目で俺の表情を見ているのではないだろうか?
正直、俺は先輩を信用できない。
どうすればいいか少し考えたあと、俺は妙案を思いついた。
「先輩、俺の手で覆っていいですか?」
「……ふふ、どうやら僕は信用されていないようだね。いいよ、枕木君」
俺は先輩の目の辺りを手で覆い、
先輩の視界を封じながら問題を考えた。
(なにがいいかな……そうだ、あれにしよう)
俺は先輩の視界を封じながら、問題を出した。
「先輩、俺の好きな料理はなんでしょう?」
(確か先輩に俺が好きな料理を言ったことはないはずだし、これはいけるはず……)
だが先輩は、俺の問いに対して、
一瞬で答えてきた。
「僕が作った料理じゃないかな」
「な、なんですか、その答え。こういうのって普通はハンバーグとかお寿司とかって答えるもんじゃ……」
「でも好きでしょ?」
「まあ……はい」
「ふふ、じゃあ正解だね」
先輩にゴリ押されてしまった。
あまり納得していないが、俺はこれ以上そこに触れるより、
新しい問題を出した方がいいと思い、もう触れないことにした。
「じゃ、じゃあ先輩。俺が一番嫌いな授業ってなんだと……」
俺が問題を言い切ろうとすると、
先輩は途中で答えてきた。
「確か美術だったよね」
「……正解です」
「ふふ、やったね。当たったよ」
どうやら、俺のことは先輩に知り尽くされているらしい。
それ以降も、問題をいろいろ出してみたが、
全て速攻で答えられてしまった。
「ふふ、全問正解ということだね」
「うぐぐ……ほ、本当に目を瞑ってるんですか? 本当はズルして俺の表情で当ててるんじゃないんですかっ」
俺は全問正解された悔しさで、
思わず負け惜しみしてしまった。
「君が僕の視界を手で隠しているというのに、どうやって見るのかな?」
「うぐ……」
「それに、僕は正解されるのは悔しいことではないと思うよ」
「……どういう意味ですか」
「だってこれは君に関するクイズだろう? それに僕が答えられたということは、僕が君をそれだけ理解しているということさ」
先輩の言葉を聞いて、俺はハッとなった。
確かにそうだ。
これは悔しがるようなクイズではない。
むしろ正解された方が嬉しいもののはずだ。
俺はすっかり、それを忘れてしまっていた。
「まあ、君が負けず嫌いなのは知っているけどね」
「う、うるさいですっ」
「ふふ、それじゃあ次は僕が出題するよ。あっ、このまま手で覆ってていいよ。そっちの方が君も変に疑わなくてすむだろう?」
「わ、分かりました」
そして先輩は、問題を考えているせいか少し黙ったあと、
俺に問題を出してきた。
「問題、僕の苦手なものはなにかな?」
「えっと……確か『苦いもの』ですよね」
先輩が少し黙ったあと、口を開いた。
「正解だよ、枕木君」
「よかったあ……間を置くのやめてくださいよ、不正解かと思ったじゃないですか」
「ふふっ、緊張感が生まれていいじゃないか。それじゃあ、次の問題へ行くよ──」
そのあとも、先輩にいろいろ問題を出されたが、
「僕の年齢はいくつでしょう?」や「僕の身長は?」など、
全て速攻で答えられるような簡単なものばかりだった。
「ふふ、枕木君、今のところ全問正解だね。僕のことをよく分かってくれていて嬉しいよ」
「問題が簡単だからですよ」
「ふーん、それじゃあ最後は難しめの問題にしようかな」
「ふふん、望むところです」
「じゃあいくよ、問題。僕は枕木君のどこが好きでしょう?」
「……えっ?」
俺は驚いてしまった。
これは、遠回しに俺のことが好きだと言っているのだろうか?
……前も好きだと言われたことはあるが、やはり何度言われてもドキドキしてしまう。
だが、それはそれとして「君のどこが好きだと思う?」と言われても、
俺には分からない。
なんて答えればいいのだろうか。
「ほら、答えないと。制限時間がなくなってしまうよ」
「ま、前まで制限時間なんてなかったのに急につけないでくださいっ」
ふと、先輩の顔を見ると口角が上がっていた。
目は手で覆っているから分からないが、
俺をからかうような目なのは、なんとなく分かる。
「ほらほら、早く答えてみて」
「そう言われても……」
どうしても、なにを言えばいいか分からない。
それに、答えた時に違っていたら恥ずかしい。
……俺には、この問題は答えられない。
俺は、先輩の顔を覆っていた手をどけ、
降参した。
「す、すいません。わかんないです」
「ふうん、それは残念だね」
「その、負けたけど答えを教えてくださいよ」
俺がそう言うと、
先輩は口に手を当てながらこう言った。
「それは……秘密だよ」
「な、なんですかそれ。教えてくださいよお〜」
「秘密は秘密さ」
そのあとも何回も聞いたが、
結局教えてもらえなかった。
先輩は、俺のどこが好きだったのだろうか──。




