第46話 「先輩の家」
真夏に家のクーラーが、
全て壊れるという災難に襲われてしまった俺は、
先輩にそのことを話し、そのあとなんやかんやあり、
俺はクーラーが直るまで、
先輩の家に泊まることになってしまった。
そして今、俺は先輩のお母さんの車に乗って、
先輩の家へ向かっている。
……俺は、先輩の家で平気でいられるだろうか。
そんなことを思っていると、車が止まった。
どうやら家に着いたようだ──。
「ついたよ〜」
「おや、ついたようだね。じゃあ荷物を下ろして行こうか」
「あっ、はい……」
俺は、まだ少し泊まることに緊張を感じながら、
車から降り、トランクから荷物を出した。
途中、先輩のお母さんに「荷物持とうか?」と言われたが、
そこまでしてもらうのは申し訳ないので、断った。
そして、荷物を持って家へ行こうとすると、
先輩がこちらの顔を見てきた。
「まだ緊張するかな?」
「そ、そりゃしますよ……先輩の家だし」
「ふふ、そっか。まあ、きっとすぐ慣れるさ」
そう言うと、先輩は俺の荷物を持った。
「ちょ、俺が持ちますから、先輩は大丈夫ですよ」
「誘ったのは僕なんだから、これくらいしないとね」
「いやでも……」
俺がそう言うと、先輩は急にじゃんけんを仕掛けてきた。
あまりに急だったので、俺はパーとも、チョキとも言えないような、
微妙に開いた手を出してしまった。
先輩を見ると、グーを出している。
「きゅ、急にじゃんけんとかビックリしましたよ」
「ふふ、ごめんね。それで、君の手はなにかな?」
「え、だって急にじゃんけんって言われたから……だから、パーでもチョキでもないっていうか……」
「ふーん、じゃあチョキってことにして、枕木君の負けでいいかな」
俺はあまり納得はできなかったが、
じゃんけんくらい別にいいかと思い、
俺の負けでいいと言った。
「じゃあ、敗者には罰ゲームだね」
「えっ、なんすかそれ聞いてないですよ」
「言ってないからね」
嵌められた。
先輩の言うことを、安易に受け入れるべきではなかった。
「じゃあ、枕木君に与える罰ゲームは、他の人に荷物を持ってもらうことだよ」
「はい?」
俺は驚いてしまった。
わざわざ、俺の荷物を持つためだけに、
こんな回りくどいことをしてくるなんて。
「……おや、枕木君の近くにいる他の人は僕しかいないね」
それに対して俺は「先輩のお母さんがいますよね?」と言ったが、
「はー、こうなったら仕方ないさ、僕が荷物を持つよ」と、
無視されてしまった。
……これ以上、荷物を持たないでと言っても、
先輩がまた回りくどいことをしてきそうなので、
俺は抵抗を諦めて、荷物を先輩に持ってもらった。
先輩の顔を見ると、
嬉しそうな表情になっていた。
「そんなに俺の荷物持ちたかったんですか」
「うん。でも、君はなかなか持たせてくれないから、こうしたんだよ」
先輩がなんで持ちたかったのかはよく分からないが、
まあ、俺の荷物を持てて嬉しいのならそれでいいのかもしれない──。
そのあと、俺たちはエレベーターに乗って、
家に向かった。
そして家に着き、ドアを開けると、
リオさんが立っていた。
「わ〜、本当に遊星君がいる」
リオさんを見ると、目を輝かせていて、
なんだか嬉しそうだ。
「本当に泊まるの遊星君っ」
「え、まあはい」
それを聞いたリオさんは、
一瞬フリーズしてから、飛び跳ねた。
「やったあ〜。私うれしいよ、さあ、早く入って入って」
「お姉ちゃんがいるから入れなかっただけだよ」
「もーっ、マオは水を差すようなこと言わないでよ〜っ」
そのあと、リオさんと先輩が、
少しだけ言い争っていたが、
先輩がリオさんを抱っこして、言い争いは落ち着いた。
そして、俺は家へ入り、
手を洗ったあと、
先輩のお母さんに俺が寝る部屋を案内された。
「遊星君はここを使ってね」
「あ、ありがとうございます」
「ふふふ、いいのよ〜」
お母さんと少し話したあと、俺は部屋へ入った。
ここは、お泊まり会の時に俺が寝た部屋だ。
……あの時、ここで先輩と一緒に寝たことを思い出すだけで、
心臓の鼓動が速くなって、破裂してしまいそうだ。
そんなことを思い出しつつ、
俺は部屋に荷物を置いて、ベッドに転がった。
(……はあ、クーラーが壊れた時はどうしようかと思ったけど、先輩が泊めてくれてよかったな)
そんなことを考えながらくつろいでいると、
先輩が部屋に入ってきた。
俺は急いでベッドから起き上がり、
そのままベッドに座った。
「やあ、枕木君」
「な、なんですか急に」
俺がそう言うと、先輩は俺の顔を見てきた。
「ふふ、落ち着いてきたみたいだね」
「あんまり顔を見ないでくださいよ……っていうか、なにしにきたんですか」
「ん〜、二人きりで話したいと思ってね」
すると、先輩がベッドに座ってきた。
距離が近い。
「な、なんですか話って」
「お風呂とか寝る時のことだよ」
「いや、お風呂はともかく寝るのはここじゃないんですか……?」
「ふーん、じゃあ僕もここで寝ようかな」
俺はその言葉を聞いて驚きそうになったが、
なんとか声を出さずに表情に出すだけで耐えることができた。
……しかし、先輩はナチュラルに俺と一緒に寝るつもりなのだろうか?
