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第47話 「お風呂」

 俺は、今日の夜、

先輩と一緒にお風呂に入ることになってしまった。


 お風呂の先輩の姿を想像するだけで、胸の鼓動が速くなり、

体温が上がってくる。

……これ以上、先輩のことを考えるのはやめよう。

このままだと、興奮しておかしくなってしまいそうだ。


 そして、先輩のことを考えるのをやめた瞬間、

突然、部屋のドアがノックされた。


「ひいっ」


 俺は思わず声が出てしまった。

もしかして先輩だろうか。 

だとしたら、俺はお風呂の先輩を想像してしまい、

理性を失ってしまうだろう。


 だが、入ってきたのはリオさんだった。

俺は、先輩じゃないことに少し、ホッとした。


「ああ、先輩じゃなくてリオさんか」


 俺は安心感で、思わず口を滑らせてしまった。


「むう、私よりマオがいいの?」


 リオさんは、ほっぺを膨らませてこちらを見てきている。

やってしまった。


「ご、ごめんなさい。さっきのは、そういう意味ではなくて……」


 俺が必死に言い訳をすると、

リオさんは何も言わずに、こちらへダッシュし、

そのまま、みぞおちのあたりに飛び込んできた。


「うごぇっ」


 俺はリオさんの飛び込みのダメージに思わず変な声が出た。

だが、リオさんは何事もなかったかのように、

「遊星君あそぼ〜」と言ってきた。


 それを聞いた俺は、絶え絶えの声で誘いに乗り、

リオさんと一緒に部屋を出て、リビングへ向かった。 


 ダメージは痛いが、先輩のことを一旦忘れられるし、

ちょうどいいかもしれない。

そのあと、俺とリオさんは、

テーブルゲームなどをして遊んだ。


 そして、しばらく遊んでいると、

玄関の方から音がし、

そこから、先輩とお母さんが来た。


 二人の手には買い物袋があり、

どうやら、買い物に行っていたらしい。


「先輩、お母さん、お、おかえりなさい。買い物行ってたんですね」

「おかえり〜マオ」

「ただいま。枕木君、お姉ちゃん。今日のご飯の食材を買いに行っていたのさ」


 そんな感じで、俺は先輩とリオさんと三人で少し話していたが、

その間、お母さんはなにかを待っている表情だった。

……もしかして、早く話を終えてほしいのだろうか。


「あ、あの、すいません。長く話しちゃって」


 俺がそう言うと、

お母さんは目を瞑って、首を横に振った。


「あっ、遊星君じゃないわよ〜」

「えっ」

「リオが私にただいまって言ってくれなかったから、ずっと待ってたの〜」


 確かに、思い返せば、

リオさんは先輩にしか「おかえり」と言っていなかったが、

そんなに待つほどのものなのだろうか。


「リオ〜、お母さんにおかえりは?」

「しーらないっ」


 そう言うと、リオさんはダッシュで自分の部屋に戻っていった。

リオさんもリオさんで、言ってあげればいいのに……。

先輩の家族は、先輩を含めて、よく分からない。


 そのあと、お母さんは持っていた買い物袋を床に置いて、

リオさんの部屋へ行ってしまった。


「いつものことだから、あまり気にしないでね」

「あっ、はい」

「……そうだ、食材を冷蔵庫に入れるのを手伝ってくれるかな?」

「も、もちろんです」


 そのあと、俺は先輩と一緒に冷蔵庫に食材を入れはじめた。

……食材を入れる時に気づいたが、食材はどれも高そうだ。

俺がいつも買っている物の、

ワンランク……いや、ツーランクくらいは上のものだ。


「先輩の家って凄いですね……いつもこんなに買ってるんですか?」

「いや、普段はこんな高いのは買わないよ。ただ、お母さんが君が来たからって、張り切ってるだけさ」

「そんな……俺のためにすいません」


 すると、先輩が少し笑った。


「ふふ、君ってすぐ謝るよね。そんなに謝らなくてもいいよ」

「い、いやそんなこ……んぐ、もごご」


 俺が喋りかけると、先輩は俺を抱きしめ、

