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第43話 「海・下」

 そのあとも、俺たちは日が沈むまで沢山遊んだ。

先輩が倒れないか心配だったが、

体力をセーブしていたのか平気そうだ。


「もう夕方か」

「あら、それならそろそろ夜ご飯にしましょう」


 俺は竜崎のその言葉にときめいた。

なんとなく、高そうなご飯をご馳走してくれそうだからだ。


「ち、ちなみになんの予定なんだ……?」


 俺は期待で震えた声で、竜崎に聞いた。

俺の希望は、三つ星シェフの料理だ。


「焼きそばですわ」

「えっ」


 俺は思わず声が出てしまった。

焼きそばは嫌いではないが、

竜崎なら「この時のために、三つ星シェフを呼んでおきましたわ」と、

言ってきて、高い料理をご馳走してくれると思っていたせいだろう。


 ……いや、まだ三つ星シェフが作る焼きそばの可能性が……。


「それも自分たちで作りますわ」


 その言葉を聞いた瞬間、顔に落胆が出そうになったが、

なんとか耐えた。


「焼きそばを作るなんて、いいアイデアだね」

「でしょう? 先輩。では、シャワーを浴びて着替えてからキッチンへ来てください』


 そして、竜崎は一足先に別荘へ戻って行った。

そして、俺は竜崎がいなくなったのを確認して、

落胆を顔に出した。


 すると先輩が、

こちらを見ながら「ふふ、枕木君は分かりやすいね。焼きそば、美味しいよ」と言ったあと、

先輩も別荘へ戻って行った。


 焼きそばが美味しいことなど、俺だって知っている。

ただ、竜崎ならもっとなんか凄そうなものを……。

そんなことを思いながら、俺も別荘に行ってシャワーを浴びた──。


 浴びたあと、キッチンへ向かうと、

すでに二人は焼きそばの準備をしていた。


「やあ」

「どうも、先輩」

「ねえ、これを見てみてよ」


 そう言うと、先輩はあるものに向かって指を差した。


「これは……」


 先輩の指先にあったものは、キッチンだった。


「普通のキッチンですよね?」

「違うよ、これこれ」


 先輩がもう一度指を差したので、よく見ると、

そこにあるのは、テレビなどでしか見ない高級なお店にあるような、

鉄板焼き用の鉄板だった。


「もしかして……」

「そう、これで作るんですわ」


 急に竜崎が出てきた。


「鉄板で作った焼きそばを食べれるなんて楽しみですわ」


 ……確かに鉄板で作る焼きそばは楽しみだ。

普段は、フライパンかホットプレートでしか作れないし……。


「それに、食材もこだわりのものを選びましたから、きっと美味しいですわ」

「えっ、こ、こだわりのものって……?」


 俺が竜崎に食材のことを聞くと、竜崎がいろいろと話してきた。

大量に話してきてよく分からなかったが、

高い食材を用意したということは分かった。


 ……流石竜崎だ。

俺のテンションが上がっていくのを感じる。

すると、先輩がこちらを見てきた。


「ふふ、枕木君は分かりやすいね〜」

「な、なにがですか」

「なんでもないさ」


 俺の浅ましさが先輩にバレてしまったが、

そんなことより、今は焼きそばだ。


俺たちは三人で役割分担を決めた。

俺が焼く係で、先輩が食材を切る係、竜崎がセッティングや盛り付けだ。

そして、先輩が食材を切り終わり、俺は焼きそばを焼き始めた。


 ……いい匂いだ。

匂いを嗅ぐだけで、お腹が減ってくる。


 そして、焼きそばを焼き終わり、

竜崎が紙の皿に焼きそばを盛り付けた。

すると、竜崎がテーブルとは違う場所に焼きそばを運んでいった。


「あれ? テーブルはこっちだぞ」

「ええ、知っています。ただ、今日はこちらの方がいいと思ったのです」


 竜崎がそう言うので気になり、ついていくと、

バルコニーに出た。

……ここは海が見えて、とても綺麗だ。


「もしかして」

「ええ、ここなら海を見ながら食べられますわ」


 確かに、海を見ながら食べる焼きそばは美味しそうだ。

そんなことを思っていると、先輩もやってきた。


「おお、ここはとても眺めがいいね」

「でしょう? 先輩。では、熱いうちにいただきましょう」

「ふふ、そうだね」


 そして、俺たちは「いただきます」をしたあと、

海を見ながら、焼きそばを食べ始めた。

……とても美味しい。


 今まで食べた焼きそばで、一番美味しい気がする。

もちろん、竜崎こだわりの材料のおかげもあるだろうが、

一番は、みんなで作ったからだろう。


 そのあと、俺たちはあっという間に焼きそばを食べ終わり、

片付けを済ませ、迎えにきたリムジンに乗った。


「楽しかったね」

「俺も楽しかったです」

「ふふ、ならよかったです。私も三人での、この夏最後の思い出を作れて楽しかったですわ」


 その言葉に、俺は驚いてしまった。

まだまだ夏休みは続くのに最後……?


「最後ってなんだよ竜崎」

「実は私……」


 話を聞くと、竜崎は夏休み中ずっと、両親と海外旅行に行くらしい。

竜崎の両親は忙しく、なかなか竜崎と会えないので、

久しぶりに取れた休みで、竜崎と一緒に過ごしたいとのことらしい。


「確かに、それはご両親を優先した方がいいね」

「ええ、なので夏休み中はこれでさようならです」

「そっか……」


 俺は、なぜか少し寂しくなった……。

夏休み中、三人で過ごすことが多かったせいだろうか。

そんなことを思っていると、俺の家に着いた。


 どうやら、もう外は暗くて危ないから、

家まで送ってくれたらしい。


 俺は車から降り、運転手の人にお礼を言った。

すると、竜崎が乗っている部分の窓ガラスが下りた。


「さようなら、今日は楽しかったですわ」

「……ああ、俺も楽しかったよ。また夏休み明けにな」

「では、また二学期に」

「ばいばい、枕木君。またね」


 そう言うと、車は走っていった。

おそらく、次は先輩の家に向かうんだろう。


 ……なんだか少し寂しい。

夏休みの間、竜崎とお別れだからだろう。

ずっと三人で過ごしていたし……あっ。


 俺はその瞬間、あることに気づいた。


(竜崎がいないってことは……俺、先輩と二人きりじゃん! やばっ、テンション上がってきた)


 さっきまでの寂しい気持ちは吹き飛んでしまった。

俺の夏休みは、先輩と二人きりのここからが本番だ──。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

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