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第40話 「回転寿司」

 朝、俺が特に予定もなく、

家でゴロゴロしていると、

急に先輩から電話がかかってきた。


「急にすまないね」

「なんですか」

「枕木君、今日のお昼、回転寿司に行かないかい?」


 先輩が急に誘ってくるなんて珍しい。


 話を聞くと、回転寿司が先輩の好きな作品とコラボしているらしく、

コラボメニューを頼むとグッズがついてくるので、

俺にもメニューを頼んでもらって、

目当てのグッズをゲットしたいらしい。


「どうかな?」

「俺はいいですけど、竜崎も誘った方がいいんじゃないですか? あいつ、多分めちゃくちゃ大食いだから、いっぱいコラボメニュー食べれると思いますよ」

「聞いたけど、りゅりゅは予定があるみたいだから、今回は二人きりだね」


 それを聞いた瞬間、俺は舞い上がった。

二人きりなのが嬉しすぎて、俺は奇声をあげてしまった。


「大丈夫かな? 枕木君」

「え、あ、すいませんなんでもないですよ」

「ふふっ、そしたら12時にお店で集合しようね」


 そして、電話が終わり、

 俺が「12時集合か……今は何時だ?」と時計を見ると、

9時20分だった。


 これなら準備する時間はたっぷりある。

なにしろ今日は二人きりなのだから、

これは実質デートと言っても過言ではない。


 俺はタンスとクローゼットの中をひっくり返すように、

今日のための服を探し始めた。


(スーツは少し堅すぎるか……? 他にいい服は……)


 ……俺が部屋を服でぐちゃぐちゃにするまで探して気づいたことは、

俺はいい感じの服など持っていないということだった。

俺は服は諦めていつも通りにし、

他の部分で補うことにした。


 俺は着替えたあと洗面所へ行き、

歯磨きを済ませたあと、

鏡と睨めっこしながら髪をセットしていた。


その後、スマホで調べた髪型にセットできたが、

すぐに崩れてしまった。

何回やっても崩れてしまうので、もう一度調べると、

どうやら固めるためにワックスが必要らしい。

 

 ……が俺はワックスを持っていなかった。


(服もダメ、髪もダメ、俺はもうどうしたら……ん?)