そのまま俺の口を塞いだ。

先輩の感触と良い匂いがしてきて、

考えないようにしていた、お風呂のことを考えてしまいそうだ。


そして、少し経って先輩は俺を離してくれた。


「な、なにするんですか」

「君が謝らないように口を塞いだだけさ。ほら、残りも冷蔵庫に入れるよ」


 そのあと、俺は先輩と共に、

冷蔵庫へ買ってきた食材を入れた。


「ふー、これで終わりだね。助かったよ枕木君」

「これくらいなんてことないです。そういえば、お母さん戻ってきませんね」

「ん〜、じゃれあってるんじゃないかな。ふふ、お姉ちゃんってね、お母さんのこと怖がってるのに、普段はあんな態度なんだよ」

「そうなんですか……」


 前は、あんなに怖がって俺の家に避難するくらいだったのに、

普段はあんな態度だったなんて。


「まあ、仲が悪いわけじゃないから、あまり気にしないでね」

「はあ……」

「それより枕木君……」


 先輩が、俺に近づいてきて、囁いた。


「お風呂、楽しみだね」


 その時の先輩の顔は、

目を少し細めていて、とても妖艶だった。


 ……そうだ、俺は先輩とお風呂に入るんだ。

この、白くて美しい、妖精のような人と。


「ふふ、じゃあ僕は部屋へ戻るよ。また、夜ご飯の時にね」


 そう言うと、先輩は部屋へ戻っていった。

その間、俺は先輩のことばかりを考えて、

動くことができなかった。


 そのあと、俺も自分の部屋へ戻り、

先輩のことを考えていると、

いつのまにか夜ご飯の時間になってしまった。


 ……先輩のことを考えているだけで、

こんな時間が過ぎてしまうなんて。

俺は五億年ボタンを押しても、

先輩のことを考えていたら、あっという間に五億年経ってしまいそうだ。


 そんな冗談を思いながら、俺はダイニングへ向かった。

テーブルを見ると、すでに美味しそうな料理が、たくさん置いてある。

キッチンの方を見ると、先輩とお母さんが一緒に料理をしていた。

リオさんは食器を並べている。


 すると、お母さんが俺に気づいたのか、話しかけてきた。


「あら、ちょうどできたところなのよ〜遊星君。ほらほら、座って」


 そう言われ、俺は言われるがままに椅子へ座った。

そして、座って待っていると、先輩が料理を持ってテーブルへ来た。


「じゃーん、これが今日のメインさ」


 先輩の持っている料理は、パエリアだった。

ムール貝が乗っていて、とても美味しそうだ。

そして、先輩は料理をテーブルへ置いたあと、

俺の隣に座った。


「ふふ、お隣はもらったよ」

「あっ、ずるいぞマオ。私だって遊星君の隣に座ろうとしてたのに〜」

「早い者勝ちということさ。さて、じゃあいただこうか」


 そのあと、俺たちは四人揃っていただきますをし、

食べはじめた。

頑張って作ってくれたからか、とても美味しい。

みんなで会話しながら楽しく食事をしていると、

あっという間に料理がなくなってしまった。


「ふえ〜、美味しかったよ。さすがマオだね」

「お母さんも作ったのよ。リオ〜」

「ふーん」

「なによそれ〜、お母さん涙が出ちゃうわ〜」


 またお母さんとリオさんが、少し言い争っている。

だが……二人とも楽しそうだ。


「さて、じゃあお風呂の順番を決めようか」


 それを聞いた瞬間、俺は思い出した。

俺は先輩とお風呂に入るのだと。


「枕木君、最初に入るよね?」

「えっ」


 先輩が「最初に入ると言ってほしいな」と言わんばかりに、こちらを見てくる。


「じゃ、じゃあ俺最初でもいいですか」

「いいよね。お母さん、お姉ちゃん」


 先輩がそう二人に聞くと、

二人とも了承してくれた。

それを聞いた先輩は、ニヤッとしたあと、

俺に「じゃあ、後で行くね」と囁き、お湯を張りに行った。


 ……俺はどうなってしまうのだろう。

そう考えながら、貯まるのを待っていると、

お風呂が沸いたという、アナウンスが流れた。


 そして、俺はお風呂へ向かい、

先輩が入ってこれるように、脱衣所の鍵を閉めず、

お湯へ浸かった。


