第30話 「枕」
ある日曜日。
「明日は学校か」なんてことを考えていると、
先輩から急に電話がかかってきた。
『やあ、枕木君』
「急になんですか先輩」
『明日、君の写真が欲しいんだ。できれば、一人で写ってるものがいいな』
「はい?」
話を聞くと、枕の下に相手の写真を入れると、
その人が夢に出てくるという、おまじないを試したいらしい。
「それ俺じゃなきゃダメですか?」
『うん、君が夢に出てきたらいいなって』
「……ま、まあそんな先輩が、俺のこと好きなら仕方ないですね」
『ふふっ、枕木君は分かりやすいね』
「ん?今なんか言いました?」
とにかく、俺は電話のあと写真を探し、
ちょうど、一人で写ってる写真を見つけた。
そして次の日の朝──。
「はい、どうぞ」
『わあ、助かるよ枕木君。じゃあこれ』
そう言うと、先輩は鞄から自分が写った写真を取り出した。
その写真にはピースしている先輩が写っていた。
とても可愛らしい。
『僕だけが写真を貰うのも忍びないからね、これで君も試してみて』
「ど、どうも」
俺は受け取った写真を鞄にしまった。
『じゃあまたね、枕木君』
そうして先輩は教室へ行き、
その日はそれで終わった。
そして夜、俺は寝る前に写真を鞄から取り出し、
枕の下に置き、その日は眠りについた──。
『残念だよ、枕木君』
先輩の声が聞こえてくる。
「……え、なんですか先輩」
俺が周りを見回すと、そこは檻の中だった。
先輩は檻の外から、俺に話しかけてきているようだ。
『君が僕のことしか考えていなくて、テストで最下位になるなんてね』
「い、いや、なんで俺は檻の中にいるんですか」
『この学校ではテストで最下位の人は処刑されてしまうんだよ、さようなら枕木君』
そう言うと、先輩は遠くへ歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」
俺がどれだけ声を出そうとも、
まるでなにも聞こえていないかのように、
先輩は俺から離れていく。
「先輩、先輩〜ッ!」
──ジリリリリと目覚ましが鳴っている。
どうやらあれは夢だったらしい。
夢のせいか、胸の鼓動が止まらない。
確かに夢に先輩が出てきはしたが、
こんな悪夢なら出てこない方がマシだ。
俺は写真を急いで枕の下から取り出し、
近くの机に置いておいた。
そのあと支度を済ませ、
学校へ向かった。
『やあ、どうだったかな』
「先輩……よかった、あれが現実じゃなくて……」
先輩が不思議そうな目で見つめてきたので、
俺は夢のことを話した。
『ふうん、それは災難だったね。安心して、最下位でも処刑なんてされないからね』
「それは知ってますよ……それより、先輩がいなくなってたらどうしようって……」
俺が夢のことを思い出し、うつむいていると、
先輩が俺の頭を優しく撫でながら、励ましてくれた。
『大丈夫だよ、僕が君から黙っていなくなるなんてことはしないさ』
「先輩……」
『はあ、でもおまじないは残念な結果で終わってしまったね』
そう言ったあと、先輩は顎に手を当て、
考えているような、素振りを見せたあと、
なにかを閃いた表情になった。
『……ねえ、枕木君。もう一回だけ試してみないかい?』
「え、また悪夢みたら嫌ですよ」
『今度は写真じゃないよ、僕のお腹を枕にして寝るんだ』
「はい?」
先輩が言うには、写真で夢に出てきたのだから、
自分を枕にすれば、もっと夢に出てくるはず。
そして、枕より自分のお腹で寝た方が気持ちいいと思うから、
良い夢が見られるはず、ということらしい。
正直、めちゃくちゃな理論な気がするし、
悪夢を見たせいで少し迷ったが、
それを踏まえても、先輩のお腹で寝れるのは嬉しいので、
俺はその提案に頷いた。
『ふふ、じゃあまた放課後ね』
「はい、先輩」
そして放課後──。
俺は先輩を家に招き、
二人で部屋へ入った。
『じゃあ、やろうか』