 スマホの画面をよく見ると、

画面には11時45分と表示されている。

待ち合わせは確か12時だ……。


 それに気づいてしまった俺は、

目の前が真っ白になってしまった。

まさか服を探したり、髪をセットしようとしただけで、

こんな時間になってしまうなんて。


 俺は慌てて家を出て、

先輩と待ち合わせているお店へ向かった──。


そして12時──。


「おや、ちょうどだね」

「す、すいません。ち、ちょっと慌てちゃって……」


 なんとか間に合ったが、急いできたせいで、

息も絶え絶えで、少し汗もかいてしまった。

これからデートだというのに、最悪なスタートだ。


「ふふ、枕木君らしいね。じゃあ行こうか」


 回転寿司は先輩が予約してくれていたらしく、

夏休みの昼時なのに、

待つことなくスムーズに入ることができ、

俺たちは席に座った。

先輩は段取りがいい。


「じゃあコラボメニューを頼もうか」


 俺はその一言で目的を思い出した。

そういえば、先輩はコラボグッズが欲しいんだった。


「あ、そうですね」

「もしかして忘れてたのかな?」

「い、いやそんなことは」

「ふふ、まあ頼もうか」


 そして、先輩はコラボメニューのお寿司を二人分頼み、

コラボドリンクも二人分頼んだ。


「楽しみだね、枕木君」

「はあ」


 俺は先輩と二人きりなのが嬉しいのであって、

別にそのコラボメニューとかはどうでもいい。


「……」


 まずい。

先輩に顔を見られてしまった。


「ふふ、君は正直で面白いね」


 どうやら、怒ってはいないらしい。

しかもなぜか、少し笑顔になった。


「はは……そ、そうだ、俺もなにか頼もうかな……」


俺がタッチパネルでお寿司を注文しようとすると、

ちょうどコラボ寿司が届いて、

注文できなかった。


 そして俺はレーンから皿を取り、

先輩に一皿渡し、

もう一皿を俺の方へ置いた。


 ……コラボ寿司とは言うが、

見た目は普通のお寿司だ。

違うところと言えば、

お皿にコラボステッカーの入った袋がついているくらいだ。


「先輩、もしかしてこのコラボ寿司……」

「うん、グッズがついた普通のメニューだよ」


 なぜか、少しガッカリしてしまった。

せっかくなら、作品にちなんだ味にしてほしい。

そんなことを考えていると、ドリンクも届いた。


「はい、枕木君のだよ」

「あ、どうも……先輩、もしかしてこれも……?」

『グッズがついた普通のドリンクだよ』


 コラボの作品に興味があるわけではないが、

また、ガッカリしてしまった。


 ……だが、普通に美味しいので、

俺はそのことは水に流すことにした。


「ふう、食べ終わったね。そしたら、ステッカーの袋を開けようかな」


 先輩が目を輝かせながら、ステッカー袋を開けている。


「先輩、狙いとかあるんですか?」

「ん〜、このキャラのステッカーかな」


 そう言うと、先輩はスマホでそのキャラを見せてくれた。

そのキャラは、高身長でロン毛のメガネキャラで、

顔は大人っぽく、凛々しい。

なんというか、女性向け作品にいそうだ。


「僕はこのキャラが好きなんだ」

「ほ〜」


 このキャラが好きということは、先輩の好きなタイプもこいつなのだろうか。

だとしたらまずい、俺とこいつは似ても似つかない。

……髪を伸ばしてみようか。


「ふふ、枕木君は今のままでいいよ」

「な、勝手に顔見ないでくださいっ」


 先輩がこちらを見てニヤけている。

俺は恥ずかしくなって、両手で顔を隠した──。


 そのあと、先輩はお寿司とドリンク、

合わせて四つのステッカー袋を開けた。


「出ました?」

「ううん、出なかったよ」

「そうですか……じゃあまた頼みましょうか」

「……そうだね」


 そして、俺たちはその後もコラボメニューを頼んだ。

だが、先輩の目当てのステッカーは出なかった──。


「で、出ましたか? 俺、もうお腹いっぱいでこれ以上食べれないです」

「はあ、出なかったよ。僕もお腹いっぱいになってしまったし、そろそろお会計しようか」


 そして、俺たちは目的を果たせないまま、お会計をした。

俺が食べた分のお金を出そうとすると、

先輩が「僕が誘ったんだから、僕が払うよ。先輩だしね」と言って、

奢ってくれた。


 お店を出ると、俺は落ち込んでしまった。

先輩が目当てのものを手に入れることができなかった。

俺がもっと食べられていれば……。


 そんな風に俺が落ち込んでいると、

先輩が笑った。


「な、なんですかあ」

「枕木君は優しいなって、手に入らなかったのは君のせいじゃないのに」


 ……先輩を見ると、当たらなかったのに結構元気そうだ。

なぜか、俺の方が落ち込んでいる。


「せ、先輩はなんでそんな落ち込んでないんですかあ」

「ん? 確かに当たらなかったけれど……君と二人きりで過ごせたからね。それだけで十分さ」


 その言葉を聞いて、俺は嬉しくなった。

先輩が俺と二人きりで過ごすことを、そんな風に思っていたなんて。


「先輩……先輩っ」


 俺は思わず、先輩に抱きついてしまった。

先輩も少し困惑している。


「ふふ、苦しいよ枕木君」

「す、すいません」


 俺は慌てて先輩から離れた。


「でも、嬉しかったよ」


 そう言うと、今度は先輩が俺を抱きしめた。


「ふふ、お返しだよ」

「先輩……」


 そのあと、先輩は手を離してこう言った。


「今日はありがとうね、枕木君。じゃあまたね」


 そして、先輩は帰っていった。

目当てのステッカーが出なくても、俺と二人きりで十分という、

その事実に、俺は嬉しくなった──。


次の日──。


 先輩から電話がかかってきた。


「やあ……枕木君……」

「ど、どうしたんですか先輩、いつもより声が小さいですけど、なんか嫌なことでも……」

「……今日も回転寿司に行かないかい……?」

「は、はい?」

「ステッカーが出なかったから……元気が出ないんだ……」


 ……どうやら俺と二人きりで過ごすだけでは、

十分じゃなかったらしい──。 

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