 ……しかし、先輩はいつ来るのだろう。

まさか、一緒に入るというのは嘘で、

先輩を待っているこの時間は、無駄なのだろうか。

そう考えていると、浴室のドアがノックされた。


 ドアの向こうには、先輩らしき人影が見える。

だが、すりガラスと湯気のせいで、

人がいること以外は、あまり分からない。


「先輩……ですか?」


 俺がドアの向こうの人影に尋ねると、

声が聞こえてきた。


「うん……」

「……入っても大丈夫ですよ」

「でも、その前にこれ巻いてほしいなと思って……」


 そう言うと、ドアが少しだけ開き、

ドアの向こうから先輩の腕が伸びてきた。

その腕の先にはタオルが握られていた。


「流石に……ね」

「わ、分かりました」


 俺は先輩からタオルを受け取り、

腰にタオルを巻いた。


「つけましたよ」

「……じゃあ、僕も入るね」


 ついに、先輩とお風呂に入ってしまう。

未来を考えると、興奮で鼻血が出てしまいそうだ。

そして、浴室のドアがゆっくりと開いていき、

それと同時に、俺の心臓の鼓動が高まっていく。


 ああ、ついに、ついに、

先輩とお風呂に──。


「じゃーん」

「はえ?」


 ……先輩は、学校のジェンダーレス水着を着ていた。

鼓動が、だんだんと落ち着いていくのを感じる。


「先輩、それ……水着ですよね……?」

「うん」

「お、俺を騙したんですか!?」

「僕は、裸で入るとは言っていないよ」


 ……確かに、思い返せば先輩はそんなことを言っていない。

俺が勝手に、裸だと勘違いしていただけだ。

だが、俺はガッカリしてしまった。


「ど、どうじて水着着てるんですかああ……」


 そう俺が言うと、

先輩は少し顔を赤らめた。


「最初は僕もタオルだけで入ろうと思ったんだけれどね……」

「なんですかあ……」

「その……恥ずかしいから、水着を着たんだ」


 先輩は、頬がとても赤くなっている。

こんな先輩を見るのは初めてだ。

……とても可愛らしい。


 俺の心の中から、騙されたガッカリ感が吹き飛んでいく。

これが見れたなら、それはそれでいいのかもしれない。


 そのあと、俺たちは一緒に湯船に浸かり、

少し話して、すぐにお風呂から上がった。


「……ごめんね。枕木君」

「え? なにがですか?」

「水着を着てしまったからね」

「……先輩」


 俺は、先輩を優しく抱きしめた。


「そんな謝らなくていいですよ。俺は……恥ずかしがっている先輩が見れたから満足です」

「……ふふ、枕木君って優しいね」


 その先輩の顔は、とても嬉しそうだった。


 そのあと、先輩に先に着替えてもらい、

そのあと、俺も浴室から出て着替えた。


 ……水着を着てはいたけれど、むしろそっちの方が、

俺が興奮しすぎて気絶しないから、これで良かったのかもしれない──。


その日の夜──。


 俺が布団に入って寝ようとしていると、

先輩が俺の部屋へやってきた。

お風呂で忘れていたが、

先輩は俺と一緒に寝るんだった。


「やあ、枕木君。布団、入っていいかな?」

「あっ、はい」


 ──先輩が俺の布団に入ってくる。


「お風呂どうだったかな?」

「それはまあ……楽しかっ……」


 その瞬間、俺はあることを思い出した。

先輩が男かどうかの疑問が解消されていないっ。


「先輩、俺の疑問が解消されてませんっ」

「……そういえば、そうだったね。じゃあ、えいっ」


 そう言うと、先輩は俺の腕を掴んで、

自分の下半身に当てた。

……確かに、男だと感じさせるモノがあった。


「これでいいかな、枕木君?」


 先輩が何かを言っているが、よく分からない。

俺の脳はもう今のことでいっぱいだ。

先輩はこんなに綺麗で可愛いのに、ちゃんと男の子で──。


「枕木君? あっ……」


 俺は、気絶した。


「……ちょっと刺激が強すぎてしまったね──」

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