そう言うと、先輩は俺のベッドで仰向けになった。
『おいで』
俺は先輩に吸い寄せられるように、
ベッドへ向かい、先輩のお腹に頭を乗せた。
『どうかな?』
「柔らかくて、確かにいつもの枕より気持ちいいです」
俺がそう言うと、先輩は嬉しそうに微笑んだ。
「そういえば、なんで膝枕じゃなくてお腹なんですか」
『膝枕は前やったからね、それよりほら、早く寝ないと』
「ですね、おやすみなさい」
『おやすみ、枕木君』
そのまま、俺は目を閉じた──。
『ふふっ、今日は楽しかったね枕木君』
先輩の声がしたので、周りを見ると、
どうやらここは観覧車の中らしい。
外は暗くなっていて、
中には俺と先輩、二人きりだ。
『初めてのデート楽しかったね』
「えっ」
デートという言葉に、
思わず驚いてしまう。
『えっ、てなにかな?もしかして楽しくなかったのかな?』
「い、いやそういう訳じゃ……」
『ふふ、なんてね。君がこういう時に言葉が詰まってしまうのは知っているさ』
そのあと、少しの間を置いて先輩が口を開いた。
『ねえ、枕木君。デートの最後に、したいことがあるんだけどいいかな』
先輩は席を立って、俺に近づいてくる。
「な、なんですか」
『枕木君、僕を見て』
そう言うと、先輩は顔を近づけてきた。
「せ、先輩、これって……」
『いいから』
先輩はさらに顔を近づけてくる。
もしかして、これはキスだろうか。
それに気づいた瞬間、胸の鼓動が高まっていく。
先輩と唇が触れ合うことを考えただけで、心臓が破裂しそうだ。
『好きだよ、枕木君』
そう言いながら、先輩は俺の頭に優しく手を添えた。
『ねえ、する前に聞いてもいいかな』
「な、なんですか……?」
『枕木君は僕のこと好き?』
「す、好きです」
『もっと……大きな声で言ってほしいな』
「……お、俺は先輩のことが……」
『僕のことが?』
「大大大好きです!!」
──気がつくと、天井が見えた。
いつもの……見慣れた俺の部屋の天井だ。
『起きたね、枕木君』
「せ、先輩」
『どうだったかな?いや、聞くまでもないかな』
「へっ?」
どうやら俺は「好きです」と言いながら飛び起きたらしい。
かなり恥ずかしい。
『突然、君が大きな声で言うからビックリしてしまったよ』
「すいません……」
『ふふ、それで、どんな夢だったのかな』
「そ、それは秘密ですっ」
先輩がニヤついている。
もうどんな内容だったか察されていそうだが、
一応、俺の口からは言わないことにした。
『まあ、言いたくないなら大丈夫さ。さて、おまじないも成功したし、僕はそろそろ帰ろうかな……おや』
「どうしました?」
先輩の視線の先にあったものは、
俺が朝、机に置いておいた先輩から貰った写真だった。
『この写真は悪夢になってしまって、縁起が悪いし、僕が貰っていくよ』
「その……俺はその写真、欲しいです」
確かにその写真を枕の下に置くと、悪夢になってしまったが、
俺はそれでも、この写真に罪は無いと思うし、
なにより、先輩の写真は美しいし、せっかく先輩から貰ったので、
俺は先輩に、写真は手元に置いておきたいと伝えた。
『……そっか、なら置いておくよ。君がそんなに思ってくれているなんて嬉しいしね』
「ありがとうございます、先輩」
『ふふ、じゃあ僕はそろそろ帰るとするよ。またね枕木君』
そして俺は玄関まで見送り、先輩は家へ帰っていった。
……最初は悪夢だったが、最後は先輩のおかげで、
いい夢を見ることができたし、いいおまじないだった──。
後日──。
「そういえば先輩、先輩は夢に俺出てきました?」
『そもそも夢を見なかったよ』
「えっ、いやいやおかしいですよね!?」
『まあ、君の写真は夢を見ないくらいよく眠れるということさ』
いい感じに誤魔化されたが、こんなの納得できない──。
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