第45話 「クーラー」
ある日の朝、俺は急に目が覚めてしまった。
そして、少し経ったあと、俺はなぜ目が覚めてしまったのかが分かった。
部屋が暑いのだ。
そのせいか、パジャマも汗で濡れてしまっている。
……だが、これはおかしい。
俺は昨日、クーラーをつけて寝たはずだ。
なのに、目が覚めてしまうほど暑くなることがあるだろうか?
そう思い、クーラーを見ると、
なんとクーラーが作動していなかったのだ。
(あれ、昨日クーラーつけ忘れてたのか……? いや、昨日の夜も暑いからつけた気がするんだけどな……)
そう思いながら、
俺は部屋を冷やそうと、クーラーの電源をつけた。
だが、まったく動かない。
……嫌な予感がしてくる。
その後も、俺はクーラーの状態を薄々察しつつ、
それでも、それが嘘であってくれと祈りながら、
電源ボタンを押したり、いろいろ試してみたが、
クーラーが動くことはなかった。
そこで俺はようやく現実を受け入れた。
このクーラーは壊れている──と。
(ま、まあ最悪、直るまで別の部屋で寝ればいいしな……。てか、業者さん今から頼んだらいつ来るかな……)
そんなことを考えつつ、俺は自分の部屋を出て、
リビングのクーラーをつけようとした。
……動かない。
何度押しても、返ってくるのはリモコンの「ぴっ」という音だけだ。
これはまずい。
俺は自分の部屋のクーラーが直るまで、
リビングで寝ようと思っていたが、これでは無理だ。
真夏にクーラーなしでは、
俺は死んでしまう。
(こうなったら、あそこへ行くか)
そう思い、俺は親の部屋へ向かった。
あまり入りたくはないが、背に腹は代えられない。
エアコンが直るまでここで過ごすしかない。
だが、ここでも悲劇的なことが起きた。
この部屋のクーラーも壊れている──。
真夏に家のクーラー全てが壊れるなんて、こんなことがあるだろうか?
そのあと、俺はショックで倒れそうになったが、
なんとか耐え、水分補給しながらどうすればいいかを考えた。
(業者さんに連絡するか。ああ、なんかの奇跡で今連絡すれば、業者さんが明日くらいに来てくれないかな……)
そして、俺は祈りながらエアコン業者さんに連絡した。
「お世話になります。クーラーの修理をお願いしたいのですが……」
「お電話ありがとうございます。クーラーの修理でございますね」
「はい。それと、あの、今から最短の日程となるといつ頃になりますかね……」
「そうですね……。今からですと、大体、二週間後になります。」
終わった。
普通に考えて、真夏に二週間もクーラーなしで過ごせるわけがない。
一応、他の業者さんにも電話してみたが、どれも同じくらいの時間がかかるそうだ。
(もうダメだ……。俺はもうこの家で干からびるしか道はないのか……)
そんなことを思っていると、
突然、先輩から電話がかかってきた。
「やあ、枕木君。今度、どこかへ遊びに……」
「先輩っ、助けてください〜っ」
俺は先輩の話を遮って、助けを求めた。
「……どうやら困っているようだね。話してごらん」
俺は話を遮ったというのに、先輩は優しい。
そして俺は、今の現状を伝えた。
「……それは大変だね。クーラーなしでは、熱中症になってしまうよ」
「そうなんですよお……でも修理も全然来なくて、俺もうどうしたら……」
すると、先輩は少し間を置いてからこう言った。
「そしたら、僕の家に来るかい?」
「えっ」
その提案に、俺は思わず声が出てしまった。
「君がそんな状況では放っておけないよ。修理が来るまで僕の家で泊まっていいよ」
「い、いや、気持ちはありがたいですけど、そっちは大丈夫なんですか……?」
「……そしたら、ちょっと待っててね枕木君」
そして、時間にして約一分ほど待つと、
先輩が戻ってきた。
「いいよって」
「誰に聞いたんですか?」
「お母さんだよ。枕木君なら、泊まってもいいよ〜ってさ」
「い、いやでも……」
先輩の提案はありがたいが、俺は少し悩んでしまった。
一日か二日程度ならともかく、
二週間も人の家に泊まるのは申し訳ない気持ちが強い。
「君が嫌なら無理強いはできないけど、そしたら枕木君は直るまで、どうやって過ごすのかな?」
「うぐ……確かに……」
そして俺が悩んでいると、先輩が悪魔のように囁いてきた。
「……僕の家に泊まったら、毎日僕と会えるよ」
「行きまぁすッ」
俺はその一言で、先輩の家に泊まるのを決めた。
「ふふ、枕木君はわかりやすいね」
「だって先輩が……」
「ふふふ、それより後でお母さんと君の家まで向かうから、持っていく服とかをまとめておいてね。それじゃあ」
そう言うと、先輩は電話を切った。
──先輩の家に泊まることになってしまった。
だが、先輩に毎日会えると言われてしまったのだから仕方ない。
俺は胸を高鳴らせながら、準備をした。
そして準備が終わったころ、
先輩が来た──。
「やあ、枕木君。準備は大丈夫かな? 忘れ物はない?」
「は、はい大丈夫です」
「ふふっ、じゃあ行こうか。お母さんが車で待っているからね」
俺が家を出ると、家の前に車が停まっていた。
その車の運転席を見ると、先輩のお母さんが見える。
……少し緊張してしまう。
そんなことを思っていると、
先輩に「ほら、早く荷物を後ろに乗せて」と言われてしまった。
そして荷物を乗せたあと、俺は車に乗った。
俺が車に乗ると、先輩のお母さんが話しかけてきた。
「あら〜遊星君、久しぶりね」
「あっ、お久しぶりです……すいません泊めてもらっちゃって……」
「いいのよ〜、遊星君が熱中症で倒れたりなんかしたら、マオが悲しんじゃうしね〜」
「そうだよ、だから気にしなくていいよ枕木君」
「ははは……」
そして、車は先輩の家に向かって走り始めた。
……先輩の家に泊まれて、しかも毎日先輩に会えるだなんて、
俺はこの先、平気でいられるだろうか──。