「嫌かな?」
「嫌ではないですけど……」
「じゃあ決まりだね」
俺は先輩に流されてしまった。
まあ、先輩と一緒に寝られるのは俺も嫌ではない。
というか、寝てほしい。
「それで、お風呂はどうしようね」
そういえば、お風呂のことを忘れていた。
……まさか「一緒に入ろうか?」と言うつもりなのだろうか。
「お、お風呂は一人で入りますから」
「ふふっ、僕はお風呂に入る順番を聞こうとしただけだよ」
嵌められた。
まさか、俺が勘違いすることを分かっていて、
お風呂の話題を出したのだろうか。
だとしたら、なんていやらしいんだ。
「せ、先輩が勘違いするようなことするからですよ」
「ふふ、ごめんね」
「もう……」
そう言って、俺がため息をつくと、
先輩が体を俺の方に近づけてきた。
「ねえ、枕木君」
「な……なんですか」
「お風呂、一緒に入ってほしい?」
来た。
先輩お得意の、俺をからかう時間だ。
はいと答えれば『ふふ、冗談だよ』と言い、
いいえと答えれば『君が「はい」って答えたら、一緒に入るつもりだったよ』と言ってくるのだろう。
先輩は、少し目を細めていて、
流し目でこちらを見てきている。
これは俺をからかっているに違いない。
俺はもう惑わされない。
「お、俺は一人で入るので結構ですっ」
これでどうだ。
「ふうん……僕は一緒に入るつもりだったけれどね」
やはり俺の予想通りだ。
……ここまではそう思っていた。
先輩は、俺の腕に自分の腕を絡ませてきた。
「僕は、一緒に入りたいよ」
「ど、どうせ冗談なんでしょう?」
「……違うよ」
先輩はそう言うと、絡ませていた腕を使って、
俺の腕を自分の胸に当てさせた。
先輩の胸からは、服の上からでも分かるほど、心臓の鼓動が伝わってきた。
「これで、信じてもらえたかな……?」
「……信じますけど、それはそれとして、は、入りませんってば」
「……そういえば、君は前、僕が男かどうか気にしていたよね」
「そ、そんなこともありましたけど、身分証送ってくれたじゃないですか」
俺がそう言うと、先輩はぴたりと俺にくっついてきた。
距離が近くて、先輩のいい匂いがしてくる。
「でも……まだ少し疑っているんじゃないのかな? 一緒に入ったら、その疑問も解消されるかもしれないよ」
……確かに、疑っていないわけではないが、
だからといってお風呂に一緒に入ることは……。
だが、先輩のものは少し見てみたいような、
小さいのだろうか、それとも大きいのだろうか……?
それを考え始めた瞬間、
俺の頭の中では、先輩とお風呂に入った時のイメージ映像が流れていた。
先輩の体は、白くて綺麗で……。
こ、これはまずい。
俺は先輩にペースを握られてしまっている。
このあたりで、しっかり言い返さなければ。
だが、俺がそう思った瞬間、
先輩は少し顔を赤らめて「僕は、一緒に入りたいよ」と言ってきた。
なんてずるいんだ。
先輩にそんなことを言われたら、俺にはもう「はい」と答える以外の選択肢はない。
……それに、これは先輩が押してきたのだから、
なにかあっても俺のせいではなく先輩のせいだ。
うん、そうだ。
俺は悪くない。
俺はそう、自分に言い聞かせながら、
先輩の誘いを受け入れた。
すると先輩は、嬉しそうな顔をしたあと、
「じゃあ、夜楽しみにしているよ」と言い、部屋から出ていった。
……勢いで受け入れてしまったが、
俺は今日の夜、どうなってしまうのだろうか──。




