第41話 「海・上」
俺は今、海にいる。
それはなぜか……。
昨日──。
俺はグループチャットで、
先輩と竜崎と、夏休みにやりたいことについて話していた。
【竜崎】 「私は夏祭りに行きたいです」
【先輩】 「僕は山奥のコテージに行きたいな」
【まくらぎ】 「俺は海がいいです」
【先輩】 「それもいいね、僕も行きたいよ」
【竜崎】 「海なら行けますわ」
【まくらぎ】 「え?」
竜崎の話を聞くと、
竜崎の家は海沿いに別荘のようなものを持っているらしく、
そこの海へ行くのはどうか、という話だった。
【竜崎】 「そこなら、人も来ませんわ」
【先輩】 「それはいいね」
そのあと、いつ行くか話し合うと、
奇跡的に三人の予定が合ったので、
明日、竜崎の家へ集合し、そこから車に乗って行くことになった。
……先輩と海に行けると思うとワクワクしてしまう。
先輩の水着も楽しみだ。
前に買った水着を、今度こそ着てくれるだろうか。
そんなことを思いながら、その日は眠った……。
次の日──。
俺は竜崎の家へ向かい、家の門に着いた。
しかし、何度見てもデカくて立派な家だな、なんてことを思っていると、
竜崎がやってきた。
「あ、竜崎」
「来たわね、先輩はもう来ているから、もうすぐ出発よ」
俺は約束の5分前辺りで到着したが、
先輩はもう来ているなんて、
なんて早いんだ。
そして、そのまま俺は竜崎に車まで案内された。
これは……リムジンだろうか。
車体が長く、見た目も高級そうな感じだ。
中へ入ると、
内装は片側に長いシート、もう片側はテーブルで、
運転席との間にしきりがあった。
そしてよく見ると、先輩がすでに座っていた。
「やあ」
「あ、どうも先輩」
「このシートはいいね、ふかふかだよ。枕木君も早く座ってみて」
そう言われ、俺も座ってみると、
確かにふわふわで気持ちがいい。
こんないいものに乗れるのは、俺の人生で今日が最初で最後だろう。
そして、竜崎も座って、
俺たちは海へと向かい始めた──。
「海が楽しみだね」
「先輩に似合う、とても綺麗な海ですわ」
「ふふ、ますます楽しみだよ」
……竜崎と先輩が楽しそうに会話している。
俺だって先輩と会話したいのに……。
思い返せば、いつもこんな感じな気がする。
竜崎は話すのが上手いし、
実際、クラスでも人気者だ。
それに比べて俺は、
ただの陰キャ野郎だ。
こんなのと話しても面白いはずがない。
……まだ出発したばかりだというのに、
気分が落ちてきてしまった。
すると、先輩がこちらを見てきた。
「君はすぐ落ち込んでしまうね」
「いや……そんなことは」
「君と話すのも楽しいよ、だから元気を出して」
「そうですわ」
「先輩……あと竜崎……ううっ」
俺は嬉しくなって、
俺もいっぱい、いっぱい話した。
心なしか、二人とも愛想笑いのような表情をしていたが、
きっと気のせいだろう。
そんなことを考えていると、
車が止まった。
どうやら、目的地に着いたらしい。
俺たちは運転手の人にお礼を言い、
そのあと、海沿いの別荘へ入った。
……この別荘も、
とても綺麗で、とても高そうだ。
内装は新しく、
竜崎の家は、歴史のありそうな感じだったが、
この別荘はモダンな感じだ。
「綺麗だね」
「ふふふ……」
竜崎が嬉しそうな顔をしている。
先輩に褒められたのが嬉しかったのだろうか。
「では、こちらへ来てください。もっと綺麗なものが見えますよ」
そう言われ、俺と先輩が竜崎に着いていくと、
そこは壁一面が窓で、海が見える部屋に着いた。
その海は、とても澄んでいた。
「この海こそ、今日の目的ですわ」
「お〜、見てるだけで感動してしまうよ」
「ですね、先輩」
「では、更衣室に案内するので、そこで着替えて海へ行きますわ」
そのあと、俺は竜崎に案内され、更衣室に入った。
……ついに先輩の水着が見える。
正直、俺は海に行きたいのではなく、先輩の水着が見たいのだ。
そして、着替えが終わり、海へ行くと、
竜崎がすでにいた。
「あれ、先輩は?」
「まだですわ」
「そっか」
……気まずい。
やはり先輩以外と二人きりだと、
俺はなにも話せない。
そんなことを思っていると、
先輩がやってきた。
「やあ、少し遅くなってしまってごめんね」
「いや、全然気にして……」
先輩をよく見ると、
それは俺が前に、先輩と一緒に買ったものだった。
肩とおへそが出ていて、パレオがついている。
何度見ても素晴らしい水着だ。
「その水着、とても可愛らしいですわっ」
竜崎のテンションが上がっている。
まあ、それも当然だろう、
この水着は俺が先輩に似合うと思って選んだものなのだから。
「ふふ、これは枕木君が選んでくれたものだからね」
「え……」
さっきまで高かった竜崎のテンションが、
一瞬で下がり、砂浜に手をついて倒れた。
そして、目を大きく開いて、俺を見てきた。
「はは、悪いな竜崎」
「そ、そんな、あいつとも水着を選んでいたなんて……」
「え?」
「枕木君だけと行くのも可哀想だからね、実はりゅりゅとも後で行っていたのさ」
「なんですかそれ!? 先輩の浮気者っ」
「まだ付き合っていないよ」
それを聞いた俺は、竜崎と同じく、
砂浜に手をついて倒れた──